第59話 キズナ
「ふぅ、この姿は気分が良いぜ! 最高に強くなったんだからな!」
ハイテンションのデフェロットは、装備や肌まで変わっていた。
何故か着ていたはずの鎧は消えており、下半身はぶかぶかのズボンを履いている。上は何も着ておらず、半裸状態だ。肌は褐色になっており、発達した腹筋などが強調されていた。
顔は元のデフェロットのままだが、耳がかなり尖っており、歯もギザギザとした歯並びになっていた。
目つきの悪さには拍車がかかっており、目の色は宝石のような緑色になっている。
髪は尖ったままだが、赤く変色していて燃え上がる炎を表すような髪型になっていた。
そして武器は、ヘルソードではなく、双剣になっていた。1つは紅蓮の両刃剣で、もう1つは緑色の片刃剣だ。
デフェロットであることに間違いはないのだが、全く別の何かに変わってしまったようにも思えた。
「浮かれるな。こういう時こそ、気を引き締めるのだ」
「分かってるよ、ガッディア」
デフェロットは斜め上を向いて喋っていた。
元の2人の身長は少しガッディアの方が高いぐらいだった。
しかし、今のガッディアは3メートルを軽く超えている。
元から兜は被っていたが、フルフェイスに変更されている。のだが、首とのつなぎ目が全く見えない。首だけではなく、関節部分の線も分からない。
鎧を着ているのではなく、鎧そのものという表現が正しいのかもしれない。
光沢感のある紺色の鎧になっていて、それに合わせて武器も変わっていた。
今までは斧を持っていたが、今は柄の先に左右対称に半月の刃がついたバトルアックスを握りしめている。
もう片方の腕には、そのバトルアックスに負けないぐらい巨大な盾が握られている。
完全無欠。そう言いたくなるほど、戦意をそがれそうな硬い見た目をしている。
「2人に何が起きたんだ。これじゃまるで……」
ララクは一瞬で姿を変えた2人を見て、あることを推察した。そして【サーチング】を使って、2人をまとめて調べることにした。
「やっぱり、これは……」
「何かわかったの?」
「はい。詳しくはわかりませんが、お2人は人間ではなくなっています」
「に、人間じゃない!?」
名前 デフェロット・バーンズ
種族 魔人
レベル 47
アクションスキル 一覧
詳細不明
パッシブスキル 一覧
詳細不明
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名前 ガッディア・ブロリアス
種族 鎧魔人
レベル 49
アクションスキル 一覧
詳細不明
パッシブスキル 一覧
詳細不明
「信じがたいですけど、別の種族になっています。おそらく、デフェロットさんが使った【キズナ変化】?なるもののせいかと」
「ああ、そうだ。どうだ、ビビったか!? この姿が、俺が手に入れた隠れスキルの力だ!」
デフェロットは、ある条件を満たしたことで、この隠れスキルを獲得することに成功した。
彼がこの力を手に入れたのはつい最近だ。
ジュタが大勢の冒険者をスキルで鑑定した日のことだ。
ギルドで今後のことを話していた疾風怒濤だったが、意図せずにデフェロットは条件を満たした。
彼はその時のことを鮮明に覚えている。
「な、なんだこりゃあ?」
自分の紋章から浮かび上がってきた文字を見て、デフェロットは首をかしげる。
そこにはこう書かれていた。
【キズナ変化】
獲得条件……キズナを結ぶこと(3/3)
効果……自分、及びキズナを結んだ相手を別の姿に変化させる。共鳴度によって効果の性能は変動する。
「キズナ、とはまた抽象的だな」
ガッディアも今までの冒険者人生の中で初めて見るスキル名だったので、すぐには飲み込めなかった。が、文を読み進めていくと、その効果の輪郭が掴めつつあった。
「私の言った恋人と、そんなに変わんないじゃん」
レニナは獲得条件に記されていた2/3という数字が、「今まで交際した相手」と予想していたわけだが、それほど的外れな考えではなかったことになる。
「こんなスキルもあるんですね。でも、これってつまり、人と仲良くなれば良いってことですか?」
ジュタはスキル詳細に書かれた「キズナを結ぶ」という表現について考え始める。
「文をそのまま捉えると、そうなるだろうな。タイミング的にもそうだろう」
「タイミング? どういうことだよ?」
スキルを得た本人であるデフェロットが一番、理解しきれていない様子だった。
「ついさっき、ジュタはこの疾風怒濤に残ることを決めた。つまり、お前と共に歩むことにしたのだ」
「っえ、じゃあボクの影響ってことですか?」
