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左遷された辺境ギルド長は、戦わないのに最強でした  作者: アズマユージ


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第二十二話 中央ギルドAランクパーティ「銀牙(シルバーファング)」

 中央ギルド近くの酒場は、夜になると冒険者で溢れかえる。


 その一角。

 ひときわ目立つ卓に、五人の男女が陣取っていた。


 中央ギルド公認Aランクパーティ――

 銀牙シルバーファング


 誰もが知る名だ。

 そして同時に、今日この場の空気は重かった。


「……まさか、だ」


 低く呟いたのは、銀牙のリーダー。

 アルトリウス・フォン・シュタイン。


 整った顔立ちに、騎士然とした立ち姿。

 高位貴族シュタイン家の三男であり、正統派剣士として名を馳せる男だ。


 その表情には、苛立ちと困惑が入り混じっていた。


「僕たちが撤退した依頼が……達成された?」


 テーブルの上には、簡易報告書。

 地下水脈異常――変異型スライム討伐依頼。


 依頼達成欄に、確かに印がついている。


「冗談だろ」


 ぶっきらぼうに言ったのは、銀牙のタンク。

 ブロム・アイゼンヴァルト。


 筋骨隆々の巨体に、重厚な鎧。

 その場に座っているだけで圧を放つ男だ。


「俺たちが押し切れなかった相手だぞ。

 斬っても増える、魔法も効かねえ、あのクソみてえな……」


「ブロム、言葉を選べ」

「俺たちは、銀牙シルバーファングだ」


 静かに制したのは、魔法使いのユリウス・クロイツ。


 細身の体躯に、知的な眼鏡。

 いかにも理屈屋という風貌の男だ。


「事実関係を整理しよう。

 依頼は確かに未達成扱いになり、その後“別のギルド”に回された」


「別のAランクか?」


 アルトリウスの問いに、

 答えたのは斥候のリーネ・ラインハルトだった。


 フードを深く被り、軽装。

 視線は常に周囲を観察している。


「……違う」


 短く言って、続ける。


「達成したのは――辺境ギルド所属のパーティ」


 一瞬、沈黙。


「辺境?」


 ブロムが眉をひそめる。


「あの、落ちこぼれの吹き溜まりか?」


「言い過ぎよ」

「……でも、まあ否定はしないけど」


 ヒーラーのクラウディア・ヴァイスが、やんわりと嗜めた。


 柔らかな雰囲気の女性だが、銀牙の中では調整役でもある。


「でも……信じがたいわね」


 アルトリウスも頷く。


「正直に言って、僕もそう思う」


 その時だった。


 近くの卓から、冒険者たちの会話が耳に入る。


「聞いたか?辺境ギルド」


「地下水脈の件、解決したらしいぞ」


「しかも、例の“斬ると増えるスライム”だろ?」


 アルトリウスの目が、すっと細くなる。


「……リーネ」


 名を呼ばれ、彼女は頷いた。


「調べてる」


 淡々とした声。


「達成したのは

 “天衝のレゾナンス”というパーティ」


 その名に、ユリウスが反応する。


「……聞いたことがあるな」


「最近、噂が多い」


 リーネは続けた。


「特徴は、異様に事故が少ない。

 撤退判断が早い。

 それと――」


 一拍。


「同行していた人物がいる」


「同行?」


 ブロムが顔をしかめる。


「誰だ?」


「辺境ギルド長」


 その言葉に、アルトリウスがわずかに目を見開いた。


「ギルド長が、現場に?」


「そう」


 リーネは静かに言った。


「名前は、カイ」


「知らん名前だな。強いのか?」


「戦わないらしい」


「何だと?」


「……待て」


 ブロムが腕を組む。


「ギルド長が同行して、Aランクでも無理だった魔物を倒した?

 しかも戦わないだと?

 そんな話、出来過ぎだろ」


「私も聞いたわ」


 クラウディアが静かに言う。


「依頼は達成扱い。

 地下水脈も回復傾向にある」


 ユリウスが、顎に手を当てる。


「……あの魔物。

 本当に“スライム”だったのか?」


 その言葉に、リーネが視線を上げた。


「違う」


 即答だった。


「記録によると――

 あれは“ヴェイン・イーター”」


 一瞬、空気が張り詰める。


「……水脈喰らいか」


 アルトリウスが、低く呟いた。


 過去の資料でしか見たことのない魔獣。

 核を持たず、斬れば分裂し、魔法を素通りさせる。


「つまり」


 ユリウスが続ける。


「僕たちは、最初から相手を見誤っていた」


 ブロムが、歯噛みする。


「……だから、勝てなかったってのか」


 アルトリウスは、しばらく黙っていた。


 そして、ゆっくりと口を開く。


「……噂だけで判断するつもりはない」


 真っ直ぐな視線。


「だが」


 一拍。


「僕たちが撤退した相手を、

 “辺境”のパーティが成し遂げた」


 その事実は、重い。


「自分の目で、確かめる必要があるな」


 誰にともなく言った言葉だった。


 酒場の喧騒の中。

 銀牙の面々は、それぞれの思いを胸に、杯を傾ける。


 この時はまだ、誰も知らなかった。


 この“噂”が、

 やがて彼ら自身の価値観を揺さぶることになるのを。


 そして――

 天衝のレゾナンスと銀牙が、

 同じ戦場に立つ未来を。


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