第十二幕
ナイアは城の中の自分の部屋で始まったであろう会議のことを考えていた。実は一行が着いてから二日という時間が経っており二日の間に解決した問題がいくつかあった。例えば魔法学校の生徒達の対応だ、魔法学校の生徒達はレーデンに着いたその日に一人一人に援助金が支給されることが決定し希望するものはレーデンの魔法学校への転入も手配するという処置がされた。
だがシルフィとラウは転入を拒みナイアの護衛をしたいと言い出していた。最初は断っていたナイアだったが熱心に頼みこむ二人に負けて護衛として雇うこととなった、この時アルマは何の異論も唱えず逆に二人を応援していたのはナイアには秘密である。
そして無事仕事を終えたルウとメイだったがレジスタンスの一員ということを隠したこととアルマの取り計らいもあり少しの間レーデンに居る事となっていた。
そしてこの日事情を聞いた皇帝のゼルファーに呼ばれたアルマを含めた四大将軍の『青龍』ハザン『白虎』ザックル『玄武』ドウガスが一つの部屋に集まっていた。
四人が席に着いたことを確認しゼルファーが口を開いた。
「さて、皆揃ったようなのでそろそろ話し合いを始めたいと思うが・・・大まかなことは伝えた通りだ」「言いづらいことなんだが・・・その幹部を倒したのはハーゼンデルの生き残りだ」
四人が「馬鹿なっ!?」という顔でアルマを見るがアルマは顔色を変えない。
「その様子だと本当なのだな、しかしハーゼンデルか・・・あの国にはすまないことをした」
「皇帝の責任ではありません・・・全てはあの宰相が起こしたことですから」
と頭を抱えるゼルファーをハザンがフォローする。
「・・・敵の正体なんて明日になったら分かるんだろ?だったら今は正体なんかじゃなく作戦を練ろうぜ」
ザックルの言葉にハーゼンデルの問題は一時置いておくこととなった。
「さて作戦を立てたいと思うが・・・言いたいことはないか?」
そしてアルマが静かに立ち上がった。
「一つ言っておきたいことがある、敵の出現方法についてだが・・・奴等は影を使って現れると思われる」
「影だと?」
「あぁ影だ・・・報告書にもあったとおり、奴等は闇系統を魔法を使うことのできる、闇の魔法使いがいる。その闇の魔法使いの技の中に影を使った移動があるのだが・・・これを捉える事はハッキリ言って不可能だ。」
「不可能だと?それでは敵の現れる場所が分からないと?」
「そうとも言えない・・・どうやら影の移動法は影を繋げることによって出現する、そしてレーデン周辺で影が多くできるところといえば一つしかない」
「忘却の森だな?」
ゼルファーの言葉にアルマは頷いた。
「ですからこれから私は忘却の森へ兵を率いて行って来たいと思います」
「分かった・・・一応ドウガスは城に残ってもらうとしてハザン、ザックル、お前達はどうする?」
二人は笑みを浮かべて答えた、
「もちろん向かいますよ」
「そっちの方が面白そうだ」
そして三人は部屋を出て行った。
「では、私もこれで」
ドウガスも皇帝に挨拶をして外に出て行った。
「ふぅ〜・・・これで心配なのは、ナイアだけだな・・・しっかり城で静かにしてくれていたらいいのだが・・・。」
そしてゼルファーは大きく溜息をしてその部屋を出て行った。
ティアス、リーン、ヘル、ランスの四人はレーデン内の服屋にきていた。
ヘルの手には色々な服が持たれていて、リーンを見ては「こっちが良いかな・・・こっちも似合うなあ・・・」と声を漏らしていた。ティアスとランスはそこから早々に服屋から立ち去って外で待っていた。二人の服装は黒衣ではなくタキシードと呼ばれるようなピッシリした服だった。
「何でこんな動きにくい服を着なきゃならないんだよ・・・。」
ティアスの愚痴にランスが苦笑いを浮かべていた。
「しかしこんな服を着る意味は分からないが服屋に来るのは当然だろ?」
「まあリーンの格好があれじゃな・・・。」
