表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
左遷された辺境ギルド長は、戦わないのに最強でした  作者: アズマユージ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/51

第四十五話 相容れない二人

 中央ギルド会議棟の廊下は、来た時と変わらず静かだった。


 重厚な扉が閉まる音だけが、わずかに余韻として残る。


 特別監査会議は終わった。


 結論は出ていない。


 だが、問われるべきことは一通り問われた。


 セリーヌは小さく息を吐いた。


 緊張が解けた、というほどではない。


 だが、一区切りついた感覚はあった。


 廊下の窓から光が差し込んでいる。


 中央の建物はどこも造りが堅い。


 無駄な装飾は少ないが、素材は上質だ。


 権威を示すというより、

 長く続いてきた組織であることを感じさせる空気だった。


 曲がり角へ差し掛かった時、声が掛かった。


「久しぶりですね、カイさん」


 振り向くまでもない。


 聞き慣れた声だった。


 壁際に立っていた男が、一歩前に出る。


 整った身なり。

 隙のない姿勢。


 レオンハルトだった。


 かつて中央ギルドで共に働いていた後輩。


「ご活躍のようで何よりです」


 言葉だけなら祝意に聞こえる。


 だが声音にはわずかに皮肉が混じっている。


 カイは特に表情を変えなかった。


「久しぶりですね」


 短く答える。


 レオンハルトは口元だけで笑った。


「このたびは塔攻略、おめでとうございます」


 素直に祝っているのか、そうでないのか。


 判断しづらい言い方だった。


「報告書を拝見しました」


 一拍。


「あなたらしい」


 視線が真っ直ぐ向けられる。


「簡潔で無駄がない」


「状況がよく分かる」


「良い報告書です」


 率直な評価だった。


 セリーヌがわずかに意外そうな表情をする。


 だがレオンハルトの言葉はそこで終わらなかった。


「ただし」


 わずかに声の調子が変わる。


「手続き無視も、あなたらしい」


 沈黙が一瞬落ちる。


「まだそんなことをやっているのですか」


 淡々としている。


 だが明確に批判だった。


「ここは仲良しクラブじゃないんだ」


「規律を無視した組織は、もはや組織じゃない」


 一歩だけ距離を詰める。


「はっきり言います」


「あなたのやり方は邪道です」


 言い切った。


「私は認めるわけにはいかない」


 視線は逸らさない。


 敵意ではない。


 信念だった。


 カイもまた、視線を外さなかった。


「そうですか」


 それだけ答える。


 言い返さない。


 説得もしない。


 昔から変わらないやり取りだった。


 レオンハルトは小さく息を吐く。


「ですが」


 一拍。


「結果が出ていることは事実です」


 評価と否定を、同時に置く。


「だからこそ、扱いが難しい」


 小さく肩をすくめる。


「相変わらず、厄介なことをしてくれますね」


 それだけ言って、一歩下がる。


「では、私は忙しいのでこれで」


 形式的な一礼。


 だが最後に一言だけ残した。


「会議の結果は、そう遠くないうちに出るでしょう」


 言外の意味を含ませた言い方だった。


 レオンハルトは踵を返し、廊下の奥へと歩いていく。


 足音が静かに遠ざかる。


 セリーヌが小さく呟いた。


「……変わりませんね、あの人も」


 少し呆れたような声だった。


「素直に認めたらいいのに」


 カイはわずかに苦笑した。


「彼には彼なりのポリシーとスタイルがあるのでしょう」


 一拍。


「まあ、昔から馬は合いませんでしたから」


 事実だった。


 価値観が違う。


 優先順位も違う。


 だが、能力は互いに理解している。


 だからこそ、噛み合わない。


 建物の外へ向かって歩き出す。


 石畳に足音が響く。


 中央の空気は変わらない。


 秩序があり、静かで、そして硬い。


 今回の会議がどう結論づけられるか。


 まだ分からない。


 だが少なくとも、軽く扱われる案件ではない。


 それだけは確かだった。


 会議の結果が出るまでは、落ち着かない日々が続く。


 それはカイにとっても、セリーヌにとっても同じだった。


 そして。


 中央にとってもまた、例外ではなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