そんな重要な役割をしていたことに驚くジュタ。彼は隠れスキルを判別したことはあっても、隠れスキルを満たしたことはない。なので、こういった状況に慣れていない。
「別に、俺はこいつと仲良くなったわけじゃねぇ」
デフェロットはジュタから顔を逸らす。
「お前は違くとも、ジュタはお前についていくことを決めたんだ」
「で、でもキズナなんてそんな荷が重いというか。まだ、加入してほんの少しですし」
デフェロットにそっけない態度をされたこともあり、ジュタはまた落ち込みモードに突入している。
「時間は関係ないさ。一宿一飯すれば、ある程度その人間のことが分かってくるものだ。それに、キミはデフェロットの仲間でいたい、そう思ったんだろう?」
「……は、はい。ボクは、もっと皆さんの役に立ちたいと思いました。そして、ボクを仲間にしてくれたデフェロットさんには感謝しています」
交渉とはいえ仲間に加えてくれたこと、さらにその後も追放せずにいたこと。今までパーティーを組めなかったジュタにとって、この【疾風怒濤】はすでに離れたくない場所となっているのだろう。
「っち、恥ずかしい台詞をペラペラと。まぁこいつはいいけどよぉ、あとの2人は誰なんだよ」
「……おいデフェロット、それは本気で言っているのか。照れ隠しもそこまで行くと、庇いきれないぞ」
まだピンと来ていないデフェロットを見て、ガッディアは若干心配になる。内心(鈍感、ということなのか?)と、彼の真意を測りかねていた。
「た、たぶんですけど、残りの2人は、皆さんのことだと思います」
ジュタは両手を広げて、レニナとガッディアに向けた。つまり、デフェロットとキズナを結んだのは、疾風怒濤のメンバーではないか、とジュタは考えていた。
「あん? 俺がこいつらと?」
「私、別にこいつのこと好きじゃないし」
「それはこっちの台詞だ!」
レニナも否定し始める。彼女もデフェロットの顔を見ようとはしなかった。
「ガッディアはともかく、こんな生意気娘と仲が良い訳ねぇだろ」
デフェロットはレニナとは何度も口喧嘩をしてきたが、ガッディアとは日常的な会話をスムーズに行うことができる。おそらく、そういった印象が強いので、レニナとキズナを構築しているとは思えないようだ。
「こんな奴、リーダーとしても冒険者としても中途半端だし。その2人の中に、私は入っていないから」
ジュタが予想したことを、レニナ自ら否定しだした。
話が進みそうもないので、ガッディアは積極的に彼女に説明し始める。
「そうか? お前みたいなマイペースなお嬢さんが、1つの場所に留まっているだけでも、ここを気に入っている証拠になると思うがな。
逆に考えてみろ、こいつが他の者と、そのキズナとやらを育めると思うか?」
テーブルに肘をつき、ムスッとした態度のレニナだったが、それを聞いて少し表情が柔らかくなった。
「それは言えてるかもね。っま、私がここにいるのは、他のパーティー探すのが面倒くさいだけだけどね~」
結局、彼女は最後まで認めなかったが、否定もしなかった。
「お前ら、俺のこと舐めてんのか? 人を社会不適合者みたいに言いやがって」
どうやらデフェロットは、ガッディアの物言いが気に食わなかったようだ。
「すまんすまん。しかし、俺は紋章が示すように、お前のことを信頼しているぞ。不器用ながら、パーティーのことをよく考えている」
照れも笑いもせずに、真っ直ぐとガッディアはデフェロットの方を向いて語った。
その真剣な姿に、デフェロットの方が耐えきれなかった。
「っち、よく面と向かってそんなことが言えるよな」
ストレートに自分の気持ちを伝えてくる彼の言葉を聞いて、伝えられた側の方が羞恥心にかられだしている。
「いつ死ぬかも分からない人生だからな。伝えられる時に伝えるようにしてるだけさ」
「ふ~ん、それが夫婦円満のコツってやつ?」
「まぁ、そんなものさ」
冒険者は全員、いつ死んでもおかしくない仕事をしている。そして、攻撃を受けるのが仕事のタンクというのは、その確率が一番高い。自分の耐えうる攻撃かどうかを見誤れば、一瞬で死を迎えることもある。
「あーもういいぜ、この話は。休んだら、またクエスト行くぞ。この力を確かめなきゃいけねぇからな」
キズナという不確かで精神的表現である言葉が、デフェロットには合わないようで、長引く前に次の方針を決めてしまった。
「この変化という部分が気になるな」
「化け物になったりして?」
「っえ、人じゃ、なくなっちゃうんですか!?」
新しく得たスキルに期待を膨らませながら、疾風怒濤の4人は疲れを癒すことにした。
そして、その【キズナ変化】を使用した2人の姿が、魔人と鎧魔人である。




