第三十話 塔防衛戦
塔の外壁が、内側へと砕け散った。
石片が床に転がり、乾いた音を立てる。
その向こうから、魔獣の影がなだれ込んできた。
「来るぞ!」
ブロムが盾を構える。
次の瞬間、巨体がぶつかった。
衝撃が塔の内部に響く。
だが、盾は動かない。
ブロムは一歩も退かず、体重を落とした。
「アルト!」
「分かっている」
アルトリウスが踏み込む。
剣は最短距離で振られる。
魔獣の首筋に、一閃。
血が散るより先に、刃が抜ける。
倒れた個体の隙間を縫うように、二体目へ。
動きに一切の迷いがない。
「右、来ます!」
リーネの声。
アルトリウスが半歩退く。
その位置に、グレンの短剣が走った。
魔獣の脚を断つ。
体勢を崩したところへ、マックスが盾を叩き込んだ。
「はあッ!」
衝撃で魔獣が倒れる。
そこへヴァレリアの剣が落ちた。
一撃。
首が落ちる。
だが、止まらない。
次の魔獣が、すぐに壁の破口から流れ込んでくる。
「多い!」
マックスが叫ぶ。
その背後で、魔力が収束した。
「退いて」
ユリウスの声。
詠唱はすでに終わっている。
炎の奔流が通路を焼いた。
爆音。
熱風が塔の内部を揺らす。
魔獣三体が吹き飛び、壁に叩きつけられる。
焦げた匂いが広がる。
その間に、クラウディアの治癒術が走る。
淡い光が、マックスの腕を包んだ。
「無理はしないでください」
「分かってる」
そう言いながら、マックスは盾を構え直す。
視線の端で、ブロムの動きを追う。
さっき教えられた通りに。
腰を落とす。
重心を下げる。
次に突っ込んできた魔獣を、受け止めた。
今度は滑らない。
衝撃を、流せた。
「……よし」
小さく呟く。
その背後で、リリアが詠唱を終えた。
「行きます!」
火球が飛ぶ。
爆発は小さい。
だが、正確だった。
魔獣の頭部に直撃し、一体を沈める。
ユリウスがちらりと見る。
「悪くない」
それだけ言った。
戦線は維持されている。
銀牙が前線を支え、
天衝が側面と後方を補う。
戦力差はある。
だが、連携は機能していた。
カイは中央で戦況を見ている。
視線は、敵ではない。
動きだ。
出現間隔。
攻撃周期。
倒した数。
そして――
次の出現までの時間。
(……やはり)
同じだ。
魔獣が現れる間隔。
完全に一定。
まるで。
何かの装置が。
順番に送り出しているような。
「カイ」
アルトリウスが声をかける。
「気付いたか」
「ええ」
短く答える。
その瞬間、また魔獣が現れた。
先ほどと、同じ位置。
同じ間隔。
同じ動き。
「減らないな」
アルトリウスが言う。
「ええ」
カイは視線を塔の柱へ向けた。
振動は、まだ続いている。
「倒しても意味はありません」
「どういうことだ」
「供給源が止まらない限り、続きます」
一拍。
「魔獣は、防衛装置です」
アルトリウスが小さく笑った。
「なるほど」
そして剣を構える。
「なら話は単純だ」
次の魔獣が飛び込んできた。
それを、真っ向から迎え撃つ。
「壊すべきものは、敵じゃない」
アルトリウスが言う。
「塔だな?」
カイは柱を見る。
そして静かに答えた。
「いいえ」
一拍。
「壊しません」
魔獣が唸る。
戦闘は続く。
だが――
カイの目は、すでに敵を見ていなかった。




