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ティーには秘密があります。  作者: 伊藤 深雪
ティーと学園の友達に先生 の章
8/66

第8話 フィーナの心中。

やっぱり切れなくて長くなっちゃいました。

どうにも書いてる間に感情移入しちゃって止まれない...。

アリアに新入生の出迎えを頼まれてドアの前で待っているけど、不安だった。

付き合いの長くない相手と相対するのは至極苦手なのだ。別に相手を無視したりしているわけではないのに、どうもそれを上手く伝えられないのだ。


今も向かいの部屋に来たおそらく中等部の新入生の荷物を運ぶ手伝いをした方がいいのだろうか、と思案しているのであって無視しているわけではないのだ。

ただ、相手に断られたらと考えると勇気が大量に必要になってくるのだ。

絶対に受け入れて貰えるような言い方があるだろうかと頭を働かせるが、その間も時間は流れていきどんどん声がかけづらくなってしまう。そうした結果、何も言えずに見ているだけになってしまうのだ。


「あなた、何様なの? 目の前で人が苦労しているのに手伝おうとは思わないの?」


また誤解されてしまった。

しかし、この新しく向かいの部屋に入ってきたおそらく同い年の女はルームメイトに任せっきりで自分は見ているだけである。

お前こそ何様だと思わなくもないが、目の前の二人の会話から子爵令嬢だとわかった。貴族ならそういうものだろうか。

あまりずっと黙っているのも失礼になるかと思うが頭が真っ白になって笑みを浮かべることすらできない。いつもこうで自分が嫌になる。とにかく何か言わなければ、と思えば思うほど焦って空回る。


「あの、よけ――」


なんとか"よければ手伝う"と言えそうだったのだが結局言えなかった。ルームメイトが荷物を部屋の中に運び終わったのを見た子爵令嬢に遮られたからだ。


「もういいわ。なんなのコレ、感じ悪いわね。」


こういう類いのことを言われると一層何も言えなくなってしまう。

子爵令嬢は大層気分を害された様子で背中をむけ、部屋に入って行ってしまった。

しばらくたってお前が他人に感じ悪いなどと言えるのか、と苛ついたりもしたが今更だ。

やはりアリアに替わって貰おうか、と思ったところで階段から向かいの部屋の使用者の一人と、ピンク色のトランクをひとつ、カラコロと引いた小さな少女がやってくるのを視界におさめてしまった。

もしかしなくともあの此方に走ってくる元気で小さな可愛らしい少女が新たな同室者だろう。

小さな子供は、人にペースを合わせるということを普段される側であるから、とことんマイペースで苦手である。合わせなければと思うほど考え込んでしまい反応を返せない。早々に怖がられて避けられてしまうのだ。悪気がないのはわかっているがショックを受けてしまうのは止められない。

なんとか話すことができるだろうかと考えながら見つめているうちに少女は自分の目の前にやってきていた。


「こんにちは、今日にゅうりょうしました、ティシェール ・コーチャスです。よろしくおねがいします。」


可愛らしい笑顔で舌足らずに自己紹介して深くお辞儀までしてくれた目の前のティシェールという存在に驚いた。

コーチャスということは公爵家の子供で、かつあのユリ・コーチャスさんの妹ではないか。そう言われてみれば話に聞く容姿に似ている。


「......。」


しょっぱなから無反応で返してしまった。怖がられてしまっただろう。

今後のティシェールとの関係を諦めかけたところで何故かひとつ頷いたティシェールから更に言葉が続けられた。


「いま、かいだんであったおねえさんのおてつだいしてるのでちょっとまっててください。」


「......。」


了承の意を伝えなければと感じたが自己紹介の時と全く様子の変わらないティシェールに驚いてしまい、部屋の中に戻らずに留まっていることしか出来なかった。傍から見れば何も言わずに動かなかっただけである。了承していることなど伝わらないだろう、と思ったのも束の間。


