一話 死ぬ気があるなら死ぬ気で動け
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これからも書いていきたいので勉強しながら頑張りたいと思います。
よろしくお願いします。
死ぬ気があるなら、死ぬ気で動け
これが、私の生きてきた人生の中で最も心に染みた言葉だ。
死ぬ気ってことは、死ぬ勇気ってことになる。
まあ、言うなれば私は一度死のうとした自殺志願者だ。
生きる意味をなくし、生きる目的を失ってしまった。
生きる希望が持てず、自分を殺そうとした。
そんな私だからこそ、この言葉にはとても深い意味があると感じる・・・・・・。
死ぬ勇気があるなら、死んでも良い気持ちで動け。
普通の人からしたら「なんて無謀な言葉なのだろう」「馬鹿みたい」「頭がおかしい」と思うかもしれない。
だけど私は、この言葉に人生を救われた。
真っ暗な未来に、光が見えた。
自分自身を殺そうとしていた私が、もう一度頑張って生きようと思った言葉だった。
この言葉に誇りを持って、私は・・・・・・。
日本の首都、東京。
私はそこでサラリーマンとして十二年間働き続けていた。
高校卒業後、一度浪人をして大学に進学。
それからも地道に学力に励み、東京の会社に就職した。
何も不満は無かった・・・・・・。
給料には満足していたし、仕事に関しては申し分なかった。。
私の人生は自分で言うのもなんだが、順調だった。
一本のレールを真っ直ぐ進むかのように順調で予定通りだった。
充実した人生設計をおくっていたはずだった・・・・・・。
だけど、一本のレールはなんの前触れもなく脱線したのだ。
十月、ジリジリとした炎天下の夏が終わりを迎え、秋がくる季節の変わり目として少しずつ涼しくなってきた。仕事をしているサラリーマンは長袖に衣替えをし、歩道に植えられている木が緑から綺麗な紅葉にかわる時期。そんなある日、いつも通りに会社に来た私は部長に呼ばれた。
「部長、話ってなんでしょうか?」
「ああ、工藤くん。実はな・・・・・・いや、遠まわしに言っても何も変わらない。単刀直入に言おう」
「はい?」
「君はクビだ。今日からもう来なくていい・・・・・・」
「・・・・・・え?」
急な出来事に俺は戸惑った。
「えっと、ぶ、部長。よく意味が・・・・・・」
「もう一度言う、君はクビだ。正確にはリストラなのだが、この際どれも同じことだ」
「あ、あの」
「気持ちはわかる。だが、これは上が決めたことだ。申し訳ないが、君はもうこの会社に必要無い」
「必要・・・・・・無い」
「話は終わりだ。もういいぞ」
「・・・・・・」
私は何も言えず、十二年間働いてきた会社に捨てられた。
会社を出て振り返って見上げたものの、特になにも感じなかった。
その時の私は、完全に『無』の状態だった。
放心状態・・・・・・。
会社をクビになったことのショック・・・・・・もあるだろう。
だけど、一番の原因は部長の言葉だった。
『必要無い』
この言葉が、私の心に大きな傷をつけた。
生きてきた人生の中で初めて言われた言葉だった。
まるで、これまでの私を全否定されているような気持ちになってしまった。
私の存在はいらない、そのようにも聞こえた。
私は心にポッカリ穴が空いたような状態のまま、会社から家に向かった。
どこにも寄り道せず家に着いた私は、そのまま布団に倒れこんだ。
「・・・・・・はぁ」
ため息しか出ず、独り言の言葉すら出ない。
そんな心がズタズタになってしまった私は、溜まった疲れが眠気になってきたのだろう、ゆっくりと目を閉じ眠りについた。
眠りから覚めると、外は夕方になっていた。
都会から少し離れたところのアパートに住んでいる私は、ベランダから外を眺めた。
太陽は半分沈み、オレンジ色に空と雲が輝いている。
外から入ってくるひんやりとした風が私の体を通り過ぎ、涼しく感じた。
いつもは特に何も思わないでよく見ていた景色だったが、その時はとても特別に感じた・・・。
「私は小さいな・・・・・・」と小さく呟き、しんみりとした。
部長から言われたあの言葉が少しわかった気がして、余計に傷ついた。
そう考えているとなんだか儚くなって、私は家を出た。
別に青春真っ只中で、がむしゃらに走り出した男子中学生でも男子高校生的な主人公でもなく、私は主人公になれるような人材でもない三十五歳の普通のサラリーマンだ。
あ、元サラリーマンだったな。
ますます主人公になる人材じゃない。
ニートの暮らしを物語っても、何も面白くないだろう・・・・・・。
私は電車に乗り、東京を出た。
あてが無い訳では無い。
もちろん行く場所は決めてある。
電車で向かったところは、山梨県富士河口湖町というところだ。
そこには何がある?
そう、富士山だ。
標高約三千七百メートルもある日本一高い山である。
私はそこに来ていた。
目的は?
登山?
このスーツ姿で?
無職になったことだし、自分探しの旅をしちゃったりとか?
