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左遷された辺境ギルド長は、戦わないのに最強でした  作者: アズマユージ


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第五十話 謎のAランク冒険者

 その日、辺境ギルドの空気は、わずかにざわついていた。


 理由は単純だ。


 珍しい依頼が出ていたからでもなければ、魔獣の異常が報告されたわけでもない。


 噂だ。


 中央でも名が知られているAランク冒険者が、この辺境に現れるらしい――そんな話が流れていた。


「ほんとかよ、それ」


 マックスが依頼掲示板の前で腕を組む。


「Aランクなんて、中央でもそう多くはないだろ」


「もちろんです。しかも、どうやら少し変わった人みたいですよ」


 リリアが声を潜める。


「短期間しか活動しないんですって」


「短期間?」


 グレンが眉を上げる。


「気が向いたときだけ依頼を受けて、ふらっと消えるらしい」


「なんだそりゃ」


「でも、難しい依頼ばかり選んで成功させてるみたい」


 エルナが補足する。


「中央でも謎のAランクとしてかなり名前は知られているそうよ」


「所属がはっきりしない、って話もある」


 オスカーが帳簿から顔を上げずに言った。


「紹介状も推薦状ももらっていないのに、Aランクとして登録されている」


「例外扱いだな」


 ヴァレリアが短く言う。


「例外が認められるってことは」


 グレンが肩をすくめる。


「それだけ実力があるってことだ」


 マックスが鼻を鳴らした。


「ふーん。まあ強けりゃ歓迎だ」


「うちの仕事は楽じゃねえからな」


 そんな会話が交わされていた、その時だった。


 入口の扉が開いた。


 昼下がりの光が差し込む。


 入ってきたのは、一人の男だった。


 年の頃は三十前後。


 軽装。


 剣は帯びているが、重武装ではない。


 外套の着こなしはどこか気取って見える。


 第一印象だけなら、少し腕の立つ旅人、といったところだった。


 男はフロアを見回し、にこやかに言った。


「久しぶり来てみたら、なんか見違えたな」


「ホントにここ、辺境ギルドなのか?」


 軽い口調だった。


 気負いも威圧感もない。


 受付の職員が頷く。


「はい、間違いありません」


「いやあ、あの荒んだギルドが、ちょっと見ない間にいい雰囲気になっちゃって」


「ギルド長が変わったからな」


 奥にいたオスカーが、受付女性と交代して応対した。


「そんなことより、用件は?」


「ああ、そうだな」


「依頼を受けたい」


 さらりと言った。


「しばらくこの辺りに滞在する予定でね」


 言葉遣いは丁寧だが、どこか軽い。


 リリアが小声で聞いた。


「……あの人が謎のAランク?」


「だろうな」


 グレンが観察するように視線を向ける。


 マックスは腕を組んだまま言った。


「なんか普通だな」


 オスカーが書類をめくりながら言う。


「名前とギルドカードを」


「アレクだ」


 それだけ言って、金色のギルドカードを無造作にカウンターに置いた。


 オスカーは軽く眉を動かしたが、それ以上は聞かなかった。


「……Aランク冒険者のアレクさんか」


 小さく呟いた。


 周囲の視線が集まる。


 アレクは肩をすくめる。


「大したもんじゃない」


「気まぐれに依頼を受けているだけさ」


 軽く言う。


 だが、その余裕は作ったものではなかった。


 無理がない。


 自然にそこにある。


 グレンが小さく口笛を吹く。


「本物か」


 マックスが言った。


「なんか拍子抜けだな」


「マックス、ダメよ!聞こえるわ!」


 エルナがすかさず注意したが、時既に遅し。


 それを聞いたアレクは、楽しそうに笑う。


「噂が独り歩きしてるだけさ」


「でもまあ、期待を裏切らないように努力はしているつもりだ」


 軽口だ。


 だが不思議と嫌味にならない。


 オスカーが依頼書を数枚抜き出す。


「Aランク向けの依頼は多くない」


「この辺境ではな」


「今あるのは、これだけだな」


「うちのエースパーティとの協働案件となるが」


「構わない」


 アレクは覗き込む。


「難しすぎるのも困るしな」


「まあ、久しぶりの依頼だから、肩慣らしになっていいだろう」


 その言い方が、少しだけ引っかかった。


 グレンが小さく笑う。


「肩慣らし、ね」


「言ってくれるじゃねえか」


「怒らせたかな」


「いや」


 グレンは首を振る。


「むしろ分かりやすい」


 ヴァレリアが一歩前へ出る。


「それで、協働は可能なの?」


 単刀直入だった。


 アレクは少しだけ考えた。


「もちろんさ」


「まあ、気楽にやろうぜ」


 言い方は柔らかい。


 だが、自信がにじんでいた。


 マックスが笑う。


「面白え」


「やってみようじゃねえか」


 カイは少し離れた位置から、そのやり取りを見ていた。


 視線は鋭くもなく、柔らかくもない。


 ただ観察している。


 アレクがふと気づいたように、カイへ視線を向けた。


「あなたがギルド長かな」


 軽い調子で言う。


「ええ、ギルド長のカイ・アークライトです」


「アレクだ」


 アレクは手を差し出した。


 気軽な仕草だった。


 だがその手は、剣を握り慣れている。


 無駄な力みがない。


「よろしく頼む」


 短い握手。


 それだけだった。


 だが、ほんの一瞬だけ。


 互いに相手を測った。


「この辺りは久しぶりとのことでしたね」


 カイが聞く。


「ああ」


 アレクは少しだけ空を見た。


「昔、通ったことがある」


 一拍。


「かつての最強も、すっかり鳴りを潜めていたが」


「どうやら最近盛り返したと聞いてな」


「天衝のレゾナンスの噂も聞いている」


 そう言いながら依頼書に目を落とす。


「よし、これにしよう」


 選んだのは、魔獣討伐。


 難度は中程度。


 だが数が多い。


「せっかくだ」


 アレクは笑った。


「噂のギルド長の指揮も、一度見てみたい」


 カイが苦笑いを浮かべて言う。


「どんな噂か少し怖いですが、いいでしょう」


「今回は、同行させてもらいます」


「では、出発は明日の朝。ここに集合してから行きましょう」


 マックスが嬉しそうに笑う。


「塔攻略戦以来だな!」


 天衝と、謎のAランク。


 奇妙な組み合わせだった。


 だが、不思議と違和感はない。


 アレクは出口へ向かいながら言った。


「しかしこの辺境ギルド、本当に整っているな」


「運営がいいのかな」


 カイは答えない。


 ただ小さく言った。


「普通のことをしているだけです」


 アレクは振り返り、少しだけ笑った。


「簡単なようで、それが一番難しいんだ」


 軽い口調。


 だが言葉の重さは、どこか本物だった。


 その違和感に気づいた者は、まだ少ない。


 謎のAランク冒険者、アレク。


 彼の滞在が、辺境に新たな変化をもたらすことを。


 この時、まだ誰も知らなかった。


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