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【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!  作者: 高見南 純平
第1部 追放からの旅立ち

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第71話 苦渋の決断

「えー、それじゃあさ、私はこの乱暴男と、そこのチビッ子のおもりをしなくちゃいけないってこと? 

 めんどくさいんだけど~」


 レニナはすでに、彼の脱退を認めていた。家族がいること、そしてその家族を思っていることも知っている。

 なのですでに、彼が抜けた疾風怒濤を想像していたのだ。


「おいレニナ、お前も抜けるとか言わねぇだろうな?」


 リーダーとして、仲間が次々辞めてしまうことは避けたい。なので今はレニナの自分に対する罵声は気にせずに、引き留めようとしていた。


「どうしよっかな~」


 わざとらしそうにレニナは顔を逸らした。


「俺からも頼むよ。勝手に抜ける俺が言えたことじゃないが、お前には彼らと一緒に旅をして欲しい。

 こいつを、リーダーとして認めているならな」


 軽く頭を下げるガッディア。


「っま、飽きるまでは一緒にいてあげる」


 そもそも彼女の答えは決まっていたのか、驚くほどあっけなくここに残ることを決めた。


 そんな彼女の態度に一番慌てていたのは、実はジュタであった。2人が抜けてしまっては、デフェロットと2人っきりになってしまう。

 もちろん嫌っているわけではないだろうが、2人だけで過ごせるかどうかとはまた別の話だ。


「っち、めんどくせぇ奴だな。おい、ジュタ。お前も残るよな?」


「も、もちろんです! まだ入ったばかりですし、もっとここで勉強したいことがいっぱいありますから」


 内心デフェロットは焦っていたのか、ジュタの発言を聞いた彼は、小刻みに顎を揺らして少しだけ頬があがっているように見えた。


「ありがとう、2人とも。これで安心してここを出れるよ」


 ガッディアも立ち上がり、パーティーメンバーを見渡す。そして、にこやかな笑顔を見せると、自分の腕をデフェロットに向ける。


 手甲をつけているが、その上から紋章が浮かび上がっていた。


「っち、」


 癖の舌打ちをしながら、ゆっくりと紋章のついた手を近づける。


 だが、しばらくしても、デフェロットは何も言わなかった。


 それを不安そうに見つめるジュタと、呆れた様子でいるレニナ。


 見かねたガッディアが声を発する。


「ガッディア・ブロリアスとデフェロット・バーンズのパーティー契約を……解除する」


 自分で言い出したことだが、なにも全て受け入れられているわけではなさそうだ。

 ガッディアが疾風怒濤で活動してきた期間は、2年ちょっとだ。

 それを短いか長いと取るかは人それぞれだろう。


 2人の紋章から光が現れると、それは儚くも鮮やかに散らばっていった。


 これで、疾風怒濤からガッディアが正式に抜けたことになる。


「はぁ、これでもうパーティーじゃねぇな」


 明らかに気が落ちている。

 そんな彼をみて、慰めかガッディアはこんなことを言った。


「だが、俺とお前の間に、その「キズナ」とやらが紡がれていることは間違いない。だからきっと、まだその力を使えるはずだ。

 レニナやジュタと共に、もっとキズナを深められれば、ララクにだって勝てるさ。応援しているよ」


 相変わらず彼は自分の思いを包み隠さずに伝える。それが若者にとっては、むず痒く感じる。


「またお前はこっぱずかしいことを。っふん、お前がいなくたって俺らはやってけるさ。とっとと、お家に帰りやがれ」


 契約解除が終わったとたんに、態度を変えたようにガッディアを追い払おうとする。


「そうだな。じゃあ、俺は行くさ」


 立ち上がってしまったので、このまま酒場を出ることにしたようだ。


「っえ、もう行っちゃうんですか?」


「そんなに娘ちゃんに会いたいんだ」


 早々と帰ろうとするガッディアを引き留めるわけではないが、他の2人が口を出す。


「まぁ、そんなところだ。それに、寄りたい場所もあってな」


「そうでしたか。あの、短い間でしたがお世話になりました」


 ジュタは長い髪を揺らしながら頭を下げた。疾風怒濤に入るための交渉がスムーズにいったのは、知識のあるガッディアがいたからでもあるだろう。


「あとは頼んだ」


「でもさ、別に一生会えなくなるわけじゃないでしょ? またね」


「あぁ、また会おうじゃないか」


 レニナも思うことはあるのだろうが、デフェロットよりはスンとした態度でガッディアを見送っていた。彼女の言った通り、死に別れというわけではない。再会は、意外にも早いことだってある。


