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左遷された辺境ギルド長は、戦わないのに最強でした  作者: アズマユージ


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第二十八話 格の違いと違和感

 塔へ向かう道は、北へ進むにつれて細くなった。


 草は背丈を越え、踏み分けられた獣道のような痕跡が続いている。

 風はあるのに、葉擦れの音が妙に弱い。


 先行していたグレンが手を上げるより先に、指示が飛んだ。


「止まって」


 リーネ・ラインハルトだった。


 彼女は膝を折り、地面に指先を触れさせる。

 砂を払い、爪でわずかに土を削る。


「三分以内ね。集団で移動した痕跡。数は……十五、いや、もっと」


 短い。しかし的確に判明した情報を伝える。


 そこに、推測や憶測は無い。


 グレンが横から覗き込む。


「足跡は散ってるぞ。そこまで読めるのか?」


「もちろん。ただ、何かおかしい。踏み込みが揃いすぎてる」


 その言葉とほぼ同時に、茂みが割れた。


 魔獣が飛び出す。


 通常種より一回り大きい個体。濁った目。

 鋭い牙から、よだれが垂れる。

 威嚇の唸り声が、地鳴りのように響く。


「アタッカー、側面から攻撃。タンク、ヘイトを取れ」


 カイの声は大きくない。

 だが迷いがない。


 動いたのは銀牙が先だった。


 ブロムが正面から受ける。

 盾で衝撃を止めるのではなく、力を逃がして敵をいなす。

 いわゆる、パリィ。熟練者にのみ使える技だ。


 それを見たアルトリウスが、半歩踏み込み大剣を振るう。

 体重移動が滑らかで、地面を蹴る音がほとんどしない。


 剣は大きく振らない。

 最短軌道で首筋を裂く。


 一体。


 返す刃で二体目。


 見惚れるほど美しい。


 動きに無駄がないのだ。


「数が多いぞ!」


 マックスが叫び、横から飛び出した個体を受け止める。


 衝撃を真っ向から受け止める。


 が、敵の勢いに、少し足を滑らせる。


 盾が鳴る。


 ブロムが一瞬だけ視線を向ける。


「腰が浮いてる。落とせ」


「分かってる!」


 口では反発するが、素直に修正する。

 次の受けは安定した。


 マックスは歯を食いしばる。

 認めたくないが、間違いなくブロムの方が格上だ。


 そして後方。


「術式展開」


 ユリウスの声はどこまでも冷静。


 詠唱は短い。

 魔力の流れが滑らかに集束し、魔法陣が光を放つ。


 空間を歪ませるほどの熱を帯びた、高密度の火球が魔獣に向かって放たれる。


 火球は、爆音とともに炸裂。


 爆風が魔獣三体をまとめて吹き飛ばした。


 少し遅れて放ったリリアの火球も、一体を倒した。


 しかし、リリアは息を呑む。


「……速い。そして、強い」


「君の魔法も、制御は悪くない。だが、力が分散している」


 ユリウスは視線を向けない。


 それでも続ける。


「基礎は出来ている。焦らず力を収束しろ」


 短い助言。


 リリアは頷き、呼吸を整える。


 クラウディアは、すでに詠唱を終えている。


 ブロムの裂傷が淡い光に包まれる。


「前に出すぎです」


 穏やかな声。


 ブロムは肩をすくめる。


「悪いな」


 戦線は安定している。


 銀牙が軸。

 天衝は、その外縁を支える。


 力の差は明白だった。


 だが、即席チームにしてはしっかり戦えている。


 カイが全体を見ているからだ。


(火力、突破力、制圧速度……格が違う)


 しかしながら、カイはある違和感を感じていた。


 効率よく倒しているはずなのに、奥から同じ動きの個体が、同じ間隔で出てくる。


 アルトリウスが剣を払う。


「減らないな」


「増援にしては早すぎます」


 リーネが低く言う。


 ユリウスが眉を寄せた。


「統制魔術か? だが、あの規模でこの数は——」


「違います」


 カイは静かに言った。


 視線は魔獣の足運びへ。


 踏み込みの間隔。

 旋回の角度。

 攻撃のタイミング。


 揃いすぎている。


 呼吸がない。


「……生き物の動きじゃない」


 リーネが同じ結論に辿り着く。


 アルトリウスが、初めてはっきりとカイを見る。


「なら、何だ」


「現時点では断定できません」


 即答しない。


「ですが、目的は塔です。ここは先を急ぎましょう」


「そして、力を温存しましょう」


「魔獣を倒す必要はありません」


「前進に邪魔な個体のみ、最低限の力で倒してください」


 一瞬の沈黙。


 アルトリウスの美学は、真正面からの制圧だ。


 だが彼は、目の前の状況を見ている。


 剣を振り抜き、言う。


「合理的だが、つまらない戦い方だな」


「敵の動きがおかしい。無駄な消耗は避けましょう」


 カイは続ける。


「鋒矢の陣を取りましょう。銀牙が先頭」


「天衝は外縁で側面からの攻撃に備えてください」


 アルトリウスは小さく息を吐いた。


「銀牙、前へ。鋒矢の陣だ」


 号令は簡潔。


 動きが変わる。


 ブロムが盾を前に出し、楔の形を作る。

 アルトリウスがその隙間を縫い、急所を断つ。

 リーネが側面の死角を潰す。

 ユリウスとクラウディアは後方支援。


 天衝のメンバーも全力で銀牙をサポート。


 道を切り開き、最後尾のカイも前進する。


 マックスは悔しさを飲み込む。

 ヴァレリアは無言で速度を合わせる。

 エルナは魔力残量を確認し、規定内と小さく呟く。


 ほどなくして、塔が見えた。


 黒く聳え、空を裂く鋭い塔。


 その足元へ、魔獣たちが整然と“戻っていく”。


 それは、まるで訓練を積んだ兵士たちが帰還していくようだ。


 カイの胸の奥が、冷たくなる。


(……コントロールされ過ぎている)


 アルトリウスが低く言う。


「妙だな」


「ええ」


 カイは頷いた。


「これは通常の魔獣討伐ではありません」


 一拍。


「塔の内部に、原因があるようです」


 その言葉を、アルトリウスは否定しなかった。


 塔を見上げ、静かに言う。


「……君の戦い方か」


 風が止む。


 塔の周囲だけ、空気が重い。


 確かに、銀牙は最強だ。

 だが、塔の前では単なる強さだけでは、対抗できない。


 そして、本当の戦いは、ここからだった。

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