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【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!  作者: 高見南 純平
第1部 追放からの旅立ち

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第93話 砂

 着々と、元のディバソンの体が見え始めてくる。

 しかし、それでもまだ、アイアンデーモンの寄生から逃れることは出来ない。


 身体能力を上げていたアイアンデーモンの寄生数が減ったことにより、反撃の手も自然と止まっていた。これでは、サンドバック状態だ。


「はぁぁぁ、はぁ!」


 身動きの取れない敵に、ララクは容赦なく拳を喰らわす。


「はいはい、はいぃ!」


 独特な掛け声で、ゼマも追撃の手を止めない。


 そして、あらかた鉱石部分の切除に成功する。


 あとは、アイアンデーモン1匹分といったところだろうか。


「お、おれが、まけるはずはっ!」


 これはアイアンデーモンの嘆きだろう。一時的な共生に成功して、通常の何倍もの力を得ることが出来た。しかし、それでも目の前の小さな戦士と、後方のヒーラーには勝つことが出来ない。


「ディバソンさん。ボクはカリーエさんとの師弟関係が羨ましかった。

 だからこそ、ボクはあなたを許せない。

 これで終わりだ」


 寄生されているとはいえ、内側にいるディバソンにも声は届いているはず。そう考えて、ララクは自分の思いを伝えた。

 彼が一緒に行動していた期間は短い。それでも、彼らの関係はララクにはキラキラと輝いて見えていた。


 さらに接近したララクは、止めの一撃を発動する。


「【ヴォルケイノ……ナックル】!」


 今はモンスター化しているとはいえ、ディバソンは知った顔だ。鉱物がかなり剥がされているということもあって、彼の目や口がララクには見えている。

 しかし、だからといって躊躇するわけにはいかない。


 彼を魔の手から救うには、心を鬼にするしかない。


 ララクの装着した右ガントレットが、一気に赤く変色する。そして、マグマのような煮えたぎる炎に包まれていく。

 スキル効果によって、一時的に拳が炎系統に強くなるように強化されている。でなければ、攻撃する前にガントレットのほうが溶けてしまう。


 ぐつぐつと燃えたそれは、まるで彼の怒りを表現しているかのようだった。


 苦悶の表情をしながら、ララクはアイアンデーモンの腹を、スキルでぶん殴った。


「っぐ、ぐぉっぉおぉぉぉお」


 【ヴォルケイノナックル】は炎系統と土系統が合わさった高火力の拳スキルだ。そして、アイアンデーモンには炎が効果抜群だ。


 拳がヒットすると、すぐに胴体にある鉄部分が発熱しだす。それはすぐに全身に伝播していく。


 そして、耐えきれなくなったアイアンデーモンの体は、粉々に発散していくのだった。


「……っぐ、ああ」


 殻を破ったように、中からディバソンが解放される。意識が朦朧としており、そのまま地面に倒れ込む。


「ディバソンさんっ!」


 戦闘が終わった余韻に浸ることなく、ララクはしゃがみ込んで顔を近づける。


 かなりディバソンの体は重たいが、ララクはなんとか上半身を持ち上げる。


 満身創痍のディバソンは、ゆっくりと口を開く。


「わ、悪かったな。自分が強くなれた気がして、心地よかったんだ。けど、お前に言われて、気がついたよ」


 彼の言葉から、後悔の念がひしひしと伝わってくる。アイアンデーモンが暴走したということは、彼が寄生を抗ったということだ。

 ディバソンは、ララクからカリーエの本心を聞いたときから、考えを見つめ直していたのだろう。


「おれが求めてんのは、あいつとずっと笑って過ごすことだ。大声で、酒を飲みながらな」


 彼は似合わないか細い声を出しながら、ふと笑顔を見せる。今まで、酒場で彼女と飲み明かしていた日々を思い出していた。


「できるよ。戻ろう、彼女の元へ」


 3人分の【テレポート】を使う余裕があるかは微妙だが、ディバソン1人をカリーエの元に届けることは出来る。


 しかし、ディバソンはそれを否定する。


「む、無理だ」


「どうして?」


 ストーンズの2人はアイアンデーモンから引きはがすことに成功した。あとは、悔いを改めて、再出発するだけ。ララクはそう考えていた。


「っう、はぁ」


 ディバソンが徐々に苦しみだす。それが、彼に触れているララクにもよく伝わってきた。アイアンデーモンに寄生された人間は、生命力を奪われるのだった。


「ララク、あいつに、伝えてくれ……」


 痛む体を無理やり起こして、ディバソンはララクの耳に口を近づける。そして、カリーエへの伝言を伝えた。


「そ、そんなの、自分で伝えれば……」


 そこで、ララクは気がついてしまう。

 抱えている彼の体から、何故か砂が落ちて行くことを。それはどこからともなく現れたわけではない。

 ディバソンの体が、徐々に砂に変わっていっているのだ。


「代償、ってやつだな」


「……ディバソンさん」


 ディバソンとララクには分かっていた。これがどういう状況なのか。

 彼はアイアンデーモンとの寄生が長すぎた。しかも複数個体を受け入れていた。


 1体でもカリーエのように酷く疲弊するので、彼の生命力がつきるのは当然の結果だった。


「……色々と、悪かったな。ほんと、強くなったな。じゃあな、ララク」


 みるみる彼の体は砂に変換されて、徐々にララクの腕の中から消えていく。

 ディバソンは最後の力を振り絞って、自分を人間に戻してくれたかつての弟子に謝罪をした。


「強くなれたのはあなたと出会えたからだよ」


消えかけるかつての師匠を抱きかかえながら、自分の力のルーツを思い出していた。【追放エナジー】で得た力には、ディバソンのも含まれている。

それに彼の言葉には、そういった事実的な理由だけではないように思えた。


「そう、だったな……。っちったぁ、若い奴の役に立てたのか」


彼にとっての生きがいの1つは、後進の育成だ。それが老い続ける自分には出来なくなると考え、あんな行動を起こしたのだ。

そんな彼にとって、ララクの言葉は、気休め以上に、胸にすっと沈んでいった。


「……はぁ、じゃあな、ララク」


自分の死期を感じ取ったディバソンは、静かに目を閉じる。その頭に浮かぶのは、後悔、恐怖。それとも、弟子とのたわいもない日々だろうか。


「……さよなら、ディバソン」


ララクがそう呟くと、ディバソンの体全てが砂となって消えていった。

彼の痕跡は、何も残らなかった。

服も、武器も、全てが消滅した。


そこには、鉄の残骸と膝をつく少年の姿だけが残されていた。

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