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左遷された辺境ギルド長は、戦わないのに最強でした  作者: アズマユージ


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第三十三話 停止と再起動

 ――あと一手。


 その一手が、全てを決める。


 柱の脈動が、塔全体を揺らしていた。

 床を走る光が明滅し、そのたびに破口の向こうで魔獣の咆哮が重なる。


 グレンの刃は、接続回路まであと半歩届かない。


 その半歩を埋めるために、全員が動いていた。


「押し込め!」


 カイの声。


 ブロムが盾を叩きつける。

 真正面から突っ込んできた魔獣の群れを、力で止めるのではない。


 流し、ずらし、押し返す。


「前は任せろ!」


 盾の角度が変わる。


 その一瞬の隙間へ、アルトリウスの剣が滑り込んだ。

 最短の斬撃が二度、三度と走り、柱へ寄ろうとした個体の首を断つ。


 リーネが側面から入り、死角の一体を崩す。

 その背後をユリウスの炎が焼いた。


 爆音。

 だが火力は抑えられている。巻き込みを避けるためだ。


 クラウディアの光が前衛を繋ぐ。


「まだ持ちます」


 穏やかな声。だが、その詠唱は一切途切れていない。


 銀牙が、前線を維持していた。


 その上に、天衝がいる。


「マックス、もう一歩!」


「分かってる!」


 マックスが盾を押し出す。


 力任せではない。

 重心を落とし、衝撃を流し、通すべき一歩だけを作る。


 ブロムの動きをなぞるように。


 その陰へ、ヴァレリアが滑り込む。

 最短距離。無駄のない一閃。


 一体だけを斬り、止まらない。


「今!」


 グレンが前へ出る。


 刃が接続回路へ――


 その瞬間、柱が強く脈打った。


 塔が唸る。


 破口から、新たな魔獣が流れ込んでくる。


「まだ増えるか!」


 ブロムが笑う。


「当然だ」


 アルトリウスが応じる。


 剣は止まらない。

 だが、敵の数は確実に増えている。


「前線、密度上昇!」


 リーネ。


「分かっている!」


 ユリウスの炎が走る。

 だが焼き切っても、次が来る。


 カイは柱を見据えた。


 接続回路。


 手前の束。

 その裏を走る一本。


 位相のズレ。


 迷いはない。


「グレン、今です。切ってください」


「了解!」


 グレンの刃が振り下ろされる。


 軽い。


 だが、音だけが異様に響いた。


 次の瞬間。


 塔の光が、すべて消えた。


 咆哮が止む。


 魔獣が――止まった。


 全員が、動かない。


「そのまま」


 カイの声。


 低い振動だけが残っている。

 柱の脈動も、完全に止まっていた。


「……終わったのか?」


 マックスが問う。


「まだです」


 カイは台座へ歩み寄る。


「停止しただけです」


 台座に触れる。


 切断されたことで、流れがはっきり見える。


「これから再起動します」


 ユリウスが低く言う。


「正気か」


「はい」


 カイは答える。


「破壊はしません」


 一拍。


「これは、この国を守る装置です」


 アルトリウスは何も言わない。


 ただ、剣を構え直す。


「銀牙、前線維持」


 短い号令。


 ブロムが盾を上げる。

 リーネが周囲を確認する。

 ユリウスとクラウディアが位置を整える。


 天衝も同じだった。


 マックスは盾を握り直し、

 ヴァレリアは剣先を下げない。

 グレンは呼吸を整え、

 リリアとエルナは残量を確認する。


 誰も疑問を口にしない。


 カイは接続回路を持ち上げた。


「グレン、固定」

「リリア、合図で最小出力」

「エルナ、監視」

「ユリウスさん、異常時は遮断を」


「了解」


 全員の声が揃う。


 カイは切断された線を元へ戻す。


 火花が散る。


 台座が、淡く光った。


「今です」


 リリアの魔力が流れ込む。


 小さい。だが安定している。


「循環戻ります!」


 エルナの声。


「問題なし!」


 ユリウスが頷く。


 柱が鳴る。


 一度。


 二度。


 そして――


 床の線が、再び光る。


 だが今度は、外へ流れていく。


 止まっていた魔獣が、ゆっくりと動き出した。


 全員が構える。


 だが。


 襲ってこない。


 向きを変え、塔の外へ歩いていく。


 整然と。


 まるで命令を受けた兵士のように。


 誰も追わない。


 やがて、咆哮も足音も遠ざかる。


 静寂が戻った。


 ブロムが息を吐く。


「……終わり、か」


「ええ」


 カイは台座から手を離す。


「誤作動は収まりました」


 ユリウスが柱を見上げる。


「信じがたいな」


「ですが、正常に動いています」


 エルナが静かに言う。


 マックスはしばらく柱を見ていた。


「倒さなくても、終わるんだな」


「終わらせ方を間違えなければ、です」


 カイは答える。


 アルトリウスが剣を納める。


「見事だ」


 短い一言。


「あなたの判断は正しかった」


 カイは何も返さない。


 ただ、塔の光を確認する。


 振動は安定している。


 問題はない。


 ヴァレリアが剣を収めた。


「……帰れるな」


 グレンが笑う。


「仕事完了ってやつだ」


 誰も騒がない。


 勝利の実感も、遅れてやってくる。


 だが――


 誰も欠けていない。


 それで十分だった。


「帰りましょう」


 カイが言う。


 それだけで、全員が動いた。


 塔の外では、風がいつも通りに草を揺らしていた。

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