そんなわけない、ちなみにそこはただの富士山ではない。
青木ヶ原という、樹海だ。
私は・・・・・・自殺をしにきたのだ。
自分探しではなく、自分を殺しにきた。
私は、生きる気力が無くなってしまっていた。
生きる目的が無くなってしまっていたのだ。
これといってやりたいことはなかったし、一本のレールから脱線した私には、生きる意味が無くなってしまっていた・・・・・・。
富士の樹海は自殺の名所だ。
私は、自殺をするのにそこが定番だと思いここを選んだ。
まあ、定番って言うのはどうかと思うが・・・・・・。
ただ、定番だからってわけではなく、自分が住んでいたところで死んだら周りに迷惑かけてしまいそうだし、ニュースとか新聞に載ったりするのがなんとなく嫌だった。
誰にも気づかれず、静かに死ぬなら、ここが良いと私はそう思った。
電車を何回か乗り換え、駅から歩いて樹海に着いたのは朝方だった。
空を見上げると雲一つない良い天気だった。
かばんの中には首を吊るためのロープが入っている。
私はそのかばんを持ち樹海の中に入っていった。
テレビやネットで見たりしたのだが、やっぱり実際に見るととても迫力がある。
周りはずっしりと重圧感を漂わせる図太くて高い木で覆われて、あまり日光が入ってこず少し薄暗い。
木々の隙間から漏れた光が、まるでスポットライトかのようにも見え、自分は今一人なのだと実感し、孤独感がしみじみと体に伝わってきている気がした。
動物の鳴き声が遠くから聞こえてくるなか、私は黙々と足場の悪い地面を歩いた。
前後左右どれもが同じ景色のようにも見え、もう方角なんて全然わからないのだがとりあえず奥まで向かった。
自殺するんだったらさっさと首吊って死ねよって思われるだろうが、せっかく来たのだ、どうせならと冥土の土産感覚で、樹海というものを堪能した。
上を向いたり、下を向いたり、右を見て、左を見て、後ろを振り向いて、見たものをすべて記憶に刻み込みながら私は歩いた。
その時である。
「ん?」
私の足音とは別に、物音が聞こえた。
落ち葉を踏む音。
「・・・・・・え?」
そこを見ると、人がいた。
「こんなところに・・・・・・人?なんで?」
こんなところにいる私が言うのもなんだが、何故こんなところに人がいるのだろう・・・・・・。
最初は見間違いかと思ったが、やっぱりあれは人だ。
それに、人は人でも、少女・・・・・・女の子だった。
大河ドラマで見る、江戸時代の村人が身に着けているような着物を着た、女の子だった。
とりあえず落ち着いて状況を整理しようとするが、すればするほど、ますます混乱して頭がグラグラした。
頭を横に振り、考えることはやめ、とりあえず彼女のほうに近づこうと思い一歩踏み出したとき・・・・・・。
枝が折れる音がした。
「あっ」
私が枝を踏んでしまっていた・・・・・・。
彼女はその音に反応し、こっちを向いた。
私を見て驚き、すぐに逃げ出した。
「えっ!ちょっ、ちょっと!」
私はなんとなくだが、彼女を追いかけた。
追いかけずにはいられなかった。
それもそうだろう。
富士の樹海という自殺の名所で、女の子が一人でいたのだ。
家族で登山していたときにはぐれてしまったのか?
それとも・・・・・・。
いや、考えている場合じゃない。
とりあえず、あの子のところに行かないと・・・・・・って、それからどうする?
まあ、あの子になにがあったのか聞いてから考えることにしよう。
そんなことを考えながらも私は彼女を追いかける。
だけど不思議だ・・・・・・。
いくら女の子と言っても、足は三十五歳の私のほうが速い自信がある。
しかし、彼女との差がまったく縮まらない。
むしろ、離されている気さえする。
ここは山の中だ。
地面はコンクリートではなく、でこぼこした土だ。
それに、木の枝や石、飛び出している木の根っこに足をとられ、うまく走れないでいる。
一歩一歩踏み出すたびに、私の体に疲れがたまっていく。
しかし彼女は、こんな走りづらい地面をなんでもないかのように走っている。
あまりにも不自然に感じた・・・・・・。
そう思いながらも、私は彼女を追いかけた。
「ん?これは・・・・・・」
その時、ある物が私の視界に入った。
「え、かんばん?だよな、これ・・・・・・」
そう、看板があったのだ。
こんな山の中で、看板がたてられていた。
そしてそこには・・・・・・、
「し・・・・・・ちょう、そん・・・・・・って読むのか?これ」
看板には『死町村』と書かれていた。
「・・・・・・あっ!あの子は」
看板に気をとられ、女の子を思い出したときにはもう姿を消していた。
「あ、あぁ」
ため息をついたが、とりあえず気を取り直して私は看板に注目した。
「・・・・・・」
改めて考えると、やっぱりこんなところに看板がたてられているなんてどう考えてもおかしい・・・・・・。
(誰かのいたずらってことはないだろうし、なんなんだ?)
そんなことを考え、看板の向こう側を私は見た。
「・・・・・・え?あれって」
そう言葉を出したときだった。
「よそ者」
「え?」
その言葉が後ろから聞こえたと同時に、頭に衝撃が走り、私の目の前は真っ暗になった・・・・・・。
ありがとうございます。
よろしければ続きを楽しみにしていてください。