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左遷された辺境ギルド長は、戦わないのに最強でした  作者: アズマユージ


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第四十六話 シュタイン公爵

 シュタイン公爵邸、書斎。


 壁一面の本棚。

 年代物の装丁が並んでいる。


 軍記。

 統治論。

 外交記録。


 どれも実務のための書物だ。


 装飾として置かれているものは少ない。


 机の上には、一通の書簡が置かれていた。


 差出人は、中央ギルドAランクパーティ銀牙のリーダー、アルトリウス。


 シュタイン公爵家の三男だ。


 封は既に切られている。


 読み終えたばかりだった。


 シュタイン公爵は椅子に深く腰掛け、指先で書面を軽く叩いた。


「辺境、か」


 独り言のように呟く。


 傍らには側近が控えていた。


「珍しい内容でしょうか」


「珍しいな」


 短く答える。


「あの跳ねっ返りがここまで具体的に人物を評価することは少ない」


 書簡へ視線を落とす。


 戦闘経過。


 戦力配置。


 指揮判断。


 簡潔だが、要点は押さえられている。


 そして最後に、一文。


 辺境ギルド長、カイ・アークライトについての所見。


 無駄のない文章。


 だが評価は明確だった。


 合理的。

 冷静。

 責任を取る覚悟がある。


 現場指揮官として信頼できる。


 シュタイン公爵は小さく息を吐いた。


「辺境にこのような人材が残っていたとはな」


 側近が言う。


「中央では特段評価されていなかった人物です」


「だろうな」


 公爵は頷く。


「知られていれば、中央が手放すはずがない」


 一拍。


「あるいは」


 わずかに口元を緩める。


「手放したことにも気付いていないか」


 書簡を机に置く。


「中央ギルドはどう動いている」


「特別監査会議が開かれたとの情報があります」


「処分を検討している可能性も」


 公爵は小さく笑った。


「相変わらずだな」


 嘲るような笑いではない。


 呆れに近い。


「現場が結果を出すと、手続きの話になる」


「内政に明け暮れていると、組織は鈍る」


 指で机を軽く叩く。


「武を扱う組織であれば、なおさらだ」


 側近は静かに頷く。


「いかがなさいますか」


 公爵は即答した。


「中央ギルド長へ書簡を送る」


 短い言葉。


 だが意味は重い。


「事実確認の邪魔をする必要はない」


「だが」


 一拍。


「優先順位を見誤るな、と伝えておけ」


 側近が控えめに問う。


「どの程度の調子で」


 公爵はわずかに考えた。


 そして答える。


「助言の形でよい」


「圧力にする必要はない」


「理解できる相手なら、それで足りる」


 書簡を手に取る。


 もう一度だけ視線を落とした。


「辺境に逸材がいるなら」


「捨て置くには惜しい」


 静かな声だった。


 だが評価は明確だった。


 個人への評価ではない。


 組織への評価でもない。


 国力への視点だった。


「武を扱う者は、戦える者を軽んじてはならん」


 それだけ言った。


 側近は一礼し、部屋を出ていく。


 静かな書斎に残されたのは、公爵と書簡だけだった。


 シュタイン公爵は椅子にもたれた。


 視線を天井へ向ける。


「……面白くなってきた」


 小さく呟いた。


 それは期待でも、興味本位でもない。


 ただ、可能性を見た者の声だった。


 辺境。


 忘れられがちな土地。


 だが時に、思わぬ芽が残っている。


 それを見落とすほど、彼は鈍ってはいなかった。


 武門の家に生まれた者として。


 かつて王国の至宝と謳われた偉丈夫も、寄る年波には勝てない。


 しかし、見極める目だけは、衰えていなかった。

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