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左遷された辺境ギルド長は、戦わないのに最強でした  作者: アズマユージ


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第四十八話 評決

 辺境ギルドの扉を、マックスは何度目か分からないほど振り返った。


 意味はない。


 扉を見ていたところで、戻ってくる時間が早まるわけではない。


 分かっている。


 分かっているのだが、どうしても視線が向いてしまう。


「落ち着きなさいよ」


 リリアが呆れたように言った。


 だがその声にも、いつもの余裕はない。


「うるせえな」


 マックスは腕を組んだまま答える。


「別に落ち着いてねえわけじゃねえ」


「十分落ち着いてない」


 グレンが即座に言った。


「さっきから同じ場所を三回往復してるぞ」


「数えてんじゃねえ」


「目に入るからな」


 エルナがため息をつく。


「あんた、昨日からずっとそんな調子だろ」


「昨日だけじゃない」


 リリアが小さく言った。


「一昨日も」


 マックスが舌打ちする。


「……そりゃ、気になるだろ」


 誰も否定しなかった。


 カイとセリーヌが中央へ向かったのは数日前。


 会議の結果がどうなるのか。


 分からないままだった。


 重い処分が下る可能性もある。


 最悪の場合――


 そこまで考えたところで、マックスは頭を振った。


「大丈夫だ」


 誰に言うでもなく呟く。


「カイさんだぞ」


 ヴァレリアが短く言う。


「問題ない」


 その一言は妙に説得力があった。


 だが、不安が消えるわけではない。


 落ち着かない空気が、ギルドの中に漂っていた。


 扉が開く音がした。


 全員の視線が、一斉にそちらへ向く。


 入ってきたのは、二人だった。


 カイとセリーヌ。


 いつも通りの姿。


 傷もない。


 変わった様子もない。


 カイが軽く頭を下げる。


「ただいま戻りました」


 それだけだった。


 声も表情も、普段と変わらない。


 だが。


「お帰りなさい!」


 リリアが駆け寄る。


 エルナも、ほっとしたように息を吐く。


 グレンが肩の力を抜く。


「無事でよかった」


 ヴァレリアも小さく頷いた。


 マックスだけが、少し遅れて口を開いた。


「……」


 何か言おうとして、言葉が出ない。


 代わりに、鼻をすする音がした。


 グレンが吹き出す。


「お前、まさか」


「うるせえ!」


 マックスが顔を背ける。


「もう戻って来られねえかと思ったんだよ!」


 思わず本音が出た。


 リリアが小さく笑う。


「マックス、心配しすぎ」


「お前らだって上の空だったじゃねえか!」


 マックスが言い返す。


 エルナが肩をすくめる。


「否定はしない」


「まあな」


 グレンも苦笑する。


 そのやり取りを見て、セリーヌが小さく息をついた。


 緊張が解けた空気。


 それだけで十分だった。


 グレンが口を開く。


「そんなことより」


 一拍。


「結果はどうだった?」


 静かに聞いた。


 誰も軽い調子では聞けなかった。


 カイとセリーヌが、一瞬だけ顔を見合わせる。


 そして、わずかに微笑んだ。


「私から説明しましょう」


 セリーヌが前に出る。


 事務的な口調だった。


 だが声は柔らかい。


「中央の判断としては」


 一度言葉を区切る。


「現地判断は合理的であった、と認められました」


 その一言で、空気が少し変わる。


「ただし」


 続ける。


「正式手続きを経ていない点については問題があるとされ」


「厳重注意」


「という扱いになりました」


 沈黙が落ちる。


「……それだけか?」


 マックスが聞いた。


「それだけです」


 セリーヌは頷く。


 グレンが息を吐いた。


「中央にしては穏当だな」


「むしろ予想より軽い」


 エルナが言う。


 リリアが胸に手を当てる。


「よかった……」


 ヴァレリアは短く言った。


「当然」


 マックスが顔を上げる。


「とにかく」


「今まで通りでいいんだな!」


「お前は単純でいいな」


 グレンが言う。


「うるせえ!」


 マックスが言い返す。


 その様子を見て、カイが小さく息を吐いた。


「問題が整理されたのであれば十分です」


 それだけ言う。


 評価の重さも。


 政治的な意味も。


 特に語らない。


 いつも通りだった。


 オスカーが帳簿を閉じる。


「では」


 一拍。


「恒例の打ち上げだな」


 顔を上げて言った。


「今夜の飲み代はギルド持ちだ」


「みんな、腹いっぱい食って飲んでくれ」


 一瞬の静寂。


 そして。


「よっしゃあ!」


 マックスが叫ぶ。


「結局それか」


 グレンが笑う。


「いいじゃない」


 リリアが笑顔になる。


 エルナも頷く。


 ヴァレリアは小さく息を吐いた。


 いつもの空気だった。


 辺境ギルドの日常。


 特別なことはない。


 だが、それが何よりも尊い。


 騒がしい声が広がる。


 椅子が動く音。


 笑い声。


 誰かが酒の話をしている。


 セリーヌは帳簿を整えながら、その光景を見ていた。


 カイはすでに次の依頼書に目を通している。


 普段と同じ光景。


 変わったことがあるとすれば。


 中央も、もう無視は出来ない。


 それだけだった。


 辺境の夜は、いつも通り賑やかに更けていく。


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