第6話 入寮します。
今回はうまく切れなくて長くなっちゃいました...
今日はターシュク魔法学園の入学式の前日です。前日までに入寮しないといけないのでこれから馬車で学園に向かうんです。
本当は1週間前から受け入れしてたんですけど、ギリギリまで一緒にいたい、って今日まで引き留められていたんですよね。使用人さん一同にまで頼まれたら断れるわけないじゃないですか。
ユリ姉様も学園の生徒なので一緒に向かいます。ユリ姉様とは会おうと思えば毎日でも会えるので嬉しいです。
「ティシー、ユリがついているから心配いらないとは思うが道中気を付けるんだよ?
ユリも、ティシーの事を頼んだよ。様子を見てやってくれ。」
もう、お父様は心配性なんですから。精霊さんが助けてくれるのに加えてユリ姉様まで一緒なんですから、危険なんてそうそうありませんよ。
「マール、ティシーには精霊たちもついていてくれるのよ? そんなに心配ばかりしていたら身が持たないわよ?」
「む、そうか。」
お父様は寂しがりやですからね、仕方ありませんね。
「おとうさま、ティーおてがみいっぱいかいておくるからね。さびしくないよ?」
「ああ、ティシーは本当にいい子で可愛いなあ。」
「お父様!」
「マール!」
あはは、お父様はなれないですね。
「リリーがなおしてくれるよ、おとうさま。」
毎度のことながら立ち直り早いですね、お父様は。
「行ってきます!」
お母様にお父様や使用人さんたちと手を振ってお別れして、ユリ姉様と馬車に乗って出発です。
◇◆◇◆◇◆
学園に到着しましたよ。ユリ姉様も一緒にいるので寮まで迷わずにこれました。
精霊さんもいるので迷うことは基本ないんですけど、あれです、前世の名残です。
「それじゃあね、ティシー。ルームメイトにはしっかり挨拶するのよ?
明日入学式が終わってから部屋に遊びに行くから、伝えておいてね。」
「うん! またあしたね、ユリねえさま。」
少し、というよりとっても寂しいですけど我慢です。明日には会えるんですから頑張らないといけませんね。
手を振って去っていくユリ姉様にもルームメイトがいるんですから、ティーも後日遊びに行きましょう。
「こんにちは!」
「こんにちは、初等部の新入生さんかしら?」
「はい、ティシェール・コーチャスです。よろしくおねがいします。」
第一印象は大切ですからね、挨拶は基本です。
あれ、なんか驚いてる? ああ、公爵と気づいて驚いてるんでしょうね。貴族の上の位の方々は高等部から入学することが多いですから。
「あらあ、ご丁寧にありがとう。
私は今年度この寮棟の寮長を任された高等部3年のオルリア・ガイノースよ。宜しくね、コーチャスさん。」
寮長を任されるなんてオルリアさんはよほど優秀な生徒なんですね。精霊さんのこともぼんやり見えている見たいですし。
「コーチャスさんの部屋は216号室ね。三人で同じ部屋を使うから、詳しいことはその人たちに聞いてね。連絡しておくからドアの前で待ってると思うわ。」
「216ごうしつですね。分かりました。
ありがとうございました、オりゅっ、オルリアさん。」
一回噛んじゃったけどしっかりお礼は言いました!
