第四十三話 特別監査会議
中央ギルド本館、上層会議棟。
白い石造りの外観は装飾こそ控えめだが、細部の造形は精緻だった。
柱の基部には緩やかな彫刻が施され、壁面には歴代ギルド長の紋章が控えめに刻まれている。
華美ではない。
だが、軽くもない。
長い年月をかけて積み重ねられてきた権威が、そのまま形になったような建物だった。
案内された会議室も同様だった。
天井は高い。
余計な装飾は少ない。
だが材質は良い。
中央には大きな円卓。
序列を感じさせない形でありながら、着席位置によって立場が分かる配置だった。
正面に中央ギルド長。
その左右に幹部。
総務局長も出席している。
壁際には数席。
そこに陪席として座っているのはレオンハルトだった。
机上には既に資料が並べられている。
カイとセリーヌは案内され、円卓の一角へ着席した。
静かだった。
誰も無駄な言葉を発しない。
だが視線だけが向けられている。
値踏みするようなものではない。
観察する視線。
中央ギルド長が口を開いた。
「本件について、事実確認を行う」
簡潔だった。
「回答は、事実のみでよい」
圧力ではない。
だが余地もない。
秘書室長が資料を開く。
「まず、依頼受託の経緯について確認します」
「辺境伯から非公式依頼があった」
「その時点での判断を説明してください」
カイは間を置かず答えた。
「当初、依頼の受託は困難と判断しました」
数人の視線が動く。
「理由は」
「戦力不足です」
簡潔だった。
「当該案件は難度が高く、かつ緊急性が高い」
「現有戦力では成功率が低いと判断しました」
中央ギルド長が小さく頷く。
合理的な判断だ。
秘書室長が続ける。
「その後、中央Aランクパーティ銀牙が関与しています」
「経緯を」
「援軍として参加いただきました」
それ以上は言わない。
事実のみ。
「銀牙参戦後、受託可能と判断した」
「はい」
総務局長が口を開く。
「中央所属Aランクが、非公式案件へ参加している」
「異例です」
カイは否定しない。
「結果として、戦力要件を満たしました」
表現は変わらない。
あくまで合理判断。
そこで、セリーヌが口を開いた。
「補足します」
視線が集まる。
「銀牙への連絡は、私の判断です」
静かな声だった。
だが迷いはない。
「当時の戦力では対応不能と判断しました」
「追加戦力の確保が必要でした」
総務局長が視線を向ける。
「独断ですか」
「はい」
即答だった。
カイは何も言わない。
遮らない。
訂正もしない。
秘書室長が確認する。
「辺境ギルド長は、事前に承認していない」
「はい」
セリーヌが答える。
「報告は事後になりました」
円卓の空気がわずかに変わる。
責任の所在が整理され始めたからだ。
総務局長が言う。
「中央所属Aランクへの直接依頼は、通常想定されていません」
「承知しています」
セリーヌは視線を逸らさない。
「しかし当時は、時間的余裕がありませんでした」
中央ギルド長が初めて問いを変えた。
「本件を、国家級案件と認識していたか」
カイが答える。
「難度が高く、緊急性が高い依頼である認識はありました」
「ただし、防衛機構の暴走であることは現地確認後に判明しています」
「当初から国家級と断定していたわけではありません」
事実として正確な説明だった。
過小評価でも、誇張でもない。
総務局長が言う。
「だが結果として、防衛装置へ干渉している」
「はい」
「破壊ではなく停止を選択しました」
「理由は」
「将来的な防衛能力維持のためです」
簡潔だった。
中央ギルド長が資料を閉じる。
「判断の合理性自体は理解できる」
一拍。
「問題は手続きだ」
総務局長が続ける。
「中央承認を経ていない」
「さらに」
資料へ視線を落とす。
「中央Aランクが私的要請で動いた」
言葉は柔らかい。
だが意味は明確だった。
問題点はそこだ。
円卓に短い沈黙が落ちる。
幹部の一人が口を開く。
「銀牙への個別依頼については、検討が必要でしょう」
「前例として残る」
総務局長が頷く。
「統制の観点からも看過できない可能性があります」
空気が、わずかに硬くなる。
結論の方向が見え始めたからだ。
その時だった。
会議室の扉が叩かれた。
控えめな音。
だが、この場では十分に目立つ。
秘書室長が眉をわずかに動かす。
「入れ」
扉が開いた。
入室した人物を見て。
総務局長の表情が、わずかに変わった。
長身。
無駄のない立ち姿。
静かな存在感。
中央Aランクパーティ。
銀牙。
リーダー。
アルトリウスだった。
「招集があったので来た」
余計な前置きはない。
視線が円卓を巡る。
カイの姿を確認し、小さく頷いた。
そして中央ギルド長へ向き直る。
「証言が必要だと聞いた」
それだけ言った。
円卓の空気が、わずかに変わる。
ここから先の議論が、単純な手続き論では済まなくなることを。
この場の誰もが理解していた。




