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冥界の守護者  作者: 黒川 咲
第一章 闇の中の声
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第一話 不思議なアンティーク屋(1)

 ここはスピーリィズという大きな国。

 今でこそ平和だが、三十年前まではこの国は戦乱状態だった。本来冥界にいるはずの死霊(しりょう)たちが大勢攻めてきたのだ。

 死霊たちの要求は、この国から王が退き政権を自分たちに譲ることだった。

 しかし国王軍や警邏隊の活躍により勝利を収めることができた。、人々はいまだに死霊の影に怯えて暮らしている。

 そういった経緯から、この国では死霊を操るネクロマンサーは忌み嫌われる存在となっている。


 そのスピーリィズにあるサークイルムという町に、一軒の店ができた。経営しているのは一人の年若い少女だという。そして、その店の扱うものは少し変わっているらしい。

 何でも、『古いもの』ならどんなものでも引き取るという。例えば大叔母の大事にしていたティーセットだとか、戸棚の奥にしまいこまれていた時計だとか、ページが黄色くなった書物だとか……。


 その店はほとんど引き取ることが主となっているが、なぜか少女はその商売だけで生計を立てているという。

 もちろん、店に買い物に来る人もいるにはいる。しかしその収入は十分な金額ではなく、安定もしていない。聞けば彼女は孤児院出身だという。そうなれば、親の後ろ盾もないのだろうに。

 

 その得体のしれない店は、町ではささやかな噂になりつつあった。







  *    *    *    *





 ふうっと溜息をついて、少女は本を閉じた。

「雨あがんないなあ……」

 陰鬱な空を映す窓に目をやり、少女が感慨深げにつぶやいた。

『なんだ、出かける用でもあるのか、テーラ』

 ぼんやりと外を眺める少女に、どこからともなく若い男の声が聞こえてきた。

 少女がいるのは一軒の店で、壁際にはたくさんの棚が並んでいる。棚にのっているのは本や時計やティーセットなどの使い込まれた感のあるものたちばかりだ。これらのものは、少女が商談の末に引き取ったもである。

 あるのはそんな古い物ばかりで、少女―――テーラのほかには人影などない。


「特に用はないけど、よく降るなあと思って」

 しかし少女はその声に当たり前のように返事をする。

「もし晴れたらクーレまで行こうかと思ったんだけど」

『なるほど、あそこは田舎だからじいさんばあさんがいっぱい住んでるしな。もしかしたらアタリがあるかもしれないな』

「しばらく見つけられてないもんね……。セオ、魂はまだ大丈夫?」

 テーラは首にある革製のチョーカーをいじりながら言った。

 その赤褐色のチョーカーの中央に、黒く丸いつややかな石がはまっている。

『ああ、前の時に多く頂いたからな、まだしばらくは大丈夫だ』

 声は気楽な調子で答えた。

 そっか、と返事をしながらテーラは立ち上がった。そして今まで読んでいた本を返そうと棚の一つに近づいた時だった。


 チリンチリン……


 ドアについている小さなベルが鳴った。

 振り返ってみるとドアを少し開けてこちらを覗いている七歳くらいの女の子と目があった。

「いらっしゃい、何の御用かしら」

 テーラが優しく言うと、女の子はそっと店に入ってきた。

「あの、この店は古いものを引き取ってくれるって聞いたんだけど……」

 女の子は棚に並ぶ品々を珍しげに眺めながらおっかなびっくり切り出した。

「ええ、そうよ。ここはアンティーク屋だもの。今日はどんなものを持ってきてくれたのかしら」

「あの、どんなものでも引き取ってくれるんですよね。どんなに古くても壊れてても使えなくても……その、えっと、あの……」

 言いにくそうにしている女の子から何かを感じ取り、テーラは女の子と目を合わせるようにしゃがみこんだ。

「もしかして、オバケがでるとか?」

 おどけたテーラの言葉に、女の子ははっと顔をあげた。




「お父さんとお母さん以外は誰も信じてくれなくて、でも捨てる気にもなれなくて、どうしようか悩んでたらこのお店の噂を聞いたの」


 女の子―――エミ―が持ってきたものは、銀製のペンダントだった。

 なんでも、最近亡くなった祖母のもので、エミ―が形見として受け取ったらしいが、毎晩十二時になるとすすり泣きが聞こえてくるのだという。

 最初は信じていなかった彼女の両親も、実際にその鳴き声を聞いてからは表情を変えた。エミ―に何度も捨てるように言い聞かせたが、エミ―は大好きな祖母のペンダントを捨てるなどしたくなかった。

 どうするか考えているうちに、近所のおばさんたちの噂話を偶然耳にした。

 どんなものでも古いものならば引き取ってくれる骨董品屋があると―――。






「最後の『骨董品屋』っていうところが気に入らないわね。ここは『アンティーク屋』よ」

 帰ったら近所のおばさんたちに訂正しておいてね、とテーラはエミ―に言った。

『別に骨董品もアンティークも変わらないだろう』

 面白がるように言う声にテーラは無言で首元の黒い石を指ではじいた。

 その突然の行動にぽかんとしていたエミ―に、テーラは咳払いをして取り繕った。

「話はよくわかったわ。つまりあなたは、このペンダントが夜なかに泣き出すのが怖いけど、おばあさんの物を捨てるようなことはしたくない。そういうこと?」

 エミ―はその言葉に、うんと答えた。

「それじゃ、三日後のこの時間にもう一度来てちょうだい。その時にこのペンダントをお返しするわ」

 にっこりと笑って言ううテーラに、エミ―は目をぱちくりさせた。

「あの、あたし、ペンダントを引き取ってもらいに来たんですけど……」

「大丈夫。三日後にはオバケもいなくなっているから」

 自信ありげに言うテーラに、しぶしぶという様子でエミ―は帰って行った。

 

 

 

 

 

同時連載になってしまうんですが書いちゃいます。

多分こっちのほうが早く進むと思います。

誤字脱字などご報告くだされば嬉しいです。

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