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冥界の守護者  作者: 黒川 咲
第一章 闇の中の声
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第一話 不思議なアンティーク屋(2)

「セオ、これどう思う?」

 テーラは自分の顔の前までペンダントを持ち上げた。

 楕円形のそれはすこし汚れているものの、すばらしい銀細工が施されていた。花やツタが絡みつくように描かれており、上品さが漂っている。

『間違いないな。呪いがかけられているわけでもなさそうだし、大当たりってとこだな』

 やっぱりそうだよね、とテーラはペンダントをひっくり返しながら頷いた。

『それにしても、それ返しちまうのか?結構いいものだと思うぜ、それ。たぶん俺の世代くらいに作られたものだ』

「それならなおさらあの子に返さなくちゃ。エミーだっておばあちゃんの形見を手放すのは嫌だと思うもの。こっちの用がすんだら長い間持っている必要はないよ」

 テーラは長い茶色の髪を後ろに振り払いながらはっきりと言った。

「とりあえずは、"泣く"っていうのがどういうことなのか確かめてみないと」

『じゃあ夜中の12時まで起きておくつもりなのか?それなら俺を違う部屋にでも連れていってくれ。俺、夜は静かに過ごしたい派なんだよ』

「何言っているの。セオには睡眠なんて必要ないじゃない」

『……おまえ、たまにひどいこと言うよな』 

 そう?と軽く返事をして、テーラは首にある黒い石を軽く小突いた。



 *  *  *  *




「そろそろだね」

テーラは今は手のひらの上にあるチョーカーに向けて言うと、「やっとか」という返事が返ってきた。


時刻は0時5分前。場所は店の二階のテーラの寝室。

結局セオはこの時間までおしゃべりに付き合わされていたのだ。

 例のペンダントはベッドわきの小机にハンカチを敷いて置いてある。それが、隣に置いてあるランプの光に照らされて鈍く光っていた。

 ミリーの話では、夜なかに「泣きだす」ということだった。テーラはミリーのおばあちゃんがどんな人だったのか全く知らない。だが、やはり“泣く”ということは何か思い残したことでもあるのだろうか。


「ねえセオ。どうしてこのペンダントは泣くんだろう」

 ぼんやりと考え込んでいたテーラはふとセオに聞いてみた。

『そんなこと俺にわかるわけないだろ』

 そう言ってから少し間をおいてセオは再び話し出した。

『俺には死者がなぜ泣くのかは分からない。まだ死んだことがないからな。だが、おそらく自分のために泣いているのではないんだろう』

「自分のためではない?」

『自分のために泣いたって仕方ないだろ。自分の死に対して負の感情が湧くなら、それは悲しみではなく恨みとか憎しみだろ。それも自然な死に方ではなかった場合のことだ。

泣くっていうのは他人のためにするものだろ?』


それを聞いて、テーラはなるほどと納得する。

自分自身の境遇を思って泣くのは、それはつまり自分の周囲に対しての憤りや悔しさを表しているのだ。

テーラがさらに深く考えようとすると『来るぞ』とセオが注意を促した。


 突然銀のペンダントが震えだした。

 ハンカチで音は吸収されているが、なかったらカタカタという音がしていただろう。

 ランプの灯が揺れた。

 そしてその灯の揺れに合わせるように小さく囁くような声が聞こえてきた。




   ……ごめんね………約束…のに……一緒に………に…って………

 



 かすれた声はとぎれとぎれにしか聞こえなかった。

 だがその声も長い間は続かず、すぐに消えていった。

 カタカタというペンダントの振動も止み、ランプの明かりも元通り穏やかなものになっていた。



「セオ、今のって……」

『ああ。恐らくこの人の〈最期の想さいごのおもい〉なんだろうな。それが、その時身に着けていたこのペンダントにくっついちまったんだろうな』

 セオは淡々と推測を述べた。



 命と魂は全く別々の物であるが、同時に引き離すことのできないものでもある。

 テーラと会ってすぐのころにセオが言った言葉だ。

 魂というのは人の人格そのものであり、地上では一か所に留まっていられないほど軽くて不確かなものだ。

 一方命というのは、その魂を体に縛り付けておくための鎖のようなものだ。

 命が尽きれば魂は地上を離れ、冥界へと流れていく。



 だがときどき、何らかの理由で命の一部が物に移ってしまうことがある。

 そうすると、それとともに魂の一部もその物に宿ってしまい、完全には冥界へ行くことができなくなってしまい、“幽霊”などといったようなものになってしまうのだ。



 テーラは銀のペンダントを手に取り、そっとその表面を撫でた。少しくすんだ色をしたそれをいたわるように……。


「で、今片付けちまうのか?それともあしたにするのか?」


 セオは瞑想にふけるテーラをしばらく待っていたが、やがて耐えかねたようにそっと声をかけた。


「そうだね。もう遅いし、明日にするよ。エミーには三日後って言ってあるしね」


 ふわぁと大きくあくびをして、テーラは明かりを消した。

 

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