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左遷された辺境ギルド長は、戦わないのに最強でした  作者: アズマユージ


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第七話 面接に来たのは、理解者と臆病者

ーパーティーメンバー募集のお知らせー

ーーーーーーーーーーーー

求むパーティーメンバー。至難の依頼。僅かな報酬。

暗黒のダンジョンも辞さぬ日々。絶えざる危険。

生還の保証はなし。

ただし、活躍の暁には、人々が幸せになる。


募集人数:若干名

募集時期:可及的早期

募集パーティー:天衝のレゾナンス

ーーーーーーーーーーーー


 カイは翌朝、ギルドの掲示板に求人ポスターを貼った。


「我ながらなかなかいい出来だな」


満足気に微笑むカイの隣で、受付担当の男が呆れて言った。


「こんな募集、誰も手を上げませんよ、まったく」


「いいですね」

「カイさんらしいです」


 背後から、若い女性の声が聞こえた。

 振り向くと、埃一つついていない外套に身を包んだ女が立っている。

 その声を聞いた瞬間、カイはあんぐりと口を開けて言った。


「……セリーヌさん?」


 中央ギルド総務局長秘書。

 つい先日まで、局長室の隣にいたはずの人物だった。


 セリーヌは一礼し、淡々と言った。


「中央ギルドに辞表を提出して来ました」

「こちらのメンバー募集に、応募させてください」


 一瞬、言葉を失う。


「いやいやいや、これは冒険者パーティのメンバー募集ポスターだよ」


そう言われたセリーヌは、上目遣いで言った。


「ダメ…ですか?」


「……近いです。少し離れてください」


「ダメと言われても、私はもう仕事も辞めて家も引き払って来たのです」


「そう言われてもですねえ」

「わかりました!じゃあセリーヌさんはギルド職員として採用します」

「ちょうど事務仕事を任せられる人が欲しかったんです」


「ありがとうございます」

「謹んでお受けいたします」


そう言って、セリーヌは上品におじぎをした。


「ホントはあなたのような方が来るような場所じゃないんですけどね」

「まあ、俺としては願ってもないんですが」

「……ところで中央は、今どうなっているんですか」


 そう尋ねると、セリーヌはわずかに視線を落とした。


「正直に申し上げますと――混乱しています」


 淡々とした口調だが、疲労が滲んでいた。


「あなたが異動してから、総務局の調整が次々と破綻しました。

 部署間の衝突、予算の行き違い、現場への責任転嫁。

 誰も全体を見なくなり、押し付け合いばかりです」


 机の端を、軽く指で叩く。


「にもかかわらず……」

「今まで仕事が回っていた理由を、誰も認めようとしません」


 カイは何も言わなかった。


「『たまたまだ』

 『前任者がいなくても回る』

 『総務など替えはいくらでもいる』」


 一拍、間。


「評価は急落しました。

 総務局そのものが、信用されなくなっています」


 静かに息を吐く。


「それでも、誰もあなたの名前を出しません。

 出した瞬間、自分たちの無能を認めることになるからです」


 セリーヌは、少しだけ声を落とした。


「……正直、嫌気が差しました」


 初めて、感情が滲む。


「あなたは、部下の考えを否定しませんでした。

 間違っていれば修正し、うまくいけば任せる。

 そして、最終的な責任だけは、必ず自分で引き受ける」


 まっすぐに、カイを見る。


「私は、その姿勢を尊敬していました」


 小さく肩をすくめる。


「どうせ働くなら、そんな上司の下で働きたいと」

「……気づいたら、辞表を書いていました」


「でも、局長秘書なんて、皆が羨むポストでしょ?」

「後悔はないんですか?」


「ありません」


 即答だった。


 こうして、セリーヌはギルド職員として即日採用となった。


 翌日、早速彼女は何事もなかったようにギルドに来ていた。


「面接の補佐をします」

「書類整理も、掲示板の管理もできます」


「……助かります」


 それだけで十分だった。


 ――そして、面接が始まった。


 正直に言って、ろくな応募者が来なかった。


「へへ、ヒーラーって女多いんでしょ?」

「俺、夜の回復も得意でさ」


 エロ親父は、その場で追い返した。


「働く気? まあ、あったら考えるけど?」

「楽そうだし~」


 社会を舐めたギャルは、セリーヌが無言で書類を返した。


「俺、最強になるからさ!」

「給料は前払いでいい?」


 くそ生意気なガキは、マックスが無言で睨んで帰らせた。


 夕方。


 机の上には、不採用の書類だけが積まれている。


「……なかなか、ですね」


 セリーヌが静かに言う。


「ええ」


 カイは苦笑した。


「必要な人ほど、来ないものです」


 その時だった。


 控えめなノック音。


「……あの、まだ、間に合いますか」


 小さな声。


 扉の向こうに立っていたのは、若い女性だった。


 視線は落ち着かず、背中を丸めている。

 回復術師のローブは着ているが、使い込まれている。


「エルナと、申します」


 受付職員が小声で囁く。


「肝心な時にいないヒーラーです」

「逃げ癖があるって」


 エルナの肩が、びくりと震えた。


 だがカイは、その評価に反応しなかった。


「どうぞ、お掛けください」


 面接が始まる。


「得意な回復魔法は?」


「……範囲回復、です」

「事前付与の防護と、再生も……」


「前線には?」


「……出ません」


 即答だった。


 空気が、わずかに冷える。


「理由を聞いても?」


「……魔力残量が、分からなくなるのが怖いんです」

「何回、使えるか……常に、数えていないと……」


 カイの視線が、わずかに変わる。


(逃げているのではない。測っているんだ)


 命の重さを。


「質問は以上です」


 書類を閉じる。


「採用です」


 エルナは、目を見開いた。


「……え、でも」

「私、評判が……」


「承知しています」


 カイは頷いた。


「ですが、必要なのは勇気ではありません」

「命を軽く扱わない人です」


 エルナの目に、涙が滲んだ。


「今回の募集は、ここまでにします」


 セリーヌが静かに頷く。


「了解しました」


 面接室を出る二人の背中を見送りながら、カイは思う。


 ――まだ、攻撃力は足りない。


 だが。


 必要な人材は、確実に集まり始めている。


 アタッカーは、きっとまた別の形で現れるだろう。


 カイは、掲示板をもう一度だけ見上げて独り言ちた。


「この募集文は、まだ剥がさないでおこう」

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