第79話 【棒適正】
カリーエとララクは一度、【ストーンズ】というパーティーで一緒だったことがある。山仕事を主にこなしており、ここへは来たことはないが、鉱山には一緒に訪れた経験がある。
「大丈夫ですか?」
腰を下ろしたララクは、彼女の上半身を抱えて意思疎通ができるか確認する。
「はぁ、はぁ。な、なんとかね」
そんな衰弱しきった彼女の体が、急に発光し始める。これは回復スキルの発動時の光だ。
「【クイックヒーリング】」
ヒーラーとして、弱ったら回復する、というのが根付いているようで、すぐに彼女に回復を施した。
ララクと知り合いのようなので、一応助けることにしたのだろう。
しかし、一向にカリーエの症状は良くならなかった。まだ息は荒いままだ。
「あれ、おかしいな」
自分の回復性能の度合いはゼマが一番分かっている。普通なら、すぐに元通りの状態に戻ってもおかしくはない
「彼女に外傷はありません。もしかすると、生命力そのものを奪われたのかも」
正確なことはララクにも分かりえないことだが、とにかく通常の回復スキルでは治療できないということだ。
しかし、だからと言って絶体絶命というわけではなかった。
カリーエの呼吸は徐々にだが正常に戻りつつある。寄生も終了し、傷もないのでゆっくりと休息をとれば、意識もはっきりしてくることだろう。
これも、ゼマが寄生先にダメージを与えることなく攻撃したおかげと言えるだろう。
「わ、私のことはいい。し、師匠が奥に行って帰ってこないんだ……。師匠を頼む」
弱弱しいカリーエは、力を振りしぼって口を動かす。そしてララクの肩に手をやる。
「ディバソンさんもいるんですね? ……分かりました、探してみます」
「わ、悪いね。助かるよ」
岩石野郎 ディバソン。カリーエの所属する冒険者パーティー【ストーンズ】のリーダーであり、彼女の師匠にあたる初老の男性だ。
ララクも彼の弟子?だった期間が短いがあった。
ララクは彼女の手に、自分の手を重ねる。
「ここにいたままでは危険ですので、首都に送りますね」
「おく、る?」
カリーエは彼の言っていることがよく分かっていなかった。彼女は【テレポート】を彼が所持していることを知らない。
「大丈夫です。安全ですから」
説明すると時間がかかるので、彼は半ば強制的に彼女を送ることにした。
「【テレポート】」
ララクがそれを発動すると、疲弊しているカリーエの体が光となって消えた。
「それじゃあ、先を急ぎましょうか。ディバソンさんなら大丈夫とは思うんですけど、心配なので」
ララクはカリーエとの約束を実行するために、洞窟の奥へと進もうとする。
しかし、ゼマは立ち止まったままだった。
「どうしました?」
「いやあんたさ、さっきの彼女と、仲良かったの?」
「っえ、いやー、仲が良かったかは分かりませんでしたけど、結構よくしてくれました。結局、戦力外通告されちゃいましたけど」
そもそも【ストーンズ】というパーティーは、日々弟子を求めている社交的なパーティーだ。仲たがいをして追放されたわけではない。
「っそ。まぁじゃあそいつを助けるのは手伝ってあげる。まだ魔晶石は見つかってないから、結局進むしかないしね。
でも分かってる? これはクエストじゃない。報酬だって貰えないんだよ?」
そうこれは、いわばプライベートでやっていることだ。これにお金は発生しない。彼らの目的は、武器を作るために必要な魔晶石を集めること。
人助けは、ララクの私情ともいえる。
「確かにメリットはないですよね。でも全力でやろうって決めたんです。自分にできることを」
「ふーん、っまあんたがいいならいいけど」
ララクがリーダーなので、そこまで否定的にならずに、ディバソン探しに付き合うことにした。




