第四幕
第三ゲートには、何百人もの兵士達が集まっていた。ナイア、シルフィ、ラウ、ルウ、メイもその中に混ざっていた。
そして少し怖いスキンヘッドの男が作戦の説明をし始めた。
「敵のグリフォンの数は四百弱・・・こいつ等は気を付けてさえいれば楽に勝てる相手だが・・・問題は先ほどの放送であった大型のモンスター五体のほうだ、調べた結果やはりブルードラゴンだということが分かった。皆分かっていると思うがブルードラゴンの最大の特徴は雷のブレスだ。そしてブルードラゴンには生半可な武器では傷さえも付けられない、よってブルードラゴンの相手は各支部の隊長と副隊長クラスと魔法の使える者がやることとなる。よって魔法の使える者でブルードラゴンと戦っても良いという者は私のところへ来い、以上だ」
そしてスキンヘッドの男の近くに人が集っていった。
「私たちも行こう。」
シルフィがそう言うとルウとメイが止めた。
「それは駄目です。流石にブルードラゴンの相手は無理です。」
「そうですよ!!私たちは、エルリス様からあなた方の護衛を頼まれているんです。グリフォンならともかくブルードラゴンが相手だとそんな暇はおろかこちらが先に死んでしまいます。」
あまりの勢いに押されたシルフィだがこんなことでは流石に引き下がらなかった。
「違うわ、あなた達が護衛を頼まれたのは私たちではなくナイアとアルマだけのはずよ。」
そこへラウが口を挟んだ
「でも自殺願望者を止めるのは普通だと思うぜ?」
「ラウ・・・あんたもそっちの味方なの?」
「敵味方の話じゃない、いくら俺たちが才能を持っているとしてもそれは同年代での話だろ?しかも俺たちはドラゴンの千分の一ぐらいの強さのワイバーンでさえ多少てこずったんだ。簡単に言うとドラゴンの力は俺たちから見れば規格外なんだよ。」
そこにはいつものふざけているラウの面影は無く真剣そのものだった。
「でも・・・。」
「でもじゃねぇ、俺たちは俺たちのできることをするそれで良いんじゃないか?」
そう言ってラウはいつもの顔に戻った。
「そうですよシルフィ私たちの出来ることを・・・しましょう」
ナイアも諭すように言うとシルフィは渋々ながら頷いた。
丁度その時第三ゲートのゲートが開いた。
「始まるみたいだな・・・よし固まっていこうぜ」
ラウがそう言うと皆が頷いた。
そしてスキンヘッドの男と隊長、副隊長クラスの者や魔法使いの者達が先行して出て行った。遅れること十数秒他の兵士達も出て行った。
外に出たルウとメイ以外の三人は圧倒された。空を覆う黒い影の大群、そして先行した者達が向かって行ったところに光り輝いた青白い閃光、その全てに三人は圧倒されたのだ。
ねっとりとした唾が口の中に纏わりつき喉がカラカラに干からびる。そして三人は気付いた。
『これが本当の戦いなのだと』
しかしボーッとしている暇を相手はあまり与えてはくれなかった。空から降りかかるグリフォンの爪が地上の兵士達に襲い掛かった。
シルフィはすぐに我に帰りガントレットをガリっと合わせる。ナイアは短いロッドを手に持ち、ラウは短い棒を懐から取り出し組み合わせ戟を作り出す。ルウは赤と青の双剣を取り出し、メイは気合が出るからと言ってマントを羽織った。
シルフィは軽く詠唱をした。
「我は風・・・風は我・・・我に風の恩恵を」
そう言うとシルフィの体が浮いた。シルフィはそのままグリフォンに向かっていきすれ違い様に二匹のグリフォンを殴った。
物凄い音を響かせながらめり込んだ拳は一発だった、だがグリフォンの体には、三発殴られた後があった。
「風の恩恵って速度も上げるのか・・・いいなぁ」
などとラウがぼやいているとグリフォンが前後左右と頭上の五方向から襲い掛かってきた。
ラウは檄をまわして前方のグリフォンの首を刈り取り勢いをそのままにして右側のグリフォンの首も刈り取った。
一回転させた時前後左右のグリフォンの首が宙に舞った。だが頭上からのグリフォンが数センチの所まで迫っていた。
「あ〜らよっと」
気が抜けるような声と共に横に避ける同時に地面にグリフォンが落ちてきた。そしてブォンという風を切る音と同時にグリフォンが腹から真っ二つになっていた。
その頃ナイアはたった一体のグリフォンに対して
「水よっ!!その奔流をもってなぎ払えっ!!」
などと言う大技を使い味方もろとも敵をなぎ払っていた。
その様子をやれやれといった感じで見ているルウとメイの周りには血だまりが出来ており、そこにまた七体のグリフォンがやってきた。
「じゃあルウ次のグリフォンで多く倒せた方に少なかった方がアイスおごるなんてどう?」
「戦いを賭けにしちゃ駄目だろ?」
「よ〜いスタート」
「だから聞けって・・・まあいいか」
そう言ってメイはマントをはためかせる。するとマントにあたった二体のグリフォンがズタズタに切り裂かれる。どうやらマントに何らかの秘密があるらしい、そこへルウがメイの肩を叩く。
「こっちは終わったよ」
ルウの背後には五体のグリフォンが細切れになっていた。
「また負けたぁ・・・。」
そう言ってまた無駄に勝負を挑んだりするのだった。
