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左遷された辺境ギルド長は、戦わないのに最強でした  作者: アズマユージ


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第四十話 召喚通知

 朝の辺境ギルドは、いつもと変わらない空気に包まれていた。


 依頼書が運び込まれ、受付で仕分けされる。


 簡単な討伐。


 護衛。


 採取。


 塔の件が片付いたことで、滞っていた商隊が動き始めている。


 結果として、依頼は増えていた。


 特別な仕事ではない。


 しかしそれは、日常が戻ってきたことを感じさせる変化だった。


 受付奥の机で、セリーヌは帳簿を確認していた。


 羽ペンが紙を走る音が、一定のリズムで続いている。


 物資の入出庫。


 依頼処理の進捗。


 回復薬の残数。


 すべてが整理されている。


 塔攻略後に一時的に減った備蓄も、すでに補充が進んでいた。


 ハンスの手配した物資は、予定通り届いている。


 納期の遅れはない。


 品質にも問題はない。


 帳簿の数字が、それを示していた。


「護衛依頼、増えてますね」


 リリアが掲示板を見ながら言った。


「北部の商隊が動き始めたからでしょう」


 エルナが諭すように言う。


「危険が減ったって判断されたってことだな」


 グレンが肩をすくめる。


「悪くない」


 ヴァレリアが短く言う。


 マックスは腕を組んだまま、依頼書を見ている。


「……忙しくなりそうだな」


「いいことじゃねえか」


 オスカーが帳簿の山から顔を上げる。


「仕事があるってことはな、街が息を吹き返してるってことだ」


 セリーヌが数字を確認しながら続けた。


「回復薬の備蓄も回復しています」


「長期戦にも対応可能です」


「想定していた水準に戻りました」


 オスカーが独り言のように言う。


「確かに、塔の1件は大きな成果だった」


 そして、天衝を含めた冒険者たちに向かって続ける。


「だがそれは、すでに過去の案件だ」


 セリーヌが続けて行った。


「当たり前の日常を、精一杯生きる。

それが、このギルドのやり方でしたね」


「良くわかってるじゃねえか」


 皆一斉に笑い出す。


「確かにそうだ」


「事務方の方が冒険者っぽいってどういうことだ」


 そんなことを言い合っていた時、突然入口の扉が開いた。


 郵便鞄を持った配達員だった。


「中央からの書簡です」


 受付担当の女性が受け取り、奥へ回す。


 封蝋。


 中央ギルドの印。


 差出元の部署名を見て、セリーヌの手が一瞬だけ止まった。


 総務局。


 嫌な予感しかしない。


 封を切る。


 内容を確認する。


 視線が、ほんのわずかに細くなった。


 読み終えた書面を丁寧に整える。


 立ち上がる。


「少し席を外します」


 それだけ言い、執務室へ向かった。


 扉を軽く叩く。


「どうぞ」


 中では、カイが書類に目を通していた。


 机の上には依頼書が整然と並んでいる。


 優先順位順。


 処理待ちの案件は多くない。


 ギルド運営は安定していた。


「中央からの通知です」


 セリーヌが書簡を差し出す。


 カイは受け取り、目を通した。


 読み終えるまでに、それほど時間はかからなかった。


「特別監査会議、ですか」


 確認するように呟く。


「はい」


「辺境北部の件について、事情確認を行うと」


 セリーヌは続ける。


「関係者同席とあります」


 一拍。


「私も対象に含まれています」


 越権の書簡。


 銀牙への依頼。


 それが理由だろう。


 予想していなかったわけではない。


 むしろ、自然な流れだった。


「日程は」


「三日後です」


 移動日数を考えれば、余裕はない。


 だが、間に合わない距離でもない。


 カイは軽く頷いた。


「分かりました」


 それだけだった。


 特に驚いた様子もない。


 想定内の出来事として受け止めている。


 セリーヌは一度だけ視線を落とす。


「……申し訳ありません」


 短い言葉。


 何についての謝罪かは、説明する必要がなかった。


 カイは首を横に振る。


「必要な行動でした」


 それだけ言う。


 評価はしない。


 責めもしない。


「結果として、被害は出ていません」


「問題ありません」


 事実だけを述べる。


 セリーヌも、それ以上は言わなかった。


「移動の手配を進めます」


「お願いします」


 それで話は終わった。


 特別なやり取りはない。


 感情的な言葉もない。


 必要な確認だけが交わされる。


 セリーヌは一礼し、部屋を出た。


 受付奥の席へ戻る。


 椅子に座り、羽ペンを取る。


 書類を整理する。


 中央提出用の書式を机の端へまとめた。


 出席者。


 辺境ギルド長。


 カイ・アークライト。


 同行者。


 セリーヌ。


 文字は整っている。


 迷いはない。


 マックスが気付いたように声をかける。


「何かあったのか?」


 セリーヌは顔を上げた。


「中央へ行ってきます」


 簡潔に答える。


 マックスが眉をひそめる。


「呼ばれたのか」


「はい」


 それ以上は言わない。


 グレンが苦笑する。


「有名になると大変だな」


「確認が必要な案件なのでしょう」


 セリーヌは淡々と言う。


 ヴァレリアは何も言わない。


 だが依頼書を持つ手が、わずかに止まった。


 エルナは帳簿を閉じる。


 リリアは静かに頷いた。


 誰も不安とは言わない。


 だが、わずかな間が生まれた。


 その空気を断つように、セリーヌが言う。


「本日の優先依頼を整理しました」


「護衛二件、討伐一件を優先しています」


 いつも通りの口調。


 いつも通りの業務。


 仕事は止めない。


 それが、このギルドのやり方だった。


 中央の判断がどうあれ。


 今日の業務は続く。


 塔の件も、すでに整理された一つの案件に過ぎない。


 ただ。


 三日後。


 中央で何が語られるかだけが、まだ分からなかった。


 ただ、それが「確認」だけで済むとは思えなかった。


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