十四話 悪に!正義が負けたんだ!
十四話です
工藤康 元サラリーマン 現無職
高木一 元政治家 現無職
掛布雅 元? 現?
秋山慎吾 元? 現?
鈴木健太
その言葉に、ここにいる全員が驚いた。
「金田勝って・・・・・・本当なんですか!高木さん!」
「本当だよ。金の流れに違和感を持った俺は、調べることにしたんだ。そこで政界の裏のしっぽをつかんで、金田が首謀者ってことを知った」
みんな、驚きを隠せない様子だった。
高木はそのまま話を続けた。
「正直驚いたよ・・・・・・あいつが主犯だったなんてな。金田を呼び出して実際に問いただすと、あいつ・・・・・・笑ったんだよ」
「笑った?」
「余裕なんだよ。おかしいだろ?国を動かす政治家が罪を犯しているんだぞ。これが世間に知れ渡れば大事件だ。ましてや財務大臣、国民からの信頼が崩壊するのが目に見えている」
なのに・・・・・・と、高木は続ける。
「金田は笑い出して、俺に余裕の表情を見せつけたんだ」
『何も問題はない』と、言っているかのように・・・・・・。
「俺はもちろん、この事を公表しようとした。だけど・・・・・・」
「だけど・・・・・・どうしたんだ?」
掛布が聞いた。
「俺もまだ、新米だったってことさ。金田が、バレた時の対策を準備していないはずがなかった」
「邪魔をされた・・・・・・ってことですか?」
私の問いに高木はあっさり答えた。
「邪魔されたくらいなら、こっちにだって対抗できるほどの力はある」
「じゃ、じゃあ何が・・・・・・?」
「押さえつけられた・・・・・・でしょ」
高木が言う前に、秋山が言った。
「え?」
「暴力団といったところでしょうか?」
「ぼ、暴力団って・・・・・・政治家ですよ?そんなやつらと手を組むわけなんて・・・・・・」
「そうだよ」
「ええ!」
高木の返事に私は驚いた。
「まさか、そこまで落ちていたとはな・・・・・・」
「村長は、暴力団を知っているんですか?」
村長の言葉に私は聞いた。
「ある程度の知識はある。わからないことがあったら聞くからその時は説明をたのむぞ」
「あ、はい。わかりました」
「それで、どのように押さえつけられたというのかの?」
「そのまんまの意味だよ。押さえつけられ、地面に叩きつけられたよ。顔はまずいからと、体を殴られ痣もたくさんできた。『誰かに喋れば、これでは済まさんぞ』ってお墨付きさ」
「・・・・・・」
高木の言葉に、誰も・・・・・・何も言えなかった。
「当時は強気だったからな、覚悟のうえで公表するつもりだった。だけどその夜、殴られたところの痛みと同時に・・・・・・恐怖が湧いたんだ」
高木は、殴られたところであろう腹部に手を添えていた。
「それから少し経ち、俺は・・・・・・野村忠勝のむらただかつ総理に相談することにしたんだ」
「野村総理に・・・・・・」
「忙しい中、俺みたいな新人政治家になんとか時間を空けて会ってくれたことにはすごく嬉しかった。そこで俺は、政界の裏の話をし、金田が首謀者であることを話した」
だけど、現実は残酷だった。と、高木はうつむき言った。
「・・・・・・知っていたんだよ」
「知っていたって・・・・・・まさか!」
「野村総理は、知っていて何もしなかった。見ていないフリをしていたんだ・・・・・・」
「はあ⁉なんだそりゃ!それが総理のすることかよ!」
高木の発言に、掛布が怒りを見せ始めた。
「総理も、金田に押さえつけられていたのでしょうか?」
「それはわからないけど、たぶん・・・・・・そうだと思う」
「・・・・・・」
「金田は、それを見ていたんだろうな・・・・・・。それから毎日のように、悪質な嫌がらせを受けた。家を荒れされ、殴り込みにもきた。他にもたくさん・・・・・・。俺は耐えた、けど・・・・・・それが一か月、半年一年続いた。もう、耐えられなかった・・・・・・」
「・・・・・・」
「おい、それでいいのか?」
私が何も言えずにいる時、掛布が言った。
「・・・・・・」
高木は掛布を見ず、うつむいたままだった。
