十話 ここが『死町村』です
やっと十話です!
祝♪
当然、信じてもらえなかった。
挙句の果てに、高木さんは怒って帰ろうとする始末だった。
帰ろうとする人を、三十路の男性が抱き着いて必死でとめている様は、なんとも言葉にできない光景だろう。
何度も正直に話したが、結局・・・・・・信じてもらえなかった。
だから私は言った。
「なら、証拠を見せましょう!」
そう言って、長いようで短かったこの集まりは終わり、ひとまず解散となった。
全員連絡先を交換し、後日日程を合わせて行くことにした。
とは言うもの、不思議とやる気に満ち溢れていた私はすぐに行動を開始し、全員が空いている日を合わせて行く予定を、解散して六時間で済ませた。
「別に威張るほどでもないだろう。なんせみんなフリーターなんだしな」
私の行動力を自慢したつもりだったが、あっさり高木に否定されてしまった。
「工藤さん、本当に・・・・・・ここを行くんですか」
「ああ、うん。そうだよ。この奥にあるんだ」
「その・・・・・・お前の言う死町村っていう村がか?」
「はい、みなさんに信じてもらうにはこれが一番。百聞は一見に如かず。です」
健太と掛布の質問に私は答える。
「ふーん」
あの集まりから二日後の土曜日、私たち五人は富士の樹海にきていた。
私の話をみんなに信じてもらうために。
私は初めてここに来たときと同じスーツで来ていたのだが、四人は樹海に入ると言ったからだろう、ちゃんと動きやすい服装だった。
高木と健太はジャージ、掛布は作業着、秋山は趣味でサバゲ―でもしていたのだろうか、迷彩のズボンにブーツ、黒いTシャツだった。
「さっ、行きましょう」
そう言って、私が先頭になり富士の樹海に歩を進めた。
「工藤さんは、どうしてここで死のうと思ったんですか」
「け、健太くん。唐突にキツい質問してくるね・・・・・・」
「え、あっ!す、すいません!」
健太はすぐに謝った。
「ああ、いいよいいよ。気にしてないし」
(もちろん気にしている)
「まあ、単純にここが自殺の名所だからってだけだよ・・・・・・。ああ、そうそう。一度は来てみたかったっていうのも一つの理由かな。こんなところ、簡単に足を運べるところじゃないからね」
週に二回きた人が何言っているんだと、自分でつっこむ。
「しっかし、さすがは自殺の名所だな。薄暗くて気味が悪い」
確かに、まだ昼前というのに、老い老いしいが立派にそびえ立つ木々は空を覆い尽くし、私たちの周りを薄暗く感じさせる。
私は二度目だからそんなに気にならなかったが、四人は樹海の不気味さに驚きを隠せていなかった。
「それで、その村にはどのくらいかかるんだ?」
秋山が聞いた。
「えっと、そんなにかからなかった・・・・・・はず」
「はず?」
「女の子を追っかけている時に偶然見つけたんですよ。だから正確な場所とかはわからないんです。目印とかもつけてないですし」
「工藤・・・・・・」
高木が歩みを止め、がっかりしたような声で言う。
「す、すいません。勢いでみなさんを誘ったのに、大ざっぱな案内をしてしまって・・・・・・」
「工藤さん」
「ん?」
「そっちじゃなくて、その・・・・・・女の子を追っかけているって」
「え・・・・・・あ」
健太の言葉に、私は気づいた。
みんなを見ると、冷たい目で見られていた。
「いや、あの、歩いている時に女の子を見つけてですね、声をかけようとしたらあっちも気づいて、逃げ出したもんだからつい追っかけただけなんですよ!だって不自然じゃないですか、こんなところに女の子が一人でいたら・・・・・・ねえ」
少しの間、何とも言えない沈黙があったが
「・・・・・・まあ、確かにそうだよな。もし俺も工藤と同じ立場だったら、同じことをしていたと思う」
掛布の言葉にみんなは納得し、ホッとした。