「ありがとうございます。」


ティシェールはお礼を言うともう一度ペコリとお辞儀して向かいの部屋の使用者の元へ走っていった。

伝わったのか、と思えば歓喜が心の中に芽生えそうになったがそこで思った。

そんな都合のいいことがあるだろうか。

これまでアリアと極一部以外の人間にこの方法を理解してもらえた事があったか、いやない。初対面ならば尚更である。

公爵家の子供であるのだし、きっと甘やかされて育ってきたことだろう。そもそも此方の反応など気にしていなかったのだ、そうに違いない。

それならば怖がられることがなかったのも頷ける。


向かいの部屋の使用者とティシェールが目の前までやってきた。

しかし、荷物を運ぶ手伝いとはどういうことか。トランクはティシェール自身のものに思える。

向かいの部屋の使用者が持つ箱に注目してみると、箱の下にいくつかぼんやりとした小さな姿が見えた。

ティシェールは精霊使いなのか。あんなに小さな精霊を使役できるということはかなりの才能があるのだろう。

使役はその精霊を正確に認識しなければできない。使役すること自体は大精霊よりもそこら中にいる小さな精霊たちの方が圧倒的に簡単だが、認識するのは大精霊よりも小さな精霊たちの方が圧倒的に難しい。

この自分の頭より高い位地にあるドアの取っ手に必死に手を伸ばす少女が大きな才能を持っているのかと思うと将来が楽しみになる。


「――何なの、その子供。」


気付くと先程の子爵令嬢がティシェールを無価値な石ころでも見るような目で見ていた。

本当に何様なのだろうか、この女は。いや子爵令嬢だが、相手は公爵令嬢なのだと知っていればこれ程滑稽に思えることもない。


「食器運ぶの手伝ってくれたんですよ。」


自分の荷物運びを手伝ったと聞けば少しは認識を改めるだろうと思っていたが、違った。


「あ、ティシェール・コーチャ」


「ああ、今後関わることなんて無いんだから自己紹介なん て不要よ。用がないならさっさと帰ってちょうだい。」


なんて馬鹿な女なのだろう、というのが感想だったが、露骨に失礼な態度を取られたティシェールが少し心配でもあった。


「そうですか、それじゃあしつれいします。ごめいわくおかけしました。」


しかしティシェールは格下の無礼な振る舞いにも動じず、あろうことか謝罪までした。


「早くなさい。荷物は沢山あるんだからね。」


「はいはーい、ごめんねティシー。ティシェールっていい 名前ね。」


「ありがとうございます。」


ティシェールにとっては格下の貴族の反応すらどうでもいいのかと考えたが、名前を褒められて嬉しそうにお礼を言う様子を見ているとなんだか違うような気がした。


「おまたせしました。まっててくれてありがとうございます。」


そう感じれば、やはりあの子爵令嬢が滑稽に思えて呆れた。


「なんだか、あきれてます?」


今、呆れていると指摘してきたのはさっき会ったばかりのティシェールだろうか?

いや、他に誰もいないということは当然分かりきっているのだけど。

まさか、本当に? 本当に分かってくれているのか。さっきのも了承したことに気づいてくれていたのか。

聞いてみたい、という思いがムクムクと膨らんでくる。しかし間違っていたら最悪だ。

もう少し様子を見るのが最善、そうだ、会ったばかりの今決断することもない。


「......。」


黙って部屋に入ったがついてきてくれているだろうか? "ついてきて"と一言言えればいいけれど、この口はちっぽけな勇気では動かせないほど重いのだ。


ティシェールはついてきていた。

もしかしたら、という思いが抑えられなくなってくる。

決定的だったのはティシェールの言ったこの言葉。


「――フィーナさんもあきれたり、おどろいたり、ちょっとてれたり、してますよね?」


やはり、分かってくれていたのだ。適当でも、偶然でもなく、正確に理解してくれていたのだ。

先程芽生えて早々に消えたものよりもずっと大きな歓喜が心の中で渦巻いていた。

それと同時に気になった。


「――さすがユリ・コーチャスの妹! ――」


アリアがそう言う度にこの上なく嬉しそうなのに、どこか寂しそうにしているティシェールの表情が。

自分のなかなかはっきり表せない感情も読み取れるアリアだが、ひとつの溢れんばかりの感情の下に隠されたほんの小さな感情には気づけていないらしい。

どうしたら自分の寂しさを歓喜で埋めてくれた小さな少女の、その然り気無く隠している寂しさを取り払ってあげられるだろうか。

まず、何が寂しいのか。

姉のユリ・コーチャスが大好きであることは見ていてわかる。ティシェールはユリ・コーチャスの妹であることを誇らしく思っている。妬ましさに準ずるものを感じているようにも見えない。