もう、クスクス笑わないでくださいよ、恥ずかしいの我慢してるんですから。
「呼びづらかったら、リアでもいいわよ。」
あ、でも愛称で呼ぶお許しを頂いちゃいました。何だか仲よくなれた気がします。
愛称で呼べるくらい仲のいいお友達を沢山作るのが目標ですからね。
エレベーターが3つと、転移陣が2つ、階段が2ヵ所ありますね。この寮は七階まであるようなので上の階の方が優先的にエレベーターを使うものだし、転移陣は魔力を沢山消費してしまうから急ぎの時に使うものですから、部屋が二階で急いでるわけでもないティーは必然的に階段使用者ですね。
勿論情報提供は精霊さんです。
今は他の人もいませんが、普段は人が集中して階段を使わざるを得ませんからあまり怠けていてはいけませんね。
多少の荷物はありますが精霊さんたちが手伝ってくれるそうなので問題にはなりませんね。
「精霊さん、手伝ってくれるのはとても嬉しいですけど、疲れてしまう前に交代するようにしてくださいね?」
了解! と元気な返事も返ってきたので行きましょう。
精霊さんは力持ちですよね、ずっしりと重たかった荷物がふわふわしてます。ティーは倒れないように支えてるだけですね。
あ、踊り場がありますね。折り返してグルグル昇ってくんですねえ――って、人がいました! ビックリしましたよ。
精霊さん、伝えるのが遅れたからって謝らなくていいんですよ。
はじっこに箱を置いて休憩しているようですが、大分お疲れのようです。そんなに重たい荷物なんでしょうか。
「こんにちは、そのはこおもたそうですね。おてつだいしましょうか?」
「あなた、初等部の新入生でしょ? 高等部の私よりも重く感じるとおもうけど?」
ああ、初対面ですから精霊さんが手伝ってくれるって知らないんですね。
「ティーじゃなくて、精霊さんがてつだってくれるんです。ちからもちですよ? ぜんぜんおもたくないです。」
ティーの荷物を片手でスッと持ち上げて見せました。精霊さんのお陰で軽いです。
「そう言われてみれば、あなたも荷物持ってるのにエレベーター使ってないね。
そういうことならてつだって貰おうかな。思った以上に重くてすぐに疲れちゃうんだよね。」
あれ、お姉さんの荷物じゃないらしいですね。ああ、新入生の荷物運びを手伝ってるんですか。
精霊さんはなんでも知ってますからね。
「下からもちあげてくれるので、いっかいもちあげてください。」
箱って地面と隙間なく密着してるから、持ち上げる時に精霊さんが手伝えないんですよね。結果、持ち上げる一瞬は本来の重さを支えないといけないんです。
「...よいしょっ! っと――あれ? すごーい! 軽い軽い!」
どれだけその箱重たいんですか。精霊さんが沢山箱の下に飛んで行ってますよ。
「今日中等部の新入生が入寮したんだけど荷物が沢山あってね、1つのエレベーターに乗り切んないし、他の2つは五階と七階に止まってるからさ。二階だし階段の方が早いやー、って思ったんだけど予想以上に重くて半分までしかこれなかったんだよね。」
「エレベーターにのりきらないにもつって...さんにんで1へやってわかってるんですかそのひと。」
いくらなんでもそれは多すぎじゃないですか?
「ちゃんと分かっててその量なの。まあ子爵様らしいからしょうがないね。」
既に諦めモードになってるんですね、お姉さんがいいんなら無理に介入したりはしません。
「なにかこまることあったら、ティーと精霊さんがてつだうからいってくださいね? ティーもにかいにへやがあるので、216です。」
ん? なんか驚いてます?
「私215なんだけど、お向かいさんだね。
そっか、あの人と同室、でも大丈夫かな?」
あの人、ってティーのルームメイトはどんな人なんですか。
「一人ずっと無表情で殆どしゃべらない人がいるんだけど、ルームメイトとうまくいかなくて一回部屋替えがあったの。
けど、もう一人がフォローしてくれるから大丈夫だと思うよ。」
「そうなんですか、仲よくなれますかねえ。あいしょうでよぶのがもくひょうなんです!」
「うーん...、頑張って...?」
頑張りますとも! あ、あそこに一人中等部くらいの女の人がたってますね。ティーのルームメイトでしょうか?
