第五話 ヘルの贈り物
ロキは一心不乱にキーボードを叩いている。
それはもうあと数時間でアプリをリリースしなければならないエンジニアの不具合修正のように。
「これをこうして、あーちがうこれじゃ、こっちと干渉するから……」
鬼気迫るものを感じる。
「ハジメ様、少しこちらによろしいでしょうか」
「あ、はい」
ヘルはハジメを促し、これまた何もないところからテーブルとイスのセットを引っ張りだす。
これが神界の常識なのか?
「どうぞお掛けください」
ヘルに促されてハジメは席につく。
ヘルの背中越しに一心不乱なロキが見える。
「改めまして、ハジメ様。この度は姉の暴挙に巻き込んでしまい申し訳ございませんでした。本来であればハジメ様は元居た世界で生涯を閉じた後、この神界ではなく地球の神界に魂が誘導されて新しい命を与えられるはずでしたが、今回の姉の暴挙で管轄外の神界に無理やり呼び出してしまう形になってしまいました」
「俺って、本当は地球で第二の人生だったってことですか?」
「そうですね。本来であればですが。今回ハジメ様をこちらに呼び出してしまったので、地球側には地球側から呼び戻されない限り戻ることはできません。それと、呼び戻されたとしてもそれはハジメ様ではなく別の誰かに生まれ変わった状態でという意味です」
「どのみち俺にはどうすることもできないってことですか」
「そうなります。地球側で管理される魂は地球側に順応するように神界で調整されるのですが、そのままこちらの世界に案内してしまうと順応していない魂は定着せず、霧散してしまいます。それを無理やり、いえ、ごり押しで順応させているのが今私の背後で狂ったようにキーボードを叩いている姉です」
なるほど。
要するに俺は確実に被害者ってことだな。
「それにしても、神様たちもパソコンとか使うんですね」
「あぁそれは、神界でもよさそうなものはどんどん採用していくという方針なんです。その証拠に、今ハジメ様が座っているこの椅子も地球の家具店で見たことあるデザインじゃありませんか?」
ヘルは少し楽しそうに話している。
「確かに。それで、わざわざロキ様から俺を離して声をかけてくれたのはどうして?」
「それはですね、今回の件あまりに申し訳なく、私からはできることが少ないのですが少しばかりではありますが謝罪の意を込めて贈り物をと思いまして。ハジメ様両手を出してくださいますか?」
「これでいいですか?」
おずおずと俺は両手を出すと、ヘルはしっかり両手を握る。
両手から暖かい何かを感じた。
「これでいいです。この贈り物は姉の世界に入る瞬間に発動するので、現状姉にはバレません。次の命で少しでも役に立ってくれるといいのですが」
少しうつむきながらヘルは言う。
「いえ、とんでも無いです。ヘルさんが常識人でよかっ」
俺の声を遮り幼女の声がする。
「できたわ!!最高の設定よ!我ながら天才としか言えないわ!!!」
不安しかない。




