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左遷された辺境ギルド長は、戦わないのに最強でした  作者: アズマユージ


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第十二話 実戦試験

 翌朝。


 ギルドの中庭には、天衝のレゾナンスの面々が集まっていた。


 マックス、グレン、リリア、エルナ。

 そして少し離れた場所に、例の剣士――ヴァレリア。


 相変わらず、露出の多い装備だった。


「……なあ、本当にあいつ連れてくのか?」


 マックスが、ぼそりと呟く。


「もちろん、実戦試験なんだぜ」


 グレンは肩をすくめた。


「どの道、アタッカーは必要だしな」


 リリアは、ちらちらとヴァレリアを見ては、すぐに目を逸らす。

 エルナは、純粋に落ち着かない様子だった。


 理由は明白だ。

 あまりにもスタイルが良いのだ。

 場の空気をどうこう以前に、視線の置き場に困る。


 一方で、当の本人は気にしていない。


 大剣を軽々と背負い、静かに立っているだけ。

 周囲の視線も、ひそひそ声も、まるで聞こえていないようだった。


 ぎこちない雰囲気がほぐれないまま、一行は現場に到着した。


「では、始めましょう」


 カイが口を開く。


「今回の依頼は、低ランクの魔物討伐です」

「試験ですので、危険度はさほどでもありませんが、くれぐれも油断はしないでください」


 依頼内容は単純だった。

 森の外れに現れた小型魔物の群れの間引き。


 カイは、ヴァレリアを見る。


「最終試験では、“あなたが、どう戦うか”を見せていただきます」

「普段通りに戦ってみてください」


 ヴァレリアは短く頷いた。


「分かった」


 それだけだった。


 マックスが眉をひそめる。


「……あいつ、本当にパーティで戦う気があるのか?」

「チーム戦だぞ? 勝手に動かれたら困るんだよ」


 周りに迎合しないヴァレリアの態度。

 マックスは気に入らなかった。


 ヴァレリアが、初めてマックスを見た。


 じっと、観察するように。


「タンク?」


「……ああ、そうだ」


「わたしはアタッカー」

「邪魔はしないでね」


 それだけ言って、視線を外した。


「……なんだその言い方!」


 マックスが声を荒げかけるが、


「始めますよ」


 カイの一言で、全員が動き出した。


 ――森の中。


 敵は、小型の狼型魔物が5体。

 数も少なく、動きも読みやすい。


「行くぞ!」


 マックスがヘイトを取る。

 以前のように突っ込まず、きちんとタンク役をこなしている。


 悪くない動きだ。


 グレンが横を取り、リリアが後方で詠唱に入る。

 エルナは一歩引いた位置で、全体を見る。


 連携は、できていた。


 だが――


 次の瞬間。


 魔物が増えた。


 視界の外から5体の魔物が加わり、敵は10体になった。


「なっ!き、聞いてねえぞ!」

「10体は多すぎる!」

「グレン!斥候だろ?何で気付かなかったんだ!」


「馬鹿野郎!俺だって常にすべての敵が見えてる訳じゃねえ」


 想定外だった。


 と、その時。

ヴァレリアが、消えた。


「……え?」


 気づいた時には、もう遅い。


 マックスの横を、影のようにすり抜け、

 ヴァレリアは魔物の群れの“奥”にいた。


「おいっ!」


 マックスが叫ぶ。


「勝手に――!」


 言葉の途中で、止まった。


 ヴァレリアの剣が、閃く。


 一閃。

 二閃。

 三閃。


 急所だけを、正確に断つ。


 5体の魔物は、悲鳴を上げる暇もなく倒れていった。


 残った5体が、慌てて散開する。


「右、2体来る」


 ヴァレリアが、短く言う。


 その声に反応したのは、グレンだった。


「……任せとけ!」


 回り込もうとした魔物を、グレンが仕留める。


 残る3体は、マックスが盾で防ぐ。


「ちっ……!」

「リリア、詠唱は?」


「はいっ!もう詠唱は終わってます」

「撃ちます!」

「ファイアーボール!」


 激しく燃え上がる火球が、3体の魔物に向かって放たれた。


 マックスが紙一重で躱した火球は、狙い通り魔物を直撃。


 魔物は倒れ、戦闘は終わった。


 静寂。


「……」


 誰も、すぐには口を開けなかった。


 マックスが、先に爆発した。