「あ、あの人がさっき言った、えーとクールな方の子だよ。」
クール、確かに綺麗で落ち着いててカッコいいかもしれません。
第一印象は挨拶から、です! お姉さんを置いてちょっと走っちゃいます。
「こんにちは、今日にゅうりょうしました、ティシェール・コーチャスです。よろしくおねがいします。」
笑顔とお辞儀も完璧です。
「......。」
成る程、確かに表情の変化は大きくありませんね。でもちゃんと目があったし、驚いてるのも分かりますから問題ないですね。仲よくなれそうです。
どちらかというとどうしたらいいか分からないって感じてるんでしょうね。じゃんじゃん話しかけてイエスかノーで答えられるようにした方がいいかもしれません。
「いま、かいだんであったおねえさんのおてつだいしてるのでちょっとまっててください。」
「......。」
ドアの前に留まってくれてるので了承してもらえたみたいですね。
「ありがとうございます。」
もう一回お辞儀してからお姉さんのところに走って戻りました。
「あいさつしてきました!」
「ずっと無表情で動いてなかったけど、大丈夫だった?」
態度で示してるけどあんまりしゃべらないし、表情の変化が大きくないんで理解してもらうのが難しいんですね。それでちょっと怖がられてるなんて不器用なんですね。
「だいじょうぶです。仲よくなれるようにがんばります。」
「ティーちゃん、だっけ? いい子だねえ。」
「みんなティーのことはティシーってよぶので、ティシーでいいですよ。」
いい子って言われるとやっぱり嬉しいんですよね。
「ティシーね。私はミリアって言うんだけど、ミリーって呼んでいいよ。愛称で呼ぶのが目標なんでしょ? 宜しくね。」
またまた愛称のお許しが出ました。二人目です。
「ミリーちゃん、よろしくおねがいします!」
「ふふ、あー...、ドア開けられないや。ティシー、開けてもらっていい?」
いつの間にか到着してたんですね。危うく通り過ぎちゃうところでした。
手を伸ばさないと届きません。ちっこいってこういう時ちょっと不便ですね。
「食器持ってきましたよー、遅れてごめんなさいね。」
食器って備え付けがあるんですよね? 態々持ってきたんですか。
「遅いじゃない! 早く荷物の整理手伝いなさいよ!」
「はいはーい、ティシー、手伝ってくれてありがとうね。助かったよ。」
「ちょっと、何してるの! 何なの、その子供。」
多分子爵令嬢さんが玄関まで出てきました。
「食器運ぶの手伝ってくれたんですよ。」
「あ、ティシェール・コーチャ」
「ああ、今後関わることなんて無いんだから自己紹介なんて不要よ。用がないならさっさと帰ってちょうだい。」
あ、そうなんですか。リアさんとミリーちゃんと仲よくなれた気がしてちょっと調子に乗っちゃいましたかね?
「そうですか、それじゃあしつれいします。ごめいわくおかけしました。」
気分を害した時は素直に謝りませんとね。
「さようなら、ミリーちゃん。」
「うん、またね。」
「早くなさい。荷物は沢山あるんだからね。」
「はいはーい、ごめんねティシー。ティシェールっていい名前ね。」
「ありがとうございます。」
子爵令嬢さん、名前は分からなかったけど、元気がいい人でしたねえ。
「おまたせしました。まっててくれてありがとうございます。」
お礼は大切ですからね。ルームメイトです、少しでも早く仲よくなりたいですもん。
215号室のドアを見つめてますね。
「なんだか、あきれてます?」
あ、思わず口に出しちゃいました。でも、素で言わなくてよかったです。
それにしても今日はよく驚かれますね。驚くと相手を見つめる癖でもあるんですかね? このお姉さん。穴が空いちゃいます。冗談ですけど。
「......。」
あ、満足したみたいですね。
ドアを開けて中に入ったってことはついてこい、ってことですよね。
入ってすぐにリビングがありました、キッチンもありますね。ドアが4つあるので、1つはお風呂でしょうか?
「今日からここですむんですねえ。」
「あら、ちゃんと出迎えできたのね。」
「......。」
ドアの1つが開いて高等部くらいの女の人が顔を見せました。もう一人のルームメイトですね。
「ティシェール・コーチャスです。今日からおせわになります。」
挨拶はバッチリです。ティーが自己紹介すると、やっぱり驚くんですねえ。
「あらあ、コーチャスってあの公爵様のコーチャス? 初等部から通うなんて珍しいわね。
ってことはあのユリ・コーチャスの妹さん?」
"あの"が付くってユリ姉様は思いの外有名みたいです。
ティー、子爵令嬢の態度にも憤慨しないなんて、なんていい子!
深雪がそうさせたんですけど、天使です。癒しです。