と言ってティアスはリーンの見つけた直後の服装を思い出した。重症で気が付かなかったがリーンの服装はボロボロで正常な状態のティアスでは話すことはおろか見る事だって恥ずかしくて出来ないほどだった。
まだ戦いのダメージが残っているティアスのタキシードの下は包帯でグルグル巻きだったりする。
そして待つこと数十分二人がやっと服屋から出てきた。
二人とも体のラインがハッキリと分かるような黒いドレスを着ていた。
「どうだい、綺麗になっただろ?」
と胸を張ってヘルが自慢をしリーンは恥ずかしいらしくヘルの背後に隠れた。
ティアスとランスは久しぶりにヘルに同感だと思った。
「ところで何でこんな服装にならないといけないんだ?」
ティアスの質問に「秘密」と口の前に一指し指を立てて答えた。さらに問いただそうと思ったティアスだがヘルがそのまま道なりに歩いていってしまいしょうがなくついていく事にした。
そして着いたのはレーデンの城の城門だった、まったくヘルの意図が掴めないまま黙っているといきなりヘルが城門の兵士に話し掛けた。
「城に入りたいんだけど入って良い?」
その質問に唖然としたティアス達と兵士だったが、その一瞬で怪しい者と兵士は判断したらしくヘルを捕まえようとした。
兵士も城門の守りを任されることもあり普通の兵士より多少強そうだったが、所詮は多少強い止まりだった。ヘルは繰り出される槍を滑らかな動きで避け兵士の懐に入り込むと兵士の額を人差し指で突っつきながら諭すように言った。
「中々良い動きだけど・・・私と踊るにはもうちょっと強くなることね」
そう言ってから兵士の足を払い転ばせた。
だが続々と騒ぎを聞きつけた兵士達が四人を囲んだ。
「これが作戦だったのか?」
ほぼ呆れながらティアスが聞くと
「おかしいわね・・・私の美貌が通じないなんて」
と本気で言っていたので三人は酷く止めなかったことを後悔した。
そしてランスが三人の前に出て地面に落ちていた持ちやすそうな木の枝を拾うと兵士達に向かって行った、前方に三人左右に一人ずつと兵士の位置を確認し軽く棒を振るうと五人の兵士が転んだ、兵士達は何が起きたのか分からず顔を見合わせ立ち上がろうとしたところでまたランスが棒を振るうするとまた兵士達が転ぶ、兵士達は気味悪がって倒れたまま後ろに這って行った。
ティアスとヘルの目にはランスが相手の下の影を操って足を引っ掛けていたのが見えていたので声を殺して笑っていた。
不意にランスに向かって短剣が投げられた、速度も狙いも今までの兵士とは全く違った的確なもので避けられないと判断したランスは足下の影を盾にして攻撃を防いだ。
「やるじゃん」
そう言って白い毛皮を纏った男が現れた。
「誰だ貴様・・・。」
睨みつけながらランスが問い掛けると男は笑みを浮かべながら答えた。
「レーデンの四大将軍が一人『白虎』のザックルだ、しかし今の攻撃を防いだ術・・・見たことなかった技だが噂に聞く闇系統の魔法か?」
その言葉に少し驚いたランスだったが溜息をつきながら頷き肯定した。
「そうか・・・ということは、明日この国を襲うための下見か?」
「何のことだか分からないな」
そう言ってランスはザックルに向けて挑発的な笑みを浮かべる。
「そうか、しらを切るってんなら・・・その体に教えてもらうとするかっ!!」
その瞬間ザックルは両手にハグナクと呼ばれる刃物の爪をつける。
「貴様は強そうだから手加減は出来ないぞ」
ランスも影を数本の剣に変えた、剣の柄の部分には剣と影を結ぶように糸がついている。
「雷神よ、我が爪に・・・ってうわっ!!」
ザックルは詠唱を途中で止めランスの作り出した剣を紙一重で避ける。
「え、詠唱無しかよ・・・これが闇系統の魔法か・・・。」
ティアスは心の中で「いやいやそいつだけだから」とツッコミを入れていた。
襲い掛かる多数の剣を避けたり、爪で弾いたりしながらザックルは詠唱をする隙を伺っていた・・・だがランスには全く隙が見つからなかった。
「上等じゃん・・・ならこれでどうだっ!!」
