第六話 成果と評価は同じじゃない
遺跡を出た頃には、日が傾いていた。
帰り道は静かだった。
誰も大声で笑わず、戦果を誇ることもない。
それでも足取りは、前回より確かに軽い。
少なくとも――失敗した帰路の重さはなかった。
町に戻り、ギルドの受付で報告書を提出する。
受付の職員は書類に目を通し、淡々と頷いた。
「階層ボス討伐、確認しました」
「被害報告……なし、ですね」
マックスが胸を張りかけて、やめた。
「……ああ」
「報酬は通常どおりです」
「前回の未達分は、今回で相殺されます」
「お疲れ様でした」
それだけだった。
拍子抜けするほど、事務的なやり取り。
「……終わりか?」
マックスが小さく呟く。
「終わりだな」
グレンが短く答える。
誰も「よくやった」とは言わない。
誰も「すごい」とは言わない。
事故が起きなかった。
それが、すべてだった。
フロアでは、いくつかのパーティが騒いでいる。
「おー!新しい依頼、報酬高いぞ!」
「よしっ!討伐数、更新だ!」
歓声と笑い声。
そちらに視線が集まり、すぐに逸れる。
マックスは、少しだけ居心地悪そうに鼻を鳴らした。
「……なんか、拍子抜けだな」
リリアは何も言わなかった。
だが、表情は前よりも柔らかい。
ギルド奥の簡易報告室で、カイは三人に向き直った。
「お疲れさまでした」
それだけ。
「……あんた、他に言うことねえのか」
マックスが、ぶっきらぼうに言う。
「もっと、こう……」
「うまくやった、とかよ」
カイは少し考えてから、首を振った。
「あなたたちの実力からすれば、当然の結果です」
正直な言葉だった。
「失敗していれば問題になります」
「成功しても、何も起きません」
グレンが、ふっと息を吐く。
「……いつものやつだな」
「はい」
カイは頷いた。
そして、少しだけ声を落とす。
「皆さんは、まだ若いからピンと来ないかもしれませんが」
三人を見る。
「褒められる仕事なんて、本当に一握りです」
「大半は、ちゃんとこなして当たり前」
「失敗しなかったから、誰にも気づかれない」
一拍、間を置いた。
「でも、どこかで誰かが困らずに済んでいる」
「誰かが、安心して眠れている」
「それで、十分じゃないでしょうか」
しばらく、沈黙。
「まあでも、初めての依頼達成、おめでとうございます」
その言葉に、グレンの目がわずかに揺れた。
拍手はない。
称賛もない。
だが、否定もなかった。
マックスが、頭を掻く。
「……まあ」
「悪くは、なかったな」
リリアは、小さく頷いた。
「……怖く、なかったです」
その一言で、胸の奥がじんと温かくなる。
グレンは壁にもたれ、視線を逸らしたまま言った。
「……次も、同じ配置でいいのか」
「ええ」
カイは即答した。
「ただし」
三人が顔を上げる。
「無理を続けると、ほころびが出ます」
「ですので次は、補充を考えます」
グレンの口元が、わずかに緩む。
「当たり前だ」
「おっさんに一人二役を続けさせるのは酷ってもんだぜ」
それ以上は言わなかった。
報告を終え、三人が部屋を出ていく。
その背中を、カイは静かに見送る。
――派手さはない。
だが、確かに前に進んでいる。
評価されない仕事が、
今日も、何事もなく終わった。
それでいい。
少なくとも、今は。
「……そういえば」
そんな彼らの背中に向けて、
カイが、ふと思い出したように言った。
「君たちのパーティ、名前はありますか」
三人は顔を見合わせる。
「ねえな」
「即席だし」
「そうですか」
一拍。
「では」
「今回の依頼を、無事に終えた記念に名前を付けましょう」
「報酬の支払いのためにも、パーティ名は必要です」
「そうですね。天衝レゾナンス、というのはどうでしょう」
説明はしない。
理由も語らない。
それでも、不思議としっくり来た。
それが、後に辺境ギルドのエースとして名を馳せる「天衝のレゾナンス」が誕生した瞬間だった。




