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【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!  作者: 高見南 純平
第1部 追放からの旅立ち

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第94話

 俯き、頭を上げることが出来なかった。


 そんな彼の元に、ゆっくりと共に戦った仲間が歩み寄ってくる。


「大丈夫?」


 ひとこと、彼女はそう投げかける。

 ララクの背中からは、暗い感情がひしひしと伝わってきた。


「……大丈夫じゃ、ないかもです」


 強がっても仕方がないと、彼はありのままの思いを言葉で漏らす。彼にとって、冒険者の死は初めてだった。


 数多くの冒険者と関わってきた彼だが、パーティー在籍期間は短い。そもそも、弱小だった彼を入れ続けると、そのうち死亡者が出る危険性があると判断されて、追放されていた。

 常に「死」は傍にある仕事ではあるが、彼にとっては慣れているものではなかった。


 悲しむ彼に、あえてゼマは非情と思える事を伝えた。


「悪いけどさ、私にはいまいち分かんないんだよね。少ししかあの人と一緒じゃなかったんでしょ?」


 彼のこれまでの人生を、ゼマはなんとなく聞かされてはいた。様々なパーティーを追い出されたことも知っていた。

 だからこそ、疑問だった。

 彼が何故、これほど感情移入している理由に。


「……そうですけど」


 即答できなかった。

 彼にもまだ、その胸の内を理解することが出来ないのだろう。


 消失感、悲哀、様々な思いが彼の頭を支配している。


 そんな時、場違いとも思えるような青い光が、ララクの手から光り輝きだした。


 手の甲にある紋章が点滅しているのだ。


 皮肉なことだが、ディバソンを倒したことにより、レベルアップを果たしていた。


 しかし、彼は疑問に思う。


 僅かな差ではあるが、点滅は新スキルを得た時の反応だった。ララクはこれまで、レベルアップによるスキル習得は経験していない。

 今回の戦闘で、新たな複合スキルも編み出してはない。


 悲しみとどう向き合うか模索中のなか、彼は仕方なくその紋章に触れる。ずっと点滅し続けていては、目障りだった。


 紋章に触れると、彼に起きた変化を光のパネルで教えてくれる。


 それを見たララクは、さらに不可解に感じることとなる。


 名前  ララク・ストリーン

 種族  人間

 レベル 52→53


 スキル減少


 アクションスキル

【ロックブラスト(Ⅴ→Ⅳ)】【オーラサイズ(Ⅲ→Ⅱ)】


 パッシブスキル 

【ピッケル適性(Ⅱ→Ⅰ)】


「これは……」


 初めて見る情報だった。


 スキル減少、歴の長いゼマでも初めて見る文字だ。


 これは、スキルの性能数値が下がったことを意味している。

 ララクのスキルは、他の人と違って、被っていたスキルは1つに集約して強化されていた。それと、個人レベルの数値を加味して、(Ⅴ)や(Ⅵ)と表記されていた。


 基本的にレベルアップでスキルが強化される仕様のためか、この数字が高くなったとしても、いちいち紋章は知らせることはなかった。


 しかし、今回のことは、本体であるララクに知らせる情報、という認識なようで、紋章が点滅したのだ。

 紋章についてはまだ分かっていないことが多く「ある程度の知能を所有している」という説もあった。


 スキルの減少、それが表すこと。


 ララクは、少ししてから理解することが出来た。


「そっか、ディバソンさんがいなくなったから……」


 彼はパネルを消滅させると、ディバソンがいたはずの場所に視線を移す。


「どういうこと?」


 ゼマは完璧に【追放エナジー】の使用を把握していたわけではなかったので、詳しい説明を求めた。


「ボクの力は、もともとは、昔パーティーだった人たちの力です。そして、今回数字が低くなったスキルは全部、ディバソンさんが所持していたスキルの一部です」


 彼は、誰がどのようなスキルを持っているかを何となく把握している。スキル画面を直接読めていなくとも、戦った姿を見れば把握できる。


 【ロックブラスト】はそれなりにメジャーなスキルだ。土系統の王道的なスキルだからだ。しかし、鎌やピッケル関連のスキルは珍しい。希少スキルというほどではないが、印象には残りやすい。