一気にザックルの速度が剣が追いつけないほど上がり剣を無視しながらランスに迫っていった。そして残り数センチでザックルの攻撃がランスあたるというところでザックルは嫌な予感がして絶好の攻撃のチャンスを捨ててランスから離れる、そして刹那の隙も与えずランスの周りに影の剣の刀身が突き出た。
「よく避けたな」
素直にランスはザックルを誉めたがザックルは初めて負けるかもしれないと思った。しかし何かを戦闘中に考えてしまうということは格好の隙となってしまった。ザックルの足に影が絡みつき足を拘束する。
「残念だったな・・・年の若さのせいってこともあるかもしれないが、もう少し先ほどのように集中しておけば捕まらなかったのにな」
そして影で作った剣を一本取ってランスは勝負を決めようとした・・・だがランスの足は地面を踏み込むことなく穴に落ちる・・・ヘルの作った影の穴に、
「ヘ、ヘルっ!!今勝負中なんだが・・・。」
「勝負決まってるでしょ?それ以上の事をしたら弱いもの苛めだよ。」
ヘルの悪意無き言葉の一撃がザックルの心に突き刺さる。
「弱いもの・・・苛め・・・。」
ザックルは戦意を失い呟き始める。
「生殺しって酷いよな・・・。」
ティアスの口から同情の声があがるがヘルは全く気付かなかった、不意にリーンがランスに拘束を解くように命じザックルに近づいていき、意気消沈しているザックルに「気にしないでください」と言った。
その時リーンに向かって風弾が飛んできた、大気を圧縮した弾丸がリーンに直撃しようとした瞬間ティアスが庇うようにして身を盾にした。そして風弾が炸裂しティアスとリーンが吹っ飛ぶ、直撃を食らわなかったリーンはすぐに起き上がったが、直撃を食らったティアスは直撃した部分と思われる背中側の服が破れ包帯が露になっていた。
そして風弾を放ったであろう男が悠然と歩いてくる、
「だらしないですねザックル・・・同じ四大将軍として恥ずかしい」
「ぐっ、、、うるせぇ・・・大体なんでお前がここにいる?」
「何故って忘却の森に行くからに決まっているでしょう?」
そして二人の会話はここで終わった。
「あんた誰?てかティアスとリーンの二人に何してんの?」
怒りを堪えるようにヘルが聞くと男は名乗った。
「私は四大将軍のハザン、これでも『青龍』の二つ名を授かっています」
「そう・・・もういい死んで」
言い終えるとヘルは影の中に入って消える、そしてハザンの足下の影からヘルの手が出てくる手にはナイフが握られており、ハザンは足を浅く斬られる。
「小癪なっ!!」
ハザンが怒鳴ると何処からかヘルの声が聞こえてきた。
「小癪?馬鹿言わないでくれる?先に私の大切なものに手を出したのはあなたよ?大体無力な女の子を狙うなんて万死に値するわ」
言葉が言い終わるとヘルが影から現れた。
「さあ、現れてあげたわ?でも私に貴方の攻撃が当たるかしら?」
ハザンは鼻で笑うと詠唱を始める
「我等を見守りし大いなる風よ、我が前に集い烈風となれっ!!」
詠唱を終えると同時に周りの風が凶器となって襲い掛かった
「開け深淵の扉っ!!」
ヘルが唱えると黒い扉がヘルの前に現れる。凶器と化した烈風が目前に迫る中黒い扉は音をたてて開かれる、と同時に今まで荒れ狂っていたはずの風の存在が消える。
「さてと・・・この魔法結構魔力使うから・・・これで決めるわよ」
そしてもう一つハザンの前に黒い扉が現れる、そして扉が開くと扉の中から勢い良く風が吹き荒れハザンを襲う。ハザンは何の抵抗も出来ず吹き飛ばされもみくちゃになりながら地面に落ちる。
「自分の魔法にやられるなんて無様ね」
と言ってヘルは笑った。
「本気になるなんてお前らしくないな」
ランスの言葉に
「私がやらなかったら貴方がもっと酷い目にあわせてたでしょ?」
とヘルが答える、ランスも図星だったらしく頭を掻く。
「今日はティアスが怪我しちゃったし帰りましょう」
「そうだな」
そしてランスはティアスを担ぐと城門を後にした。
ザックルは四人が帰っていくのを見つめることしか出来なかった。




