第73話 ルーツ
「実はな、疾風怒濤を辞めたんだ。ついさっきな」
彼に真実を話す。言いづらい話ではなかったが、どうもすぐに話す気にはなれなかったようだ。
「辞めたんですか? それってパーティー契約を解除したってことですよね。まさか、追放? いや、そんなわけないですよね」
ガッディアの脱退は彼にも衝撃を与えたようで、1人で喋っては自分で意見を否定していた。
パーティー契約解除=追放、という考えがララクには染みついているのかもしれない。
「お互いの合意の上さ。あいつらはもっと広い世界を旅するはずだ。もし今度再会する時があれば、さらに手ごわい存在になっているはずだ」
夜空を見上げながら、随分と先の未来について語りだした。彼にとって、デフェロットたちは子供のような存在だったのだろうか。それとも共に戦ってきた仲間か。もしくは、そのどちらでもない、もっと特別な存在なのだろうか。
「旅ですか。っあ、それでパーティーを辞めたんですよね。家族がいらっしゃいますもんね」
「キミは、こんな俺のこともよく覚えているな。その通りだよ」
ララクが疾風怒濤に加入していた期間の中で、彼に子供がいることは伝えてあった。世間話ついでに話したことがあったのだ。
だが、ララクは他のメンバーと違って、在籍期間が短く、何よりガッディアは彼を追放した立場にある。
【追放エナジー】の時にも感じたことだが、ガッディアはしっかりと元メンバーのことを記憶しているララクにたまげていた。
「もちろんですよ。じゃあ、これからジンドの街に帰るんですね?」
「その予定だ。キミたちはこれからどうするんだ?」
ここ首都サーザーで再会してから、バタバタしていたので、ゆっくりと話す時間がなかった。なので、お互いが何故ここにやってきたのかを知らなかった。
「一応、ここにはクエストを探しに来ました。高難易度の」
「なるほどな。キミたちのパーティーなら、どんなクエストでも大丈夫そうだな」
「そうだといいんですけど。あと首都サーザーは、国境でもあるじゃないですか。だから、その、他の国にも行ってみたいなって」
気恥ずかしそうにしながらも、自分の考えを伝えた。
彼の言った通り、ここからさらに東に行けば別の国の領地となる。
「なるほど、キミもそういうタイプか。もしかして、そもそもキミが冒険者を目指した理由はそれか?」
「っえ、ボク言いましたっけ?」
「やはりそうか。ずっとキミが何故100回も追放されながら、諦めずに冒険者を続けていたのかが気になっていた。
一人前の冒険者になるため、という理由もあるのだろう。
しかし、それだけの行動理念で、前に進めるものなのかと、疑問に感じていた」
ララクが100回の追放にあったことを知ったのは、彼が疾風怒濤を追い出されたタイミングだ。なので、あまりそのことに関して触れる機会がなかった。
「だが、それが世界を旅したい、という壮大な目的のためならばより理解できる。旅は危険がつきもの。そのためには、一定の実力に達していることは必要条件といえる」
ガッディアは疾風怒濤に、旅をせよと助言した。しかしそれは、彼らなら生半可なことでは倒れないと感じたからだ。
誰であろうともそんなことをアドバイスするわけではない。
「そうです。子供の頃からの夢でした。昔から図鑑とか地図とかを見るのが好きで。
小さな村に住んでいたんですけど、そこにいた友達と約束したんです。いつか一緒に旅をしようって」
いつの間にかララクは自分の過去のことについて話していた。聞き上手なのか、ガッディアが横にいるとつい喋ってしまう。
「そうか、大きな夢じゃないか。……それで、その友達は?」
夢を語る少年を見守っていたが、その夢が今は叶っていないことに気がつく。なので触れないようにも出来たが、そのことについて聞き出した。
「その子、父親と冒険者をやっていて、のちにボクとパーティーを組むって言ってくれたんです。
でも、どんどん彼は強くなっていって、素人のボクを入れる気がなくなっていったみたいで。
まぁ、その子の判断は正しかったと思います。実際スキルは全く増えませんでしたから」
「そうか。ヒーラーが必要ないとは、相当強くなったようだな」
普通、回復スキルを持っているなら、レベルが低くとも仲間に迎えるはずだ。それが友人ならばなおさら。だが、何故ララクとの約束を破ったのかは、その友人にしか知りえないことだ。
「それはもう。だから、他のパーティーを探して入れて貰って。それからは、ご存じのとおりです」
「それが君のルーツか。じゃあ、キミは首都を出て隣国に移り行くのか。
もしかすると、あいつらにどこかで会うかもしれないな。その時は、また勝負を仕掛けられるかもしれないが」
はにかみながら、元の仲間たちのことを思い出す。周囲の人間が自分の元を離れて、新たなステージに向かうことを、ガッディアは尊重している。自分から提案したことだ。
しかしそれは、決して寂しさを感じていないということではないだろう。
「また、負けないように頑張ります」
ララクは彼が誰のことを言っているかが分かったので、同じように微笑んだ。もし次戦う時が来れば、今日とはまた違った戦いが繰り広げられることだろう。なにせ、ガッディアはもういないのだから。




