第十六幕
「うぅ・・・リーン?」
横たわっていたティアスが始めてみた光景はリーンの横顔だった、必死にこちらに呼びかけている顔がいとおしくて愛らしくてずっとこのままでいたいと思った。だが戦場はそんな時間さえも許さずその爆音にてティアスを我に帰らせる。
ゆっくりと起き上がるティアスに気付いたのかヘルとランスも近づいてくる。
「おいおいティアス大丈夫か?」
ティアスは額に汗を浮かべ無理矢理笑顔を作って答える。
「ちゃんと魔法は使えるの?」
ヘルの言葉にティアスは魔法を唱える、すると影は実体化しティアスの指先に導かれるように動いた。
「とりあえず使えるみたいね・・・ティアス、貴方はここでお姫様を護っていて、私とランスはレーデンの援護に向かうから」
ティアスは「俺も行く」と目で訴えたがヘルは首を振って横目でリーンをチラリと見ると
「貴方の大切なものは何?」
その言葉にティアスは口を結んで小さく「わかった」と言った。
「じゃあ私たちは行くからね、しっかりお姫様を護るのよ」
「やばくなったら俺等をすぐに呼べよ、何処からでも駆けつけてやるから」
そう言うとヘルは影の中に入って消え、ランスはゾンビの大群に囲まれているナイア達四人の下に向かって行った。
「リーン、離れないでくれよ」
そしてティアスは唱える。
「影よ舞え」と・・・。
スレイスはゾンビを倒しながら考え事をしていた。敵の数とこちらの戦力どう頑張ってもアルマのいるところまで行くにはかなりの時間が掛かる、そうしている間に奴が来てしまったらどう足掻いても勝てる見込みは無かった。
「状況は極めて悪いですね」
その時左側のゾンビが吹き飛んだ、スレイスを含めた四人は唖然としてその方向を見ていると足音が一つ聞こえてきた。
「やあやあ元気かい?」
気の抜けるような言葉を発しながら現れた人影に四人は驚きを隠せなかった。
「あ、貴方は・・・武装王ランス!?」
ランスはスレイスを一瞥するとシルフィとラウを見てニヤリと笑う。
「な、何なんですか?て、敵ですか?」
シルフィの言葉に四人は息を飲み込み身構える。
「おいおいせっかく加勢に来てやったっていうのに酷い扱いだなぁ」
その言葉に目を丸くする四人だったが意味を理解したスレイスは声を殺して笑った。
「それは心強いですね、では武装王周りにいる敵を倒していただけますか?」
ランスは「武装王じゃなくてランスって呼んでくれ」と小さく言うと親指で首を掻き切る真似をしてゾンビに「消えろ」と言う。
するとランスの影から巨大な斧を持った腕が現れ斧でゾンビ達を一閃する。
振り終えた腕は幻のように消えそれと同時にゾンビ達の身体がバラバラに吹き飛ぶ
「こんなもんでいいか?」
軽く言うランスに改めて四人は畏怖を込めて視線を送る。そんな視線に気付かないランスはケラケラと笑ってゾンビ達の死体を踏みつけて歩いていった。
その頃ヘルはある男と向かい合っていた。
「ふっふっふ、魔女よ我に勝てると思っているのか」
男はヘルに向けて槍を取り出す、ヘルは不敵な笑みを浮かべて男に影で作った短剣を向けてこう言い放った。
「あらあら、流石は『雷神』の二つ名を持つゲイドね。でも倒せなくてもランスがここに来るまでの時間稼ぎなら出来ると思うわよ?」
そしてヘルは影の短剣をゲイドに向け放った、一本だった短剣が次々と分裂し十六本となりゲイドを襲った。だが槍を軽く振り回し短剣全てを消し飛ばした。
しかしその行動を予測していたヘルは短剣を両手に持ってに懐に潜り込もうと踏み込もうとする、ところが踏み込もうとした足場に一筋の雷撃が放たれる、がヘルは避けようとするどころか更に速さを上げて踏み込み雷撃の速さを超え見事避けた。感心したように口元を吊り上げたゲイドだったが慌てた様子も無く詠唱を始める。
「集まり、纏われ、雷光よ」
すると持っていた槍が青白く光だす、その時にはヘルの刃がゲイドの眼前にまで迫っていた。ゲイドはいまだ慌てた様子も無く地面に槍を突き刺す。するとヘルは足に違和感を感じる。
「なっ!動けない・・・。」
ヘルの足はまるで地面に縫い付けられたように動かなくなった。攻守は逆となりゲイドは槍を突き出す。ヘルは地面に手を当てると滑り込むように影の中に隠れた。
「隠れても無駄だ、我が雷震を受けたその足には蜘蛛の糸のような電撃が纏わり付いているのだからな」
そして雷撃が地面に向けて放たれる、だがその先には地面は無く雷撃は飲み込まれる。と同時に辺りを眩い閃光が包み込むのと同時に影からボロボロになったヘルが現れる。
「ぐぅ・・・。やってくれるじゃない・・・。もういいぶち殺すっ!!」
そしてヘルは小さく呟く
「ごめんね、ティアス、ランス、封じたはずのこの力を使って・・・。そしてお姫様、今からの私の姿を見ないでください・・・。」
そしてヘルは声高々に詠唱する。
「闇の淵に封印せし魔女の力の解放を私は願う・・・来なさい、三年の時を経て忌まわしき魔女の力よ」
言い終えたヘルの目には涙が宿っていた、そして一瞬の沈黙の後何かに耐えかねたように首につけていた逆十字のネックレスの中央についていた黒い結晶が砕け散った。




