第56話
「……!」
「……へぇ~、やれるんじゃん」
長い付き合いの2人は、デフェロットの行動を見て、内心かなり驚いている様子だった。会釈するぐらい誰でもやることだが、デフェロットはそんな挨拶すら普段はしない。
そして、彼の普段の行いを知っている者がもう1人いた。
「あの、頭を上げてください。あなたがそこまで言うってことは、なにかあるんですよね。デフェロットさんがなんでボクと戦いたいか気になってきました。
ボクでよければ、戦いましょう」
デフェロットの言葉は、気持ちの本気度を伝えると同時に、ララクの好奇心を刺激した。図らずだが、ララクにメリットを作ったのだ。
「……交渉成立だな。はぁ、じゃあさっそく外に出るぞ」
プライドを捨てて頼み込んだデフェロットは、気を取り直す。
「ちょっと待って」
話を進めだすデフェロットに、ゼマが口を挟む。
「なんだよ、話はまとまっただろうが」
「今度は私からのお願い」
「お願い、だと?」
ゼマの態度が、少しだけ柔らかくなり始める。それがかえって、デフェロットには気色が悪かった。
「っそ。その戦いさ、私も混ぜてくんない? ずっとソロだったからさ、対人戦ってほとんどやったことないんだよね」
笑顔を見せながら、今度は彼女が交渉をしはじめる。挑発的な態度をとった相手に、今度は自分の意見を通そうとするゼマ。その様子を見た周囲は、変に思いながらも感心さえしはじめる。
「混ざるって、2対1ってことか?」
「違う違う。あんたのところからも、1人出せばいいでしょ。せっかく人数いるんだし、パーティー戦と行こうよ」
ララクと同じように、彼女もまた戦いへの意欲が出てきたようだ。
「パーティー戦か……」
最初から1対1を望んでいたので、その提案を少し吟味しだす。だが、すぐに否定しないところを見ると、彼にとっても悪くない話のようだ。
「いいでしょ? お・ね・が・い」
彼女は頭を下げる代わりに、謎のウィンクをデフェロットに放った。彼女なりの誠心誠意というやつのようだ。
「っな、なんなんだこの女は。っち、分かったよ。だけど、パーティー戦になったら俺の力はもっとやべぇことになるぞ。
後悔すんなよな」
彼女の雰囲気がどうもデフェロットには合わないようで、邪険そうにしている。結局、話を長引かせたくなかったのか、すぐに彼女の提案を飲むことにした。
「なかなか、個性的な仲間が入ったな」
「デフェロットが押されてるの、変な感じね」
「け、喧嘩になるんじゃないかって冷や冷やしましたよ」
疾風怒濤のメンバーには、ゼマとデフェロットが水と油に見えたに違いない。ずっと一番端で、新メンバーのジュタは焦りながら、今のやりとりを見ていた。
「っあ、ララクもそれでいい?」
肝心のリーダーの意見を聞いていなかったことにゼマは気がついた。マイペースに話を進めるのは、パーティー経験が少ないからだろうか。
「えぇ、もっとゼマさんとの連携にも慣れたいですし。それで、そちらからは誰が出るんですか?」
「そうだなぁ……」
デフェロットは相方を決めるために、仲間たちに目を移す。こういう時、選ばれるんじゃないかと心臓をバクバクと鳴らすのかもしれないが、ガッディアたちには緊張感はまるで流れていなかった。
ついさっきまで、ララクたちと戦うことになるとは思っていなかったので、緊張も何もないようだ。
ガッディアは堂々と腕を組んでおり、レニナはあくびをしている。ジュタはというと、戦闘にまだ自信がないので、首が取れるんじゃないかというぐらい激しく首を横に振っていた。
「ガッディア、一緒に戦ってくれ。お前なら、すぐに戦えるだろ。付き合え」
「いいだろう。俺は彼女の方に興味が出てきた。ララクが認めたんだ、侮れない相手のはずだ」
彼はゼマの態度を見て、よりどんな戦闘をするのか気になっているようだ。冒険者自体は長いガッディアだが、ヒーラーはあまり会ったことがないので、戦い方が気になるようだ。
損得の話が出たわけだが、結局両者ともに「力を試したい」「相手の力が気になる」といった感情的な理由で戦うことになっていた。
「っあ、でももう風呂入っちゃったから、明日にしない?」
ゼマは自分が戦闘服ではないことに気がつく。まだ、髪も乾いていない。
「明日か、まぁそれぐらい仕方ねぇか。じゃあ明日、俺たちと勝負だ。逃げるんじゃねぇぞ」
「もちろんです。なんだか楽しみになってきました」
ララクは少しだけ口角を上げて、明日の戦いへの期待感を高めるのだった。
【あとがき】
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