第85話
「いげぇぇぇ!」
ディバソン寄生体が号令を行うと、アイアンデーモンたちはララクたちに襲い掛かる。1人に対して3体ずつで襲撃する。
モンスターではあるが、何か人形のような無機質さを感じる。
「無駄無駄っ! 三連【刺突乱舞】!」
お馴染みの乱舞を3回連続で発動していく。単純に突きの数が3倍になるのだが、それだけ正確に狙った場所を突くのが困難になる。
が、そんなことを毛ほども感じさせない余裕さで、ゼマはアイアンデーモンたちの鋼鉄部分だけを粉砕していく。
「【分身】」
ララクは自分と同じくアイアンロッドを持った分身体を1体作り出す。【伸縮自在】を付与していないので、アイアンデーモンたちに近づいて行く。
そして、分身体と共に【刺突乱舞】を放っていく。
分身体に細かい指示も出来なくはないが、そうなるとそちらに意識が持っていかれて、自分自身の動きに集中できない可能性がある。なので、基本的には自分の動きをトレースするように設定してある。
彼が【伸縮自在】を付与しなかった理由は、アイアンデーモンのほうから近づいてきていたということと、すぐに使いこなせるか不確かであったからである。
実はというと、ララクの【棒適性】はそこまで強化はされていなかった。【槍適性】なら遊泳槍デューンなど、所持している冒険者が多い。
だがこれは、希少スキルと言うほどではないが、そこまでメジャーな適性スキルではないのだ。
そのため、スキルだけでいえば、ゼマよりも少しだけララクのほうが上手く扱える程度だ。レベルはララクの方が高いからである。
しかし、それ以上に武器を扱ってきた歴が違う。
そのため、ゼマのような練度で扱えるかどうかはまた別の話である。
なので、魔力消費は激しいが分身体を使って、その練度の差を埋めようとしたのだ。
ララクはパッシブスキル【攻撃力上昇】や【打撃力上昇】などを所持しているので、破壊力は文句なしだ。
逆にいうと、それほど強化された状態で、寄生先の人たちを傷つけずに攻撃するのは難易度が高いだろう。
カリーエの衰弱ぶりを見ると、かなり寄生先の体力が奪われている可能性があった。なので、ララクはすぐに助け出そうとしている。
ララク、そして分身体、さらにゼマの放った【刺突乱舞】は、アイアンデーモンたちの集団に細かくヒットしていく。
やはり、ゼマのほうが粉砕度合いが綺麗だった。
数的不利だったはずだが、あっという間にアイアンデーモンたちは寄生先から引きはがされることとなった。
中にいたのは、どれも鎧を着た冒険者だ。人間の他にも、獣の遺伝子を宿した獣人もいる。おそらく首都からやってきた冒険者パーティーだろう。
ここは、山専門ギルドでなくとも、鉱物の調達などで冒険者が頻繁にやってくる。しかし、アイアンデーモンに気をつけていないと、このように寄生されてしまう。
何故なら奴らは、【地中移動】で音もなくやってくるからだ。
アイアンデーモンの魔の手から解放された冒険者たちは、その場で倒れる。残すは、ディバソンのみだ。
2人は簡単に倒せたこともあって、ディバソンもすぐに解放できるとどこかで感じていた。ディバソンは他のアイアンデーモンたちと違って、鋼鉄部分が厚くそもそもの筋肉量が凄まじい。しかしそれでも、ハンドレッドの2人であれば、順調に倒せるはずだと。
しかしそんな甘い考えは、すぐに吹き飛ばされる。
「【アイアンショット】!」
ディバソンは片手を前に向けて、スキルを発動する。彼の前に、岩ではなく鉄の塊が出現する。そしてそれは細かく砕け散ると、そのまま前方に向かって飛び散っていく。
広範囲の遠距離スキルだ。
このスキルのターゲットはララクたちではない。水晶の山の近くで倒れている、6人の冒険者たちだ。アイアンデーモンに寄生されて体力を奪われており、全く動けずにいる。
そのため、この攻撃を避けることは出来ない。
「っまずい!」
それを確認したララクは、咄嗟にスキルを発動する。防御ではなく、冒険者たちを一瞬でこの場から移動させることのできるスキルを。
「【テレポート】!」
地べたに這いずる冒険者6人をまとめて対象にして、首都へと瞬間移動させた。冒険者たちは訳も分からず、魔力の光に包まれて消えていった。
これにより、【アイアンショット】は誰にも当たることなく地面にぶつかっていく。
だが、これにより大幅にララクの魔力が消費された。
「ちょっとララク、あんた大丈夫なの?」
スキルについて詳しいわけではないが、【テレポート】が大量の魔力を消費するのはなんとなく理解している。
このスキルは、移動距離、人数などによって消費量が変化していく。6人まとめてとなると、かなりの量となる。
「な、なんとか」
魔力消費なので、体力が奪われるわけではない。が、倦怠感はある程度あるようで、彼は頭に少しだけ汗をかいている。
自分にどれくらい魔力があって、スキルにどれだけ消費するかは感覚的に分かる。
「がっはっはっは、狙い通りだ!」
アイアンデーモンに乗っ取られた様子のディバソンは、高らかに笑う。どうやらその状態でも言語を喋れるようだ。
ディバソンとアイアンデーモンは、かなり特殊な状態になっているといえる。
人間の知性を手に入れたからなのか、アイアンデーモンは知略を練っていた。いわばさっきの冒険者は人質のようなもの。はなからやられる前提で呼び出し、ララクに助け出させたのだ。