もはや勝負は歴然だった。多少傷付いた者はいるものの死んでいるもののいないこちらに対し、ほぼ全滅に近いグリフォン・・・勝負は決まったと思われた・・・だがそこに一体巨大な青いモノが舞い降りた。
それを目にした兵士達は喉が壊れんばかりに叫んだ。
「ブルードラゴンだっ!!!」
と・・・。
ブルードラゴンは所々傷を負っていた、だがどれも致命傷とは程遠いものばかりだった。
そしてブルードラゴンは大きく息を溜めた。
「やばぃ・・・。」
逃げようとした兵士達だがその瞬間ブルードラゴンの口に溜められていたものが吐かれた。
雷のブレス・・・それは人間など脆い生物は一瞬でこの世から排除してしまうほどの威力を持っていた。
大地を削り、大気を痺れさせ、生きるものを消失させるそのブレスが吐かれた時、何十人もの兵士達の命がこの世から消えた。
目の前で起こった殺戮に釘付けになる三人だがルウとメイが三人を我に帰らせる。
「逃げるぞっ!!」
最初は理解が出来なかった。だんだん頭が戻ってくるに連れて三人は動揺する。
「逃げるって何処に!?あのブレス見たでしょ!!あれじゃ・・・何処にも逃げられやしないわっ!!」
そう吐き捨てたシルフィをルウが叩いた。
「自分をしっかり持てそんなことを言うな」
そしてルウがシルフィを抱える様に持ち五人は逃げようとした。
だがその時一瞬ルウは気付いた。こちらにブレスを撃とうとしている事に「動け」と足に命令しているのに全く動かない・・・だがそれはルウだけではなかった。他の三人も動けなくなっていたのだ。
初めて感じる濃厚な死の恐怖、そして雷のブレスが五人に向かって吐き出された。
思わず目を瞑る五人、次の一瞬に襲い掛かる死の痛みを忘れたいと言うように目を瞑った。
数秒たった。その時ルウはおかしい感じた、何故なら痛みが来ないからだ。もしかしたら痛みも感じないほど一瞬にして死んでしまったのではないか?そう思って目を明けると黒い壁が立ちふさがっていた。
『何だこれは?』理解できない現実が頭の中で暴れ回る『冷静になれ』と言い聞かせてなお頭は冷静にならない。
コツン背後から足音が聞こえた。コツンまた聞こえた。
振り返りたかっただが同時に振り返りたくなかった。
何故なら背後に這いずり回る悪寒があったからだ。
胸が痛い・・・心臓が鷲掴みにされているように痛い。
だがなお足音は続く・・・。
新しい感情が生まれる・・・死にたい・・・ここにいる位ならブレスを浴びて死にたい・・・。
そして足音が真横を通り過ぎる。
姿を見ようと横目で見た時だった。
深淵のように深く暗い瞳・・・見ているだけで生命力が根こそぎ奪われていく。
そいつは壁に軽く触れるすると壁は幻の様に溶けて消えた。
そしてルウはようやく理解した。
こいつが例の闇の魔法使いで・・・絶対に逆らってはいけない絶対的な力を有した存在だと言うことを
輪郭はぼやけてはっきりと分からないがルウは確信を持ってこいつが男であり同年代ぐらいの青年だということを感じた。
そいつが声を発した。
思ったとおり若い声男の声だった。言葉は詠唱のようだった。だが詠唱と呼ぶには些か短い気がした。
「影よ・・・舞え」
―――確かこの詠唱・・・映像の・・・。―――
そこで考えは中断された、もしこの詠唱が映像のものならドラゴンはおろかここにいる全ての人間が死に至るからだ。
だが予想は大きく裏切られた。
一箇所に収束した影の針はワインの栓などを明けるような円を描く針となり、回転するようにブルードラゴンに襲い掛かった。
だがブルードラゴンも馬鹿ではなかったそれを空へ飛び上がり回避したのだ。ところが針はブルードラゴンを追うように空に伸び翼を貫いたのだった。
そして浮力を失ったブルードラゴンは墜落した。そこに影の針がバラバラに戻りブルードラゴンを貫いた。と思われたがブルードラゴンの鱗に阻まれ傷つけることが出来なかった。
それを見たブルードラゴンは這うように彼に襲い掛かった。
だが彼は影の針を消した。
「死神の裁き」
と詠唱すると同時に続けて
「断罪の鎌」
と唱えた
すると影から三体の死神が現れた。そして後を追うように死神たちが持つ鎌よりもかなり大きく禍々しさを持つ鎌が現れた。
彼はそれはもつとニヤリと笑った。
それを見たルウは寒気が走った。
そして地面を蹴り死神と一緒にブルードラゴンへ向かって行った。
死神が鎌で牽制する中彼は大きく振りかぶった。
グチャァと言う赤い血飛沫と肉が斬れる音と共に左肩から右側の腰にかけて彼は鎌を振り切った。
ほぼ真っ二つに斬れたブルードラゴンはすでに事切れていた。
死神が更に解体しようと鎌を振りかぶるが彼はそれを止めた
そして死神を帰らせるとブルードラゴンの下に黒い穴が現れた。
沈むようにブルードラゴンは穴に飲み込まれ・・・消えた。
そいつはついでにグリフォンの死骸の片付けもしたようで戦闘のあった場所には何も残っていなかった。
そしてそいつは影に沈んで消えていった。
「終わったのか・・・?」
信じられないと言った様子で声に出すルウだがそれはルウだけではなかった。
メイ、シルフィ、ナイア、ラウなど生き残った者全てが驚きを隠せないでいた。
不意にメイがルウ袖を引っ張り
「とりあえず帰ろうか」
と言ったので五人はインビジブルガーデンへ帰っていった。