「つまり、さっきの人がいなくなったから、あんたの中からスキルが減ったってこと?」


「……おそらく」


 2人の予想通り、ララクの中からはディバソンが所持していたスキルが全て消滅していた。タイミングを考えても、その原因が彼の死であることは明白だった。


「……本当にいなくなったんですね」


 改めて文字として記されると、さらに失った絶望感が倍増した。さっきまで目の前にいたはずの人が、もうこの世にはいない。その目で捉えた現実だとしても、すぐには受け止められるわけではない。


「ゼマさん」


「どうした?」


「確かに、一緒にいた時間は短いです。

 それでも、それでも、かつての仲間であることに変わりはありません」


 今でこそ、ゼマというパートナーを得たララクだが、パーティーを転々としていた期間のほうが彼には長かった。生き死にを共にしたほどの思い出がないからこそ、彼にとってはひと時でも仲間となった人たちとの時間が、何よりも大切だった。

 それを忘れてしまっては、彼が冒険者になってからゼマに会うまで、孤独のまま戦っていたということになってしまうのだから。


「そっか、あんたにとっては、大切な繋がりなんだね」


 ゼマはララクが、ソロが長い自分とは違うことを思い出す。

 彼ほど、冒険者と共に戦ってきた者はいない。


「助け、たかった」


 ララクは拳を強く握りしめた。


 彼にはよく分かっていた。


 あの時点で、自分にはああするしかなかったということが。例え、彼が消滅すると分かっていても。


 これ以上被害を出さないためにも、かつての師に過ちを犯し続けさせないためにも、彼は鉄の悪魔と化したディバソンを、倒すしかなかった。


 ゼマの回復スキルが、寄生された体に効かないことは、カリーエの時に判明している。


 分かってはいても、失いたくはなかったと、後悔の念が収まらなかった。


「……」


 崩れ嘆くその姿を見て、ゼマはどう声をかければいいか考えていた。彼にとって、ディバソンがどういう人間なのかは、少しだけ察することが出来た。


 だから、いつものように、笑いながら声をかける気にはならなかった。


 ゼマは思い出す。僅かながら、ディバソンとララクとのやりとりを、彼女は見ていた。


(そういえば、あの時……)


 ゼマが記憶を呼び起こしていた場面は、ディバソンがララクを襲う直前のことだ。ララクがピッケルを掴み、魔晶石を採掘しようとした時だ。


 ピッケルの使い方を見てやると、彼はララクの後ろに立った。


 ララクが全く警戒していなかったので、その前に同じ状況があったことが推察できる。


「あのさ、私にはよく分かんないけどさ、失っただけじゃないでしょ?」


「え?」


 彼には、ゼマの意図がよく分からなかった。今の彼は、ディバソンを失ったことしか頭にないのだから。


「ほら、ピッケルの持ち方、教えて貰ったんでしょ?」


「っあ」


 ララクは思い出す。ストーンズに所属していた時、彼は採掘クエストに行くことが多かった。その時は【ピッケル適性】を持っていなかったので、ディバソンに直接、その持ち方や採掘方法を教えて貰っていた。


 今の彼のスキル画面には、ディバソンの持っていた適性は消滅している。しかし、彼と過ごした記憶まで、消えてしまったわけではない。


 かつての仲間のことをよく記憶しているララクは、しっかりとその教えを覚えていた。


「私にも教えてよ」


 ゼマは目の前にある魔晶石の山を見上げる。彼女たちの目的は、まだ終わっていない。今回は、この魔晶石を採掘するのがゴールだ。


 彼女は単純作業の鉱石採掘に飽きていた。しかし、今はやる気を出して、ララクに教えて貰おうとしていた。


「……はい」


 ララクはなけなしの魔力を使って、【ウェポンクリエイト・ハード】を発動する。そして作り出したのは、ディバソンが持っていたピッケルと同じものだった。

 それを2つ作成して、片方を彼女に渡す。


「よーし、いっぱい掘るぞ~」


 肩を回しながら、魔晶石へと近づいて行く。


「……ありがとうございます」


 その場でボソッと呟くと、彼も立ち上がって、目的を達成することにした。


「えっと、まずは腰の使い方ですかね」


「なるほど、腰ね」


 ララクは自分で実演しながら、ピッケルの構え方をゼマに教える。彼女はふざけることなく、真剣に聞いていく。


 そして、2人はピッケルを魔晶石に突き刺していく。


 そもそも量が多いということもあるが、面白いように魔晶石がゴロゴロと地面に落ちて行く。


 2人が教えを忠実に守りながら魔晶石を掘り進める音が、地底に響き渡っていった。

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