「……じゃあな」


「……」


 デフェロットは何も言わずに席に座った。雑に座ったので、またテーブルが微かに揺れた。


 それを皮切りに、ガッディアはその場を離れていった。


「あんた、素直じゃないね」


 別れだと言うのにそっけない態度をとるデフェロットに(子供なんだから)とレニナは思った。


「うるせぇよ。あーくそ、今日は最悪の一日だぜ」


 結局、彼のイライラは消えることなく逆に勢いを増しただけだった。


「……はぁ、もうしょうがないな」


 レニナは何かを思いつき、深くため息をつく。いつもは彼がどんな状態だろうとお構いなし、といった態度をとる。が、さすがに今日は気の毒に感じたのだろう。


「っあ、注文いい? 生ビール1つ。あとオレンジジュース追加で」


 近くを通ったウェイターにドリンクを追加する。


 ジュタはそれを見て(なんでこのタイミング?)と不思議そうだった。


 デフェロットは、彼女の行動の異様さに気がついた。


「お前、酒なんて飲まねぇだろ」


 彼女は酒の臭いが体質的に苦手だった。獣と人間の血が混じった獣人と呼ばれる種族が、全員この臭いを苦手なわけではない。が、比率としては苦手意識を持つ者が多い。


「そうだよ。あんたの分。今日ぐらい飲んでもいいよ、文句は言わないから」


 あまり理由を聞かれたくないようで、サラッとそう答えた。


「はぁ? 気ぃ遣ってんのか? 気持ちわりぃんだけど」


「何よその言い方。もうキャンセルするから」


「っちょ、おい。飲むは飲むけどよ」


 手を挙げてウェイターを呼ぼうとするレニナを、デフェロットは必死で抑え込む。自分でも余計なことを言ってしまったと、若干後悔している。


 酒場は生ビールがメインということもあって、ドリンクはすぐに卓へと運ばれていった。ジョッキに入っており、泡もたっぷりだ。

 彼は久しぶりに飲むこととなる。


「ぷはぁ、やっぱうめぇなっ!」


 喉を鳴らしながら軽快にビールを流し込んでいく。炭酸の爽快さと苦みが体中に染みわたる。


「それはよかったね」


 彼女は鼻をつまみながら目は笑っていた。


「あー、これから3人か。っま、頑張るしかねぇか」


 一度ジョッキを置くと、また何か自分の中だけで考え事をしていた。だが、これが何を思っているのかは、すぐに周りに伝わってしまう。

 感情は隠そうと思っても、体に出てしまうことがある。


「あ、あれ? デフェロットさん、泣いてます?」


 ジュタは吊り上がったデフェロットの目が、少し潤んでいることに気がついた。理由は明白だ。


「まじ、嘘でしょ? あんた、そんなにガッディアの事大切だったの?」


「あーもういんだよ、過ぎ去った奴のことは」


 軽く腕で顔を拭う。涙は流れておらず、泣いているかは微妙な所だった。


「そういえば、自分で追放したくせにララクのことも気にしすぎてるし。あんたって根に持つタイプ? うわー、だからモテないんだ。納得」


 体を後ろに傾けて、引いてますよ、と彼にアピールする。顔もクシャッと中心に寄せている。


「さっきからうるせぇなお前は! あー、今日はとことん飲むからな! ジュタも付き合えよ」


「っえ、あ、はい。お酒は飲めませんけど」


 疾風怒濤から今日、1人の仲間が去っていった。

 しかし、その代わりといっては何だが、新しい若き冒険者が加入した。


 再び3人体制となった冒険者パーティー【疾風怒濤】は、仲間のお別れ会もかねて、飲み会を続けていくのだった。


 そんな彼らのやり取りが聞こえていたのか、ガッディアは出入り口の前に少し立ち止まっていた。


 そして、唇を噛み締めて微かに息を漏らすと、扉を開けて外に出ていくのだった。

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