「期待の新人政治家って言われてたお前が、そんな金の事しか考えてないクズみてぇな奴らにやられるだけやられて・・・・・・お前はそれでよかったのか・・・・・・!」
「いいわけないだろッ‼」
掛布の言葉に、高木はのどが潰れるほどの大きい声で返した。
私たちは高木の怒りの満ちた表情に、声に驚き、何も言えなかった・・・・・・。
「いいわけ・・・・・・ないだろ・・・・・・・・・・・・」
「高木さん・・・・・・」
「俺は、あんなクズ野郎たちにやられるだけやられて・・・・・・耐えられなかった・・・・・・負けたんだ。俺は負けたんだよ!悪に!正義が負けたんだ!」
そして高木は言った。
「死のうと思ったのは、この国に幻滅したからじゃない。こんな自分が・・・・・・情けなかったからだ」
「・・・・・・」
高木の悔しがる姿に、私はなんて声をかければいいのかわからなかった。
自分より過酷で、残酷な人生を送ってきた人に、あれこれ言える義理じゃないと思ったからだ。
高木もそう思うだろう。
私みたいな、自分よりひどい人生を送って来ていない人に何か言われたら、腹が立つだけだ。
『お前に何が分かる』『知った口で言うな』
そう言われるのが当然だろう。
だから誰も、高木に声をかけられなかった。
一人を除いては・・・・・・。
「のう、高木よ・・・・・・」
村長が言った。
「それでも、お前は・・・・・・生きているではないか」
「・・・・・・ああ、そうだな。俺は生きてるよ」
高木は皮肉のように言った。
「その延びた命は、偶然だと思っているか?それとも必然か?」
「さぁね、どっちでもいいさ。そんなこと・・・・・・」
「答えろ」
村長の真剣な表情に、高木は一瞬驚きを見せた。
「お主の中では、答えが出ているはずじゃぞ」
「・・・・・・」
「お主の目に、未練が残っておる。そうじゃろ?」
「・・・・・・ああ、そうだよ。未練たらたらだよ」
高木は答える。
「なら、お主の延びた命は・・・・・・必然じゃな」
「・・・・・・?何故そう言える?」
「なーに、簡単なことよ」
村長はさも当然かのように言った。
「死んでも死にきれん。そういうことよ」
「・・・・・・は?」
「あの、村長・・・・・・ちょっと意味がわからないんですけど」
村長以外、みんな理解していないようなので聞いてみた。
「なに?お主らわからぬのか?」
村長はそう言ってため息をついた。
「高木は、その未練がましい気持ちのせいで、まだ死にきれないってことよ」
「はあ、それと必然が、どういう関係になるんですか?」
「あーっと、今の言葉で言う以心伝心ってやつじゃ」
「え、以心伝心?」
「工藤と高木がしたコイン勝負。あれは、お互い気持ちが一緒だったということじゃ」
「一緒って、高木さんも・・・・・・表になってほしいと願っていたってことですか?」
「そういうこと。思いが通じ合えば、偶然に見えるが、それは必然になるんじゃよ」
その思いが強ければ強いほどな。と、村長は言った。
「高木さん・・・・・・」
「やめてくれ、俺はそんな信頼とか友情ぶったものは好かん。ましてや、そんな奇跡みたいなこと・・・・・・」
高木は、村長の言ったことを否定した。
「まあ、別に信じなくてもいい。所詮は戯言のようなものだ」
「え、戯言・・・・・・?」
「ただこれだけは言っておく」
私の言葉は無視され、村長は言った。
「死のうとして、生き延びた命だ。悔いの無いよう・・・・・・死ぬ気で動け。よいな?」
そう言って、村長は微笑んだ。
「・・・・・・わかったよ。やってやるさ」
高木は渋々答えたように見えるが、目だけはやる気に満ち溢れていた。
読んでくれてありがとうございます!
今回は高木メインって感じでしたね(; ・`д・´)
感想やアドバイスなどなんでもかまいません。
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よければ次話も是非読んでってくださいm(__)m