「お前なあ!!」


 ヴァレリアを指差す。


「何勝手に突っ込んでんだよ!」


「あれが一番だった」


「一番とか二番とかじゃねえ! 連携ってもんが――」


「連携は崩していない」


 ヴァレリアは、即答した。


「斥候が敵を減らした」

「タンクがヘイトを取った」

「後衛は安全に魔法を放った」


 事実だけを、並べる。


「危険は無かった」


「……っ!」


 マックスが言葉に詰まる。


 グレンが、静かに言った。


「……結果だけ見りゃ、完璧だ」


 リリアは、小さく呟く。


「……私、詠唱……楽でした」


 エルナも、頷く。


「……回復、必要ありませんでした」


 空気が、微妙に変わる。


 マックスだけが、納得していない。


「でもよ!お前だけは危険だったじゃないか!

それに、一言もなしにやるのは違うだろ!」


 ヴァレリアは、少しだけ考えた。


「……言う時間を取るより、斬った方が早かった」


 それだけだった。


 火に油。


「パーティって、そんなもんじゃねえだろ!!」


 そのやり取りを、カイは黙って見ていた。


 そして、ようやく口を開く。


「……なるほど」


 全員が、カイを見る。


「問題点は、二つです」


 一拍。


「一つ目。ヴァレリアさんは、説明が足りない」


 ヴァレリアは、何も言わない。


「二つ目」


 カイは、マックスを見る。


「マックスさんは、“連携=事前に全部決めること”だと思っている」


 マックスが、目を見開く。


「違うんですか?」


「違います」


 即答だった。


「戦場では、“正しい判断をした人の動きに、他が合わせる”ことも連携です」


 その場に、静寂が落ちる。


「魔物が増えたことは、想定外でした」

「その場合、臨機応変な対応が必要です」


「だからこそ、声を出して連携を確認しなきゃなんねえだろ!」


「あの時、選択肢は3つありました」

「マックス、わかりますか?」


「俺がヘイトを取って10体の魔物をブロックすれば良かった」


「いえ、それには敵が多すぎます」

「まずは敵の数を減らす必要がありました」

「その方法は、アタッカー・タンク・斥候の全員が魔物と戦う」


「そりゃ無いな。さすがに多すぎるぜ」

「しかも後衛はプレッシャーに弱い魔法使いと戦闘力の無いヒーラーだ」


 グレンが冷静に答える。


「そうですね。悪手です」

「では、全員で守り、撤退するチャンスを伺う」


「それだと依頼は失敗するじゃねえか!」

「ありえねえぜ」


 マックスが叫ぶ。


「そうですね」

「いかに実戦試験とはいえ、この簡単な依頼をこなせないというのは問題です」


 カイは全員を見回して言った。


「三つ目は、アタッカーが単独で突撃して、敵の数を削る」


「想定外を想定内にするということですね」


 リリアが納得したように言った。


「そういうことです。」

「想定外の事態さえ潰してしまえば、後は事前の作戦通り」

「済々と敵を倒せばいいだけです」


「つまりは、ヴァレリアの突撃が、あの時の最善手だったってことですね」


 エレナが言った。


「そういうことです」

「ヴァレリアさんは、確かに事前の同意なく動きました」

「ですが、その判断は、全員を守っています」


 マックスは、悔しそうに歯を食いしばる。


「……ムカつくけどよ」

「まあ、強えのは、認めるよ」


 ヴァレリアは、少しだけ視線を逸らした。


 その仕草は、どこか居心地悪そうだった。


「本日の実戦試験は、ここまでです」


 カイは、そう告げる。


「結論は、明日出します」


 ヴァレリアは、頷いた。


「分かった」


 それだけ言って、踵を返す。


 去り際、ふと立ち止まる。


「……嫌なら、断っていい」


 マックスを見ずに、そう言った。


「無理に組む気はない」


 そして、歩き出した。


 その背中を見ながら、マックスが小さく呟く。


「……なんだよ、あいつ」


 グレンが、苦笑する。


「こじらせ方がハンパねえな」


 カイは、心の中で頷いた。


(評価は、まだ途中だ)


(だが――)


 足りないピースが、今ここにある。


 天衝のレゾナンスが完成するかどうかは、

 この剣士を、どう扱えるかにかかっていた。


 次の判断が、試されている。

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