「さ、さあ、気を取り直して行きましょう」
そう言って、また歩き始めた。
「・・・・・・」
こうやって、みんな付いて来てくれているが、常に私を疑っていることはわかっている。
それは仕方ない。
まさか樹海に村があるとは誰も思っていないだろう。
そこで私が、みんなを村に案内すれば疑いは晴れる。
少しずつでいい、少しずつみんなが信頼しあい、仲間意識を持つことが最優先だ。
それから日本を救う方法をみんなで考えよう。
時間がないわけではない。
むしろ腐るほどある。
けど、自殺をしようとしている人は現在進行形で増えているのが現状だ。
だからできるだけ急ぐべきなのだ。
しかし、失敗は許されない。
安全かつ急ぎ、完璧な計画をつくるのだ。
私は歩きながら今後の事を考えていた。
だけど、それとは別に一つ不安があった。
「・・・・・・」
迷っていることだ。
まあ、もともと迷っていることに変わりはないのだが、前回訪れた感じで適当歩いたらなんとか着くだろうと甘く見てしまった。
何か覚えのある目印みたいなものがあれば良かったのだが、ここは樹海だ。周りは木だらけ、どこも同じ景色に見える。
どの方角に村があるのか、こんなに広い樹海の中であの小さな村を見つけるのは非常に困難だ。
まずい、非常にまずい。
どうする?
みんなに話すか?
それこそ信頼が一気に崩壊する。
どうする・・・・・・どうする!
みんなに悟られないように必死で考えていると
「工藤・・・・・・さん?」と、そこで四人とは違う、別の人に声をかけられた。
私は声をかけられたところを見る。
「あっ!やっぱり工藤さんでした!」
「あ、君は!」
私に声をかけてきたのは、あの女の子だった。
「どうしたのですか?一週間も経ってないのに帰ってくるなんてびっくりしましたよ」
「あ、ああ、ちょっとね。君もどうしたの?ここから村まで結構遠いでしょ?離れすぎたら危ないよ」
全然わからないのだが、勘で遠いとか言ってみる。
「それは心配いりません。ここにきてもう長いですから、迷子になんてなりません」
「あ、そうなんだ」
「今は薪集めと、工藤さんがまた来た時に迷わないように目印をつけていたところです」
そう言って、背中に積んでいる薪と目印用の布を見せた。
「おお、お疲れさん。えらいぞ」
褒められて、彼女は嬉しい顔をして喜んだ。
「なあ、工藤」
掛布が言った。
「こ、この人が、お前の言っていた・・・・・・」
「ああ、はい。幽霊です」
「ほおー」と、四人は感心し彼女を見るが、怖がってしまい私の後ろに隠れた。
「あ、あんまり怖がらせないでくださいね」
「あ、いや、そんなつもりはなかったんだけど・・・・・・すまん」
秋山は謝りながらも、彼女をチラチラと見た。
「工藤さん、このお方たちは?」
彼女は震えながらも私に聞いた。
「ああ、紹介するよ。私の仲間だよ」
「仲間・・・・・・ですか?」
「そう、仲間。ここじゃなんだし、村に案内してもらえないかな?この人たちに、村を紹介したいんだ」
「あ、はい。わかりました」
彼女に村を案内してもらうことになり、なんとか助かった。
私たちは彼女に、これまでの経緯を話しながら村へと向かった。
彼女は私の話を聞いて、とても喜んでくれていた。
どうやら、村の中では私が放り投げて逃げ出すだろうと話をしているらしい。
少しショックを受けたが、考えてみれば当然だろうと自分の中で結論付いた。
日本を救うなんて、ぶっちゃけ馬鹿だろって思うし・・・・・・。
そして歩くこと約二十分。
私たちは村に着いた。
「ここが・・・・・・村か」
「はい、そうです」
高木の言葉に私は答えた。
「ここが『死町村』です」
ありがとうございました!
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