第二十五話 中央ギルドAランクパーティの来訪
その日、辺境ギルドを訪れたのは、本来そこにいるはずの無い者たちだった。
中央ギルドAランクパーティ――銀牙。
その名が受付に告げられた瞬間、辺境ギルドの空気が、わずかに変わった。
騒然、というほどではない。
だが、ざわめきが一段、低くなる。
驚きよりも先に来るのは警戒だ。
中央の人間、しかもAランクが、何の用でこの辺境に来たのか。
執務室に通された五人は、整えられたシルバーグレイの髪を、後ろに流した貴族然とした若者を先頭に、悠然とカイの前に立った。
「アルトリウス・フォン・シュタインだ。中央ギルド所属、銀牙のリーダーを務めている」
名乗りは簡潔だった。
だが、その立ち方だけで分かる。
――人の上に立つことに慣れた人間だ。
「カイ・アークライト。辺境ギルド長です」
形式的な挨拶を交わす。
二人の視線は、自然と机上の地図と書類に向けられていた。
辺境領北部。
赤く印をつけた、問題の塔。
「話が早いな」
アルトリウスが言う。
「我々は中央から、『非公式の調査協力依頼』を受けた」
一拍。
「……まあ、単なる協力依頼だけであれば、わざわざこんなところまでは来ないのだが」
「今回はちょっと特別な理由があってね」
セリーヌが一歩前に出た。
「ようこそいらっしゃいました」
「事務担当のセリーヌです」
「我が辺境ギルドは、あなた方を歓迎いたします」
「ああ、あなたが」
そう言って、一瞬だけセリーヌに視線を向けた後、
アルトリウスはカイに向かって言った。
「単刀直入に言おう」
「辺境領北部の魔獣討伐。
お前たちとの共闘を前提に、銀牙は参戦する」
室内の空気が、張りつめた。
カイは即座に頷かない。
「とてもありがたい申し出です。
しかし一点、はっきりさせてください」
声は静かだった。
「指揮系統は一本化が基本です。
情報の完全共有も前提。
そして――全体の指揮は、私が執ります」
条件というより、明確な意思表示だった。
ブロム・アイゼンヴァルト――銀牙のタンクが、低く鼻を鳴らす。
「随分と上から言うな。辺境のギルド長風情が」
「ブロム、言葉が過ぎるぞ」
「カイ殿、仲間が失礼した。
もちろん、その条件で結構だ」
話は治ったが、ブロムの言葉が、マックスの琴線に触れた。
マックスが一歩前に出る。
「あんた、タンクだよな?」
ブロムが視線を向ける。
「だったらどうだと言うのだ」
「Aランクだか何だか知らねえが、ずいぶん偉そうじゃないか。
そんなに自信があるんだったら、俺と勝負しろよ。
実力を見ねえと、信用できねえからな」
一瞬、空気が荒れる。
「面白い。後悔しない覚悟はあるんだな」
ブロムは、自信に満ちた口元を歪めて笑った。
いきなりの衝突だったが、止める者は誰もいなかった。
カイはやれやれといった感じで軽く笑いながら黙っている。
アルトリウスも表情を変えない。
二人は、肩を怒らせて訓練場へと向かった。
訓練場は、ギャラリーで溢れかえった。
新進気鋭の天衝のレゾナンスのタンクと、中央ギルドAランクパーティのタンク。
余興の少ない辺境の地だ。
この対決を見逃す理由はなかった。
そして模擬戦は、何の前触れも無く唐突に始まった。
盾と盾がぶつかる、乾いた音が響く。
マックスの踏み込みは速い。
力任せではない。実戦で鍛えられた前衛の動きだ。
だが、ブロムは下がらない。
前に出ない。
しかし、一歩も引かない。
――守ることに徹した構え。
数合。
お互いの盾が軋み、
二人は同時に距離を取った。
「……硬えな」
「悪くない」
それ以上は、踏み込まない。
いや、お互いに踏み込めず、睨み合いとなった。
カイは、その様子を見て二人に言った。
「今日は、ここまでです」
静かな声。
「互いの距離感は、測れたと思います」
どちらかが倒されることによる決着を期待していたギャラリーは
不満を露わにしていたものの、カイに逆らう者はいなかった。
やや不完全燃焼気味であったが、それでも互いの実力は理解しあえた。
なんとも言えない静寂の中、唐突にアルトリウスが言った。
「詳しい話は改めてだ。
今夜はこれで帰ることとしよう」
そう言って、踵を返したアルトリウスの後ろに、メンバーがゆっくりとついて行った。
去り際、彼は一瞬だけ振り返る。
「……面白いところだな」
それは評価ではない。
ただの感想だった。
扉が閉まる。
セリーヌが、小さく息を吐いた。
「……まるで嵐のようでしたね」
「ええ」
カイは頷く。
「ですが、これで役者は揃いました」
まだ、銀牙来訪の理由を完全に理解した訳ではなかった。
辺境伯への追加情報開示依頼の返答もまだ到着していなかった。
だがそれでも、依頼受諾の可否を判断するだけの材料は、すでに揃っていた。
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