第35話 ニーナちゃん逃走する。
とってもいい子なニーナちゃんが、突然非友好的な態度をとられる原因なんて1つしかありません。
黒い瞳や髪をもつハーフを"忌み子"と呼ぶような風習です。
あの後すぐにコス先生が来てくれたので、教室のはじっこであるティーたちの席に向かえました。段々と顔が青くなっていくニーナちゃんでしたが、何とか持ちこたえたようです。
ホームルームが終わった後に、皆とはお話しなければいけませんね。ニーナちゃん本人は何もしてないんだ、ってことをちゃんと理解してもらいます。
「では今日も1日頑張りましょう。はい、号令。」
あ、コス先生のお話を全く聞いていませんでした。
でも、今はそれどころではありません。
「きりーつ、れーい。」
「「ありがとうございましたー。」」
さあ、ティーがここで頑張らなくてどうするんですか。ニーナちゃんが頑張ってるんですから、ティーも手伝わなきゃです。
"一人で頑張らない"って約束もしましたからね。
「ティシーちゃん、わたしたちとあそぼー!」
「ティシーちゃんだけね、ニーナちゃんはまたこんどね。」
露骨です。ニーナちゃんの辛そうな顔にも気づかずに言ってます。
ティーがニーナちゃんを裏切るとでも思ってるんでしょうか。
「ねー、なんでニーナちゃんは、はいってないの?」
「なんでって、セリアさんがいってたんだもん。
いみごはいないほうがいいから、むしするんだ、って。
くろはきもちわるいの。いっしょにいないほうがいいの。」
セリアさんというのがどなたかは存じませんけどね、言っちゃいけないことも分からないんですかね。しかも子供相手に。
「なんで黒がきもちわるいの? なんで一緒にいちゃだめなの? りゆうが有るの?」
御大層な理由がある、って言うなら教えてほしいものです。なんでですか?
「え...、りゆうって、そんなの、みんなそうおもってるの。
レントくんたちだってほんとはそうおもうでしょ? いっしょにいたくないでしょ?」
自分が不利になったからって数に頼ろうとか、そんなのが認められる筈ないでしょう。
「え...。おれは、──」
「あっ、ニーナちゃん!」
今まで手足が震えても、顔をあげられないくらいの不安に襲われても、頑張って堪えてたのに。
遂にニーナちゃんがティーの手を振り切って逃げてしまいました。
周りの皆はポカンとしています。まるで、どうしてなのか分からない、とでも思ってるかのように。
「ひとつ皆にいいたいんだけどね、」
皆がこっちを向きました。
今すぐニーナちゃんを追いたいところですが、一言言いたいんです。
「ニーナちゃんが悲しくおもったの、みんながそうしたの、ちゃんとわかってる?」
本当に只のゲームのような感覚で、ニーナちゃんを傷つけることばかり言っていたように感じるのです。
まず、自覚をして欲しいです。
皆は何故か知りませんけど固まってるので、ティーはニーナちゃんを追いかけさせてもらいます。
もう既に、ニーナちゃんより優先させることなんてここにありません。
あ、廊下の先にニーナちゃんが走っているのが見えました! すぐに授業が始まる今の時間は廊下にいる生徒も少ないですね。一目でニーナちゃんを見つけられました。
ダッシュです!
「精霊さん、てつだってね! ニーナちゃんをおいかけるよ!」
ニーナちゃんが角を曲がってしまいました。でも、精霊さんがいれば見失ったりしません。
ニーナちゃんの走る速さと、ティーの走る速さはあまり変わらなくてなかなか距離が縮まりません。
けど、どこかで立ち止まる筈です。見失うことはないので絶対に追い付きます。
ニーナちゃんが闇雲に走って、立ち止まったのは校舎の裏にある林の中でした。
ニーナちゃんを追っている間に一時間目が始まってしまいましたが、これはしょうがないですね。ニーナちゃんの方が優先です。
「ニーナちゃん、ティーだよ?」
「ティシーちゃん...、チャイム。」
「いーの。いったでしょ? ティーはニーナちゃんのみかただよ。」
「うん、ティシーちゃんは、まもってくれた。
でも、やっぱりみんなは、すぐにニーナがきらいに、なっちゃうんだ...。
ニーナのみかたは、ティシーちゃんだけなの...。」
ティーは、ニーナちゃんになんて言ってあげられるんでしょうか? なにができるでしょうか?
どうすればいいんでしょうか...?
ただ、泣いている子はぎゅっとしたいです。とにかく、どうにか安心してもらいたいのです。
泣き止んでください。
テスト成績表が配られました。順位は前と変わらずです。喜ぶべきか、悔しがるべきか?
ティーはキレかかると幼げな喋り方と本来の喋り方がごちゃ混ぜになるという、よく分からない現象が起こるようです。
ニーナちゃん頑張って! きっとすぐに仲良しに戻れますから!




