第63話 鎧魔人
「っぐふっ」
血は吐かなかったが、口を開けて少量の唾を吐いた。かなりいい攻撃がヒットした。
「あら、痛そうね」
攻撃を喰らったデフェロットを嘲笑う。彼女なりの見えすいた挑発だが、目の前の単細胞には効果的だ。
「この野郎、【強斬乱舞】っ!」
今度は双剣に魔力を込めてスキルを発動する。これにより、風と炎系統の効果を得た乱舞となった。最初はオーバーキルになるかとやらなかったが、そんな考えはゼマに対しては甘かったと感じたようだ。
「待ってたよ! 【刺突乱舞】!」
彼がスキルを発動するのを待ち構えていたようだが、その攻撃を防ぐつもりは毛頭ないようだ。姿勢を低くして、限界まで棒を後ろへと下げる。
そして全力全開で、アイアンロッドを叩き込んだ。
お互いが目にも止まらぬスピードの攻撃を何度も相手に放つ。ゼマの体は先ほどよりも深く切り傷が入っており、炎の効果で皮膚も焼け始める。
しかし、彼女の体は傷ついた瞬間にその傷が癒えていく。火傷も酷くなる前に治っているので、【ヒートリカバリー】でなくとも治せていた。状態異常になる前なので、【オートヒーリング】で治せる範囲内の傷、に留まっているようだ。
だが、デフェロットは違う。
肩、腹、脚、と様々な場所に、アイアンロッドの跡がついている。彼も防御力はあまり重視していないスタイルのようで、攻撃を受ければそれなりの痛みを感じるはずだ。
その証拠に、デフェロットの表情が徐々に曇り始める。
(いかれてるぜ、こいつ。俺の攻撃を避ける気がねぇ)
乱舞系の技は瞬時にいくつもの攻撃を繰り出せる優秀で強力なスキルだ。しかし弱点もある。それは、スキルが発動し終えるまでは防御が不可能ということだ。
それをゼマは狙っていたのだ。
彼女は避けずとも、自動で治るようになっているので、安心して攻撃に専念できるのだ。だが、痛覚を遮断する効果はないので、痛みはしっかりと彼女に襲い掛かっているはずだ。
それを覚悟してスキルを発動する姿は、デフェロットに衝撃を与えている。
彼女の戦い方はヒーラーならではの戦闘スタイルだが、ヒーラーの一般的な戦い方では決してない。
「あんたのことは、回復してあげないからね」
「舐めやがって!」
戦闘においても2人は険悪なムードを保っており、意外にも互角の戦いを繰り広げていく。
殺しが禁じられた模擬戦だからこそ、軽症ではとどまることのないゼマをノックアウトするのは容易ではないだろう。
デフェロットが提案した戦闘方式だが、彼女のほうに分が出てしまった。
そんなどちらも攻めを繰り返している戦いに比べて、ララクとガッディアの戦闘はまた毛色が違った。
「【スピントルネード】」
【空中浮遊】で浮かんでいるララクは、地上のガッディアに対して、竜巻系統のスキルで攻撃を行う。
鎧魔人となった彼の体は、誰がどう見ても頑丈に見える。生半可な攻撃は大してダメージにならないと思い、巨大モンスター用のスキルを惜しみなく発動した。
「この程度では、俺には傷をつけられないようだぞ」
ゆっくりと近づいて行く【スピントルネード】を避けもせずに、体で受けるガッディア。彼の言った通り、鎧にはかすり傷すらついていない。依然、光沢感のある鋼鉄を保っている。
そして、大盾をその場で横にはらうと、簡単に竜巻は消滅してしまった。
(魔法系統のスキルに強いんだ。でも、物理攻撃にも当然強いはずだ)
ララクはどうやってガッディアを戦闘不能に追い込めばいいのか考えていた。先程から、水系統、雷系統、そして風系統のスキルで攻撃してみたが、ガッディアは全く動じていなかった。
「こちらから行くぞ!」
ガッディアは膝を曲げて、上空へと高く飛び上がる。そして、リーチの長いバトルアックスでララクに攻撃をする。
スピードも遅く、跳躍力もそこまでではない。
が、元々の身長と武器の長さがあるので、空中のララクまで届いた。
「よいしょっと」
ララクはこれまでの戦いで【空中浮遊】の扱いにかなり慣れていた。重心移動で主に動かすのだが、地上を走るのと同じように自然と体が動いていた。
重い攻撃と地上での急速突進が得意なガッディアでは、彼に攻撃をヒットさせるのは難しい。
「炎ならどうですか? 【フレイムバースト】」
攻撃をしてきたガッディアにできた隙を狙って、炎系統のスキルをしようした。これは初級スキルである【フレイムショット】と違って、爆発する性質のある火炎を生み出し放つ。
盾を構えてガードするも、炎はガッディア自身にも届いていく。そして、強烈な破裂音と共に、炎が爆発していく。
火炎の熱さと燃やす力、それに加えて爆発によるダメージもあるので、このスキルはかなり攻撃的なスキルと言える。
範囲も広いので、自分に被害がないように気をつける必要がある。特にララクのような魔力の高い者が使うと、その被害は甚大なものとなる。
「ふぅぅぅ、はぁぁ」
片腕だけでバトルアックスを器用に振りまわし、炎を消しにかかる。燃やすことに重きを置いているスキルではないので、持続時間はそれほどない。
なので、爆発が終わるとすぐに炎は鎮火していく。
鎧の体には燃えやすい場所が存在しない。なので、どこにも燃え移ることはなかった。
だが、ララクは気づく。僅かではあるが、鉄の体が赤く発熱したことに。しかし、これもすぐに元の紺色へと戻っていく。
(炎はもしかして効くのか? でも、相当な火力じゃないと中まで炎の熱が届かなそうだ)
もう一度、炎系統のスキルを使用して、追撃をしようかと思った。
が、表情からは読み取れないが、ガッディア本人もララクと同じことを考えているはずだ。
ガッディアもまた、鎧魔人という種族のことを理解し始めた段階だ。何が出来て、なにが不得意なのか。
高火力の炎が効く可能性があると分かれば、容易には攻撃を引き受けないだろう。優秀なタンクは、自分で受ける攻撃と避けなければいけない攻撃というのを瞬時に判断できるものだ。
「だったら、【ウェポンクリエイト・ハード】」
デフェロットの剣とぶつかり合った際に刃こぼれをしたので、改めてゴールデンソードを作り出した。
(ここで剣の攻撃だと? ……まさか)
ガッディアは彼の狙いに気付いた。しかし、一歩ララクの方が早かった。