何か自分の知らない家庭の背景があるというよりは、今このときの現状が原因のように感じる。

アリアの態度に何か問題でもあるだろうか。ひたすら、"さすがユリ・コーチャスの妹"と褒めているようにしか見えないが。

ここまで考えて漸くこの可能性に思いあたった。

そう、ひたすら"ユリ・コーチャスの妹"と呼んでいることが原因ではないか、と。

思い返して見ればアリアは一度もティシェールを"ティシェール"と呼んでいない。ほとんど間違いではないと思う。ならば、名前を呼んであげさえすればいい。

しかし、間違っていたら。正しくなかったら、怖い。

そんなふうに躊躇っていたら、ティシェールの寂しげな表情が一度強くなって、先程よりも小さくなった。

自覚した感情を無意識に治めたように見えた。

違うかもしれない、という思いは消えなかった。が、相手は初等部の子供だから、と言い聞かせ続けてなんとか声にできた。


「......ティ、シェール。」


無理を押して声にしたからか少し声が震えた。

正解だっただろうか、と様子を伺っていたらティシェールから寂しげな表情が消えた。安堵したのは一瞬だった。


「はい! ティーはティシェールです!」


ティシェールが腕に飛びついてきて、突然のことに頭が真っ白になった。


「ごごごめんなさい! ティー、軽率でした!」


ティシェールの慌てて謝る言葉が聞こえてきたがそのまま抜けていった。まだ真っ白だ。


「......。」


「だ、いじょうぶ、でしょうか...?」


「フィー...?」


アリアの声を聞いて漸く脳が活動を再開した。

子供に飛びつかれるなど初めての体験である。


「......。アリア...。」


アリアがふう、息をついた。アリアもいくらか緊張していたらしい。


「頑張ったのねえ。 凄いわねえ、さすがユリ・コーチャスさんの――」


「アリア、ティシェール。」


また、ティシェールが寂しがるかと思えば訂正を入れずにはいられなかった。


「え? あっ。」


アリアも漸く気付けたようだ。

一方、ティシェールは何かを堪えていた。先程の飛びつきだろうか。あれをされるとまた真っ白になってしまうだろう。

漸くティシェールが必死に謝って、恐々と様子を伺っていたことが頭にしみてきた。また繰り返してしまうのは憚られた。

少し考えてから、手招きしてみた。


「フィーナさん?」


ティシェールの堪えているものが大きくなっている気がした。


「......、よしよし。」


自分から触れることに強い緊張を覚えたが、このキラキラとした瞳が拒むことはないだろうと半ば確信できていた。ティシェールが飛びついてきたことは驚いたが嬉しくもあったようだ。


「ふ...、ふにゅ~…。」


ティシェールから気の抜けたような、安心したような声がもれた。ティシェールの顔が蕩けるように笑みを象るのを見れば口元が弛んだ、気がした。

そうしたら満面の笑みが返ってきた。可愛い。


「ティシェール、ちゃん? その、ごめんね?」


「大丈夫です。お陰でフィーナさんに名前呼んでもらえましたもん。 寧ろお礼を言いたくなるくらいです。」


あれ?

胸を張って宣言している姿はやはり可愛いけれど。なんかティシェールの雰囲気が子供っぽくなくなってる?


「そっか、それは良かった、んだけど。 ティシェール、ちゃん?」


「ティシーでいいですよ? 皆そう呼びます。」


「あ、うん、ティシー。 なんか、随分しっかり喋るのね、っていうか。 雰囲気が変わったような気がする、っていうか。」


サーって聞こえそうだった。ティシェールの顔が一気に青くなった。


「......。あー、えっと。 き、きのせーだと、おもうよ? ティー、ろくさいだ、もん 。」


慌てたティシェールを見れば可愛いなあ。と思ってしまった。

フィーナもティーの可愛さにはほだされるんですよ! なんたって天使ですからね!

この後がまだ思いつかない...あ、今回のが時間稼ぎって分かっちゃいました?

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