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左遷された辺境ギルド長は、戦わないのに最強でした  作者: アズマユージ


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第十六話 小さい、しかし確かな変化

 朝の辺境ギルドは、以前よりも騒がしかった。


 悪い意味ではない。


 受付前には冒険者が並び、掲示板の前では複数のパーティが依頼票を指差しながら相談している。


「この依頼、難易度Bだけど、前より条件が分かりやすいな」


「注意点がちゃんと書いてある。撤退ラインも明示されてるぞ」


「前なら、行ってみるまで分からなかったのにな……」


 そんな会話が、あちこちで聞こえていた。


 セリーヌは帳簿を抱えながら、その様子を眺めている。


「……雰囲気、完全に変わりましたね」


 隣で書類に目を通していたカイが、視線だけを向けた。


「そうですか?」


「ええ。私が来た時は、ここにいるだけで空気が重かった」


「皆、生活のために命がけで、悲壮感を漂わせて依頼をこなしていました。」


 今は違う。


 依頼を選ぶ声に、焦りは少ない。

 相談には、諦めよりも前向きさがある。


「何かが大きく変わったわけではありません」


 セリーヌは静かに続ける。


「でも、達成率は目に見えて上がっています」


 カイは、それを否定しなかった。


 辺境ギルドは、かつて――

 王国の“最後の砦”と呼ばれた場所だった。


 魔物の侵攻を食い止め、国境を守る要衝。

 優秀な冒険者と兵が集い、名を馳せた最強の砦だった。


 だが、時代が変わり。


 脅威が遠のき、予算が削られ、

 気付けばここは「問題児と落ちこぼれの吹き溜まり」になっていた。


 その空気を、少しずつ変えているのが――

 特別な英雄ではなく、日々の“判断”だった。


「依頼の失敗が減った理由は、単純です」


 カイは淡々と言う。


「事前情報を充実させて十分な対策を施すようになった」


「失敗を個人の責任にしなくなった」


「撤退を、敗北と扱わなくなった」


「その結果、誰も無理をしなくなった」


 セリーヌは、小さく息を吐いた。


「……地味ですね」


「ええ」


 カイは、ほんの少しだけ笑った。


「だから、評価されません」



 その日の夕方。


 依頼を終えた冒険者たちが、笑いながら戻って来た。


 その中には、もちろん天衝のレゾナンスの面々もいる。


 マックスが興奮気味に言う。


「やっぱアタッカーがいるとバランスがいいな」


「当たり前だ。だから言ったろ、一人二役は酷だって」


「私は、自分の仕事をしただけ」


「後衛の安心感が桁違いです!落ち着いて詠唱が出来るので、噛まなくなりました」


「私の出番が少なくなったのは、ちょっと寂しいけどね」


 皆、口々に感想を言い合っている。


 良い雰囲気だった。


 それは、彼らだけの話ではない。


 マックスが、ふと冷静になって呟いた。


「……昔は、こんな空気じゃなかったよな」


「そうだな」


 グレンが苦笑する。


 リリアとエルナは、依頼報告の準備をしながら静かに話している。


 カイは、その様子を少し離れた場所から眺めていた。


 派手な変化ではない。


 だが、確実に。


 この場所は、再び“砦”になりつつある。


 英雄の砦ではない。


 人を成長させる砦として。


 願わくばその変化が、やがて中央にも届くことを――


 そんなことを思わざるを得なかった。



 一方、中央ギルドでは。


 総務局の一室で、レオンハルトは報告書を睨みつけていた。


「……辺境ギルド、今月の依頼達成率、前期比+120%」


 紙を置く。


 別の資料を取る。


「事故率、低下。

 死亡者……ゼロ」


 どれも、無視できない数字だった。


「新戦力の投入は、なし」


 側近が言う。


「有名パーティの移籍もありません」


「それなのに、この結果か……」


 レオンハルトは、苛立たしげに椅子にもたれた。


 理由は、分かっている。


 いや、分かってしまったからこそ、腹立たしい。


(判断基準の整理)


(依頼内容の可視化)


(現場による撤退判断)


(責任の明確化)


 どれも、かつてカイが提案していたことだった。


 中央では却下されたやり方。

 「理想論」「甘すぎる」「数字にならない」と切り捨てた案。


「……くだらん」


 吐き捨てるように言う。


「辺境だからできたことだ」


「中央で同じことをすれば、失敗する」


 そう、自分に言い聞かせる。


 だが。


 資料の端に書かれた一文が、視界から離れなかった。


――冒険者からの苦情件数、減少。


 数字は、嘘をつかない。


 レオンハルトは、拳を握る。


(認めたくない)


(だが――)


(無視もできない)


 その葛藤こそが、彼の苦悩だった。


 本心では、彼はわかっていた。


 辺境のギルド長が、王国を動かす存在になりつつあることを。

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