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国外追放を言い渡されましたが

作者: こうじ

 レシーヌ王国とグラース王国との国境に1台の馬車がやって来た。


 そこから1人の少女が押し出されるように出てきた。


 ボロボロの服を着た少女は非常に疲れた表情をしていた。


 麻袋に入れられた荷物を投げ出され馬車の扉はバタンと閉ざされ去っていった。


 その様子を見ていたグラース王国の番人はちょっと不愉快な思いをした。


 ボロボロな格好はしているけど気品も漂わせる雰囲気と美しさを持っている少女はフラフラと国境に近づいてきた。


「お願いいたします……」


 少女は身分証明書と1枚の書類を番人に見せた。


「あ、はいはい、お名前はエリシーヌ・ノールズ……、身分は公爵令嬢、えっ!? 公爵令嬢っ!?」


 番人は思わず驚きの声を上げた。


 エリシーヌ・ノールズの名前は周辺国にも響き渡っている。


 レシーヌ王国の王太子の婚約者であり優秀な人物である。


 番人が更に驚いたのはもう1枚の書類だった。


 それは『犯罪証明書』という物であり犯罪者である事を証明する物である。


 番人が目を疑ったのはその内容である。


『王太子妃として相応しくない行動をした為国外追放とする』


 その一文だけである、具体的な事は書かれていない。


「あの、この『相応しくない行動』とはなんですか?」


「それはその……、私には心当たりが全く無いのです。 いきなり婚約破棄を言い渡されて……」


 泣きそうな表情で言うエリシーヌに番人は困惑していた。


 これは厄介な匂いがしてきた、こういう時は上司に判断を委ねるのが良い、番人はそう判断しエリシーヌには詰所で待機してもらい上司に報告をした。


 報告を受けた上司も困惑していた。


 そもそも犯罪者を国外に出す時は事前に連絡を受けて受け入れ先を見つけたりとか監視をつけたりとか色々な手続きが必要となってくる。


 何の連絡も無しにいきなり国外追放したからよろしく、と言われてもこちらとしてはどうすれば良いかわからない。


 上司は自分の手におえない、と判断しすぐに王宮に報告を入れ、とりあえずエリシーヌは一晩詰所で泊まる事になった。


 その翌日には王宮から馬車がやって来てエリシーヌの身柄はグラース王国の王都に運ばれていった。


 王宮に着いたエリシーヌを出迎えたのは顔馴染みであるグラース王国の王太子妃であるルシール・グラースだった。


「エリシーヌ様、大丈夫でしたか?」


「ルシール様、この様な格好で申し訳ありません……」


「いえいえ、今密偵が調査していますので結果がわかるまではごゆっくりお過ごしください。 王太子様も今回の件は重大案件として扱うそうなので」


「そんな大事にしても大丈夫なのでしょうか……?」


「当たり前です! どうせあの女好きの王太子エリシーヌ様の事が邪魔になって今回の事を起こしたに違いありません! それに我が国に連絡をしなかったのは下に見ている証拠です!」


 自分の変わりにプンプンと怒ってくれているルシールを見てエリシーヌは漸く心が温かくなる様な感じがした。


 エリシーヌのレシーヌ王国での扱いは端から見れば良い物ではなかった。


 仕事は丸投げされるわ、何をしても褒められる事は無く、手柄は王太子に奪われる。


 ルシールからしてみればエリシーヌは見習うべき存在であり尊敬に値する人物である。


 そんな人物が国外追放なんて信じられないし犯罪者として扱われるなんて許せない。


 ルシールは婚約者である王太子に徹底的な調査を依頼し結果が出るまでは自分が身元保証人になる、と宣言した。


 王太子としても自国を舐めた今回の件は遺憾だから事実を明らかにさせる決意をした。


 そしてエリシーヌがグラース王国に来てから1週間が経過した頃、密偵からの調査結果が届いた。


 その内容はやはり予想した通りだった。


 レシーヌ王国の王太子であるレジオン・レシーヌがとある男爵令嬢と恋仲になりエリシーヌの事が邪魔になった。


 そこで周囲を巻き込みエリシーヌの悪い噂を広め、更にエリシーヌに嫌がらせを受けた上に階段から突き落とされそうになった、とでっち上げたのだ。


「……と、これが我が国が調査した結果なのだが、そちらの国はちゃんと調査したのだろうな?」


 グラース王国の王太子であるライアス・グラースはレシーヌ王国の大使を呼び出し調査結果を見せた。


「も、申し訳ございません! 私の元には本国から何も連絡が無くエリシーヌ様が追放されたのも今初めてお聞きしました……」


 顔面蒼白になっている大使を見て本当に知らなかったんだろうな、とライアスは思った。


「我が国としては勝手に国外追放しても良い、と思われるのは心外であり今後の関係も考えなければならない」


「そ、それだけは…っ!!」


「ならば本国と相談して何らかの結果を報告するように」


 大使には罪が無いが国の代表として来てるのだからプレッシャーをかけるぐらいはいいだろう。


 向こうの誠心誠意な対応を期待していたが残念ながらレシーヌ王国からの連絡は無かった。


「密偵からの連絡だとやはり王太子の独断だったそうで国王は知らなかったらしい。ただ向こうはそれはそれで良い、と思ったらしい」


 ライアスはエリシーヌを呼び出し呆れながら言った。


「国王様はレジオン様に甘い方ですから……」


「父上と相談した結果、国として制裁をする事にした。 このまま舐められてばかりでは面子が保たないからね」


「そうですか……」


「複雑そうな顔をしてるね」


「はい、お父様やお母様に何かあったらと思うと……」


「あぁ、ご両親にはエリシーヌ嬢は保護して無事である、と伝えてあるよ」


「良かった……、ありがとうございます」


「公爵は王家に対して思う所があるそうだ。 もし事を起こす事になったら我が国は協力を惜しまないよ」


 それから1か月後、レシーヌ王国でクーデターが起こった。


 公爵率いる反王家派がこのままでは危うい、と危機を感じ行動を起こしたのだ。


 結果から言えばクーデターは成功し旧王族とそれに連なる者達は拘束され立場を追われた。


 事が収束してエリシーヌが国に戻ってこれたのは更に1ヶ月が経過した。


 エリシーヌが追放されてから3ヶ月が経過していた。


 旧王族達は裁判にかけられた結果、国外追放となった。


 ちゃんと手続きをしてグラース王国ではなく別の国に追放されるのだが、その国境までに山脈があり危険な山道を通らなければならない。


 そこで『不幸な事故』が起こり、命を落とす、そういう事になっている。


「王都追放だったらこうはなってなかったですよね」


 父親が新たに王として即位して身分が王女になったエリシーヌはしみじみと思った。


 


  


 

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