第91話 答え
「っお、何か分かった?」
「はい。全力ってなにも、むやみに力を使う事じゃないんですね。
その時、自分に合った最適の動きをする。
そのために、頭と体を動かす。
それが、答えな気がします」
ララクの表情は、悩みが晴れた清々しい顔をしていた。彼なりに「全力」という言葉の意味を、この数日間考えていたのだ。
それが足かせとなり、魔力消費の激しい行動をとってしまった。
咄嗟に多くの冒険者を【テレポート】で助けたのは悪い判断とは一概には言えない。結果的に、彼らは無事にここから脱出できたのだから。
しかし、もっと他にやりようはあったかもしれない。
いつもの、冷静なララクになら。
「うん、いいんじゃない?」
鉄の怪物と戦いながらも、ゼマは嬉しそうに微笑んだ。彼女なりに答えは分かっていたのかも知れない。だが「全て教えるのが正しいわけじゃない」精神なようで、彼に考えさせたようだ。
「それで、作戦は?」
「はい、出来ました。アイアンデーモンを攻略する作戦を」
彼は自分なりの答えを出したと同時に、標的に対抗できる術も同時に編み出していた。
ララクが考えたのは、打撃系統でありながら、高速度を維持して戦える戦法。そして、魔力消費は最小限。
「【ウェポンクリエイト・ハード】!」
深呼吸を終えて、戦いを再開するべく武器を作り出した。
今まで彼が作り出してきたのは、剣やハンマーなどの汎用的武器、それに釣り竿やピッケルなどの変わり種。
そして今回作り出したのは、汎用的ながら、「武器」とカテゴライズするのには微妙なものだ。
人によっては防具の一種として捉えるかもしれない。
少なくとも、【ウェポンクリエイト】で作り出せる範囲の物であることは間違いないようだ。
「これなら、互角に戦える」
ララクは両手拳を握りしめると、その2つを「ガツン」と打ちつける。
その腕には、銀色に輝くガントレットが装着されていた。
これが、彼の作り出した武器だ。
彼の体が小柄なこともあって、そのガントレットは大きく見える。が、実際の重量はハンマーなどに比べればかなり軽い。
「ゼマさん、加勢します! 【スピードアップ】!」
さらにスキルを発動して、動きの速度が素早くなるように強化した。
高速で動けるようになったララクは、応戦しているゼマに協力するべく、ダッシュで近づいて行く。
鉱山の地面を蹴って瞬時にゼマたちの元へと辿り着く。
そしてゼマの背中を飛び越えると、アイアンデーモンへと強襲する。
「はぁぁぁ!」
アイアンデーモンの顔面を狙って、ガントレットを叩きつける。
「むだ、だ」
しかし、スピードの乗ったその攻撃でも、アイアンデーモンは反応して避けてしまう。
すぐさま、ピッケルを振り払って反撃してくる。
「っく、素早いだけじゃないな」
ララクも難なく避ける。が、アイアンデーモンの反撃性能が高いことを頭にいれておく。
アイアンデーモンの目は、顔にあるだけではない。
常に目玉が飛び出しているわけではないが、その体には複数の目線が蠢いている。
スピードが互角になったとしても、相手の回避性能が高ければ、攻撃を当てるのは困難だ。
だが、これはララクの作戦内に織り込み済みだった。
「ゼマさん、乱舞を」
「ここで? あんたにも当たるよ?」
三者の距離感はかなり近い。ここで広範囲の攻撃をすれば、味方にヒットしてしまう危険性がある。
「大丈夫です。お願いします」
少しだけ振り返ったララクの表情は、とても澄んでいた。
覚悟の決まっているその顔を見て、ゼマは不安に思うことはなかった。
「りょうかい。行くよ! 【刺突乱舞】」
至近距離なので、あまり【伸縮自在】の効果は使わずにそれを発動した。
素早い突きがアイアンデーモン、そしてララクを襲う。
ララクはゼマに背を向けているので、よりそれを回避するのは困難だ。
「【感知強化】っ」
ララクは新しくスキルを発動した。
この感知、というのは第六感のことである。周辺の気配を察知して、自分にくる攻撃を読み取ることが可能になる。
これにより、例え背後から攻撃されたとしても、避けることが出来る。
「な、なにぃ?」
背後からの乱舞を、風に揺れる旗のような滑らかな動きで、ララクは回避していく。そして、彼に当たるはずだった【刺突】は、アイアンデーモンに襲い掛かる。
アイアンデーモンの体にヒットはするものの、ヒビを入れられるほどのダメージではない。しかし、これも打撃系統の武器で出しているので、威力と破壊力には優れている。
何度も当てることが出来れば、アイアンデーモンにダメージが入ることだろう。




