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左遷された辺境ギルド長は、戦わないのに最強でした  作者: アズマユージ


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第四十九話 議事録

## 辺境北部塔事案に関する特別監査会議


---

議事録(要旨)

---


**議題**

辺境北部における防衛機構異常事案への対応について


---

**確認事項**


一.当該事案は、辺境伯からの非公式依頼を端緒とする


一.現地調査の結果、塔内部に存在する防衛機構の誤作動が原因と判断された


一.現地対応戦力は以下の通り

 ・辺境ギルド所属パーティ

 ・中央所属Aランクパーティ銀牙


一.現場指揮は辺境ギルド長カイ・アークライトが執った


一.対応内容は、防衛機構の破壊ではなく停止および再起動


一.当該装置の機能維持を確認


一.周辺集落への直接被害なし


一.参加戦力に死者および重傷者なし


---


**評価**


本件における現地判断は、状況を踏まえた合理的判断であったと認められる。


限られた戦力および時間的制約の中で、被害の最小化が達成された点は評価に値する。


一方、中央への事前報告および正式承認手続きを経ていない点については、組織運営上の課題として整理される。


同様の事案発生時における報告体制の明確化が望まれる。


---


**決定事項**


辺境ギルドの判断は、緊急性を踏まえた措置として一定の合理性を認める。


ただし、正式手続を経ていない点については問題がある。


よって、本件に関しては厳重注意とする。


---


 最後の行を書き終え、レオンハルトはペンを置いた。


 インクが紙へ染み込むのを、しばらく待つ。


 余計な装飾はない。


 余計な評価もない。


 事実のみを整理した文面。


 それだけで十分だった。


 机の上に置かれた資料へ視線を落とす。


 会議のやり取りが頭の中で反芻される。


 総務局長の主張。


 中央ギルド長の判断。


 そして。


 辺境ギルド長、カイ・アークライト。


 報告書もまた、無駄のない文面だった。


 必要な情報のみ。


 結論へ至る過程が、簡潔に整理されている。


 昔からそうだった。


 説明が少ない。


 だが、読む側に必要な情報は過不足なく含まれている。


「……相変わらずですね」


 小さく呟く。


 あの人は昔から、順序を軽視する。


 必要だと判断すれば、迷わず踏み越える。


 手続き。


 慣例。


 承認経路。


 そういったものを、軽んじているわけではない。


 ただ。


 優先順位が違う。


 結果を出すことを最優先にする。


 そのやり方を、レオンハルトは好まない。


 秩序は必要だ。


 組織は、仕組みで動く。


 例外が増えれば、いずれ機能しなくなる。


 だからこそ、自分は中央に残った。


 手続きを整える側に立った。


 それが役割だと理解している。


 だが。


 今回の報告書を読み、会議を聞き。


 否定しきれない部分があることも認めざるを得なかった。


 結果は出ている。


 しかも、最良に近い形で。


 防衛機構は破壊されていない。


 人的被害も出ていない。


 戦力運用も合理的。


 文句のつけようがない。


「やり方は認めませんが」


 小さく言う。


「結果は否定出来ない」


 それが事実だった。


 議事録は、評価文書ではない。


 事実の整理。


 それだけだ。


 だが、事実というものは厄介だ。


 感情がなくても。


 評価を加えなくても。


 並べるだけで、意味を持ってしまう。


 机上の紙へ視線を落とす。


 合理的判断。


 被害なし。


 機能維持。


 その単語の並びだけで、十分すぎるほどだった。


 レオンハルトは紙を整え、秘書室長の机上に置かれた”未決”と書かれた箱へ入れる。


 しばらく後、総務局長が議事録に目を通した。


 視線が数行を往復する。


 やがて、紙を机に置いた。


「レオンハルト君」


「会議というのはな、議事録がすべてなんだ」


 独り言のように言う。


「その場でどんな議論がなされようとも」


「最終的に残るのは、ここに書かれた結果だけだ」


 一拍。


「君なら分かるな?」


 レオンハルトは静かに答えた。


「しかし、今回の件は他に書きようがありません」


 総務局長はわずかに目を細めた。


 しばらく紙面を見つめる。


「……結果的には、こう纏まってしまうか」


 小さく息を吐く。


 諦めきったわけではない。


 だが、覆せる内容でもない。


 事実が整いすぎている。


「まあ、やむを得ん」


 それだけ言った。


 議事録は、いずれ中央の保管庫へ収められる。


 必要な時に参照される。


 あるいは、されないまま残る。


 だが。


 記録は消えない。


 残る。


 評価がどう変わろうと。


 人の印象がどう移ろうと。


 事実はそこにある。


 レオンハルトは部屋を出た。


 廊下を歩きながら、小さく息を吐く。


「……本当に」


 一拍。


「厄介な人だ」


 だが、その声音には僅かな苦笑が混じっていた。


 認めたわけではない。


 評価したわけでもない。


 ただ。


 事実として。


 結果だけは、確かに残った。


 議事録という形で。


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