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左遷された辺境ギルド長は、戦わないのに最強でした  作者: アズマユージ


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第十五話 再会

 歓迎会の翌朝。


 辺境ギルドの執務室には、いつもと変わらぬ朝の光が差し込んでいた。


 ――ただし、普段と様子が違う人が、二人ばかりいたのを除いて。


「……うー、頭が、割れる……」


 机に突っ伏したマックスが、低く呻く。


 その隣では、ヴァレリアが椅子に深く腰掛け、額を押さえたまま動かない。


「……酒は、恐ろしい」


「俺も…もう二度と酒は飲まねえ…」


 二人とも、完全に二日酔いだった。


 一方で。


「こちらが今月分の消耗品使用量です」


「ありがとうございます。では、予備在庫はこの数量で再計算しますね」


 セリーヌはすでに机に書類を並べ、カイと淡々とやり取りをしている。


 カイもまた、いつも通りだった。


 顔色一つ変えず、書類に目を通し、判断を下す。


「この薬草は、来月以降も需要が増えそうですね」


「このギルドのメンバーは、あまりレベルが高くないですし、ヒーラーの数も足りていません」

「ですので、特に治癒系は使用頻度が高いですね」


「前のギルド長がいなくなってから、仕入れも滞っていたみたいですね……」


「はい、早急に補充が必要です」


「了解しました」


 そのやり取りを聞きながら、マックスが恨めしそうに呟く。


「……なんで平気なんだよ、あんたら……」


「お酒は嗜む程度が基本ですよ」


 セリーヌが、にこやかに答えた。


「いやあんた、めちゃくちゃ飲んでただろ!」


「あはは、セリーヌはな、こう見えて中央でも指折りの酒豪だったんですよ」


 カイが可笑しそうに言う。


「私は、あまり飲んだことがない」


 ヴァレリアが、ぼそりと言う。


「じゃあ、なんであんなに飲んだんだよ……」


「勧められた」


「誰にだ!」


「……マックス」


「……」


 マックスは、ゆっくりと机に顔を伏せた。


 その時だった。


 控えめなノック音が響く。


「失礼します」


 扉を開けて現れたのは、若い男だった。


 少し日焼けした顔に、実用的な旅装。


 背には、しっかりとした商人用の鞄を背負っている。


「……あ」


 カイが顔を上げる。


「お久しぶりです、カイさん!」


 男はぱっと表情を明るくした。


「覚えてますか? 中央でご一緒した……」


「ええ、覚えていますよ、ハンスさん」


 カイは、穏やかに頷いた。


「良かった!」


 ハンスは、嬉しそうに胸を張る。


 事情を知らないセリーヌがカイに尋ねた。


「カイさん、この方は?」


「ああ、紹介しよう」

「中央の大商会の商人、ハンス・ヴォルフさんです」


「商人と言っても、駆け出しなんですけどね、あはは」


 そう照れ笑いをしながら、鞄を下ろし、中身を開いた。


「実は今日はですね、ご挨拶がてら、商品の見本を持ってきまして」


「あはは、さすがは商人ですね、ちゃっかりしてます」


 机の上に並べられたのは、


 高純度の回復薬、保存性の高い乾燥薬草、簡易魔力触媒。


 どれも、辺境では貴重なものだった。


 セリーヌが、すっと前に出る。


「……これは、質が良いですね」


「ありがとうございます! 中央基準の品です」


「ちょうど、仕入れを検討していたところでした」


 その一言に、ハンスの目が輝いた。


「ほ、本当ですか?」


 カイは、品を一つ一つ確認してから言った。


「数量は、どれくらい対応できますか?」


「えっ?」


 一瞬、ハンスが言葉に詰まる。


「……あ、ええと……」


「ある程度、まとまった数をお願いしたいのですが」


 セリーヌが補足する。


「辺境ギルドとして、継続的に取引できる商人を探しているのです」


「……!」


 ハンスは、息を呑んだ。


 そして、勢いよく頷く。


「や、やります! 必ず用意します!」


「価格は?」


「中央より、少し下げます!」


「急いでいるのですが、納期は?」


「最短で、半量を1週間、残りを10日で揃えましょう!」


 それを聞いたカイが問う。


「ご存知かと思いますが、ここから中央までは、馬車で2週間かかりますよ?」


「はい!早馬を飛ばします!」

「ここから中央までの中間に、商会の倉庫がありますから、半量であればそこで調達できます」

「ですので、2回に分けて納品すれば、可能なんです」


 即答だった。


 カイは、微かに目を細める。


「無理はしなくて構いませんよ」


「いえ!」


 ハンスは、拳を握る。


「この仕事を仕上げられたら……」


 一瞬、言葉を探してから、笑った。


「今月の売り上げ、商会内で一番になれるかもしれないんです!」


 その顔は、かつて馬車の中で見せた、不安げな表情とはまるで違っていた。


「……分かりました」


 カイは、静かに言う。


「では、お願いします」


「はい!」


 ハンスは深々と頭を下げ、鞄を担ぎ直した。


「必ず、ご期待に応えてみせます!」

「あっ、そうそう」


 ふと思い出したように、ハンスは荷の端から小瓶を二つ取り出した。


「……見たところ、今すぐ必要そうなので」


 ちらり、と長椅子の方を見る。


「二日酔いにも良く効きますよ。試供品として差し上げます」

「あちらのお二人にどうぞ!」


そう言い残して、ハンスはあわただしく去って行ってしまった。


「……神か?」


 マックスが、震える手を伸ばした。


 ヴァレリアも、無言で受け取る


 数分後。


「……効いた」


「……すごいな、これ」


 二人の顔色が、目に見えて良くなった。

 マックスが、呆れたように言った。


「……あいつ、勢いあるな……」


「ええ」


 セリーヌが頷く。


「ですが、無茶ではありません。計算しています」


 カイは、窓の外を見ながら、心の中で思った。


(あの時、助けたのはちょっとした善意)


(だが、人はそれで、前に進めることがある)


 この取引は、まだ小さい。


 だが。


 やがて――


 ヴォルフ商会と呼ばれる商会が生まれ、


 辺境ギルドと共に成長していくことを、


 この時、知る者はいなかった。


 ただ一つ確かなのは。


 このギルドは、人と人を繋ぎながら、


 少しずつ、確実に、豊かになり始めているということだった。

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