第32話 竜巻
「【空中浮遊】、【ウェポンクリエイト・ハード】」
スキル効果で上昇すると、ララクはだんだんと手に馴染んできたゴールデンソードを生成する。
地上の敵には有利をとれ、空中の時には同じ間合いで戦えるので【空中浮遊】は利便性の高いスキルといえる。
ゼマのほうは、一度木に登って、足場になりそうな枝を選んで、軽快な身のこなしで次々と飛び移っていく。
棒高跳びの要領では隙が多すぎると、彼女なりに考えた結果だろう。ダメージは受ける前提ではあるが、出来るだけ軽減しようとする考えはあるようだ。
2人同時にシームルグに攻撃を仕掛けていく。
しかし、相手は迎撃態勢に入っており、ダメージを与えるのは容易ではない。
「【ウィンドスラッシュ】」
ゴールデンソードを使い、斬撃をシームルグに数発、放った。
「シュロオォォ」
だが、それは一度もシームルグの体を傷つけることはなかった。それどころか、かすりすらしない。
体重もかなりあるはずだが、大怪鳥の俊敏な飛行を目の当たりにすると、そんなことは微塵も感じない。
無駄のない動きで、正確にララクの攻撃を避けている。
風の力を得た飛ぶ斬撃なので、本来なら軽々と回避できるスキルではないにも関わらずだ。
それがなせるのは、パッシブスキル【飛行能力上昇】と、でかい図体のわりには細かいところまで意識することが出来る頭があるからなのだろう。
冒険者は、モンスターと違って野生の勘ではなく知恵を絞って戦うことが多い。そういった敵と戦っているので、頭脳戦の心得もあることだろう。
「ほらよっ!」
枝を足場にしたゼマは、ララクの攻撃を避ける先読みをして追撃を行うことにした。
細長いアイアンロッドで、回避の隙を狙う。
しかし、視野が広いのか多方向からの攻撃も、シームルグは難なく避けた。そして、反撃も忘れることなく、【ウィングウィンド】でゼマに風を当てていった。
「あー、いったぁ。もう」
また風によってダメージが入ってしまった。【クイックヒーリング】ですぐさま回復するが、一向にシームルグにはダメージを入れられていない。
風圧によって、シームルグとの距離が離されてしまうので、また近づくためには何か工夫をしなければいけない。とても効率のいい攻撃の仕方とはいえない。
「そんなに避けるんだったら、【ポイズンチェイン】!」
ララクは手をシームルグの足元に向ける。すると、その場所を中心として、地面から紫色の毒が含まれた巨大な鎖が出現する。
「シュロロロ」
しかし、脚元からの攻撃にもシームルグは対応して見せた。翼を羽ばたかせて一気に上昇する。
脚を捕えようと鎖は伸びていくが、あと少しで届きそうなところで、追いかけるのをやめてしまった。
【ポイズンチェイン】で作り出せる鎖の長さの限界を超えてしまったのだ。
(ダメか。動きを止めようにも、まずはそれの難易度が高い。こっちも空中移動はできるとはいえ、相手の土俵で戦うには練度が低い)
これでもララクは【追放エナジー】によって得た【空中浮遊】を使いこなしている方だが、常に空で生活をしている鳥には敵わないと判断したようだ。
「シュロロロロロ」
攻撃を与えることは出来ないものの、自分を捕えようとする動きを見て、シームルグのララクに対する警戒度が上がった。
今度は、あちらから攻撃を仕掛けようとしていた。
「ジョロロロロロロ」
遥か上空で滞空しているシームルグは、その場で何度も翼を前へ後ろへと動かし始める。すると翼の先から白く、そして緑がかった風が吹き荒れていく。
そしてそれは1つに収束していき、シームルグの体と同程度の大きさをした竜巻に成長していく。
これは【ウィングトルネード】という風系統の中でも威力の高いスキルだ。
【ウィングトルネード】
効果……翼と魔力を使い竜巻を作り出して、標的に放つ。翼の大きさ、羽ばたきの強さによって威力は変動する。
翼のない人間では決して放つことのできない、翼を有する種にのみ与えられたスキルだ。例え、ララクが【追放エナジー】でこれを所持していたとしても、発動するには翼を得る必要がある。
「ちょっと、大きすぎない?」
ゼマはその竜巻のスケールに驚いていた。
彼女とララクの位置は戦闘を行ったことで離れているが、そんなことは関係なくどちらも巻き込む大きさをしていた。
「ボクが、止めます! はぁぁぁぁ」
大量に息を吸い込み、スキルを発動するための準備をする。
幸い、【ウィングトルネード】が完成するには少し時間が掛かった。
「【スピントルネード】!」
狐風のレニナらが所持している風魔法系統の強力なスキルの1つだ。魔力のみで作り出す典型的な魔法系統のスキルなので、魔力消費は激しい。
が、ララクの魔力は複数の【魔力上昇】で量が増えているので、あまり気にする必要はない。
ララクの前にも、見た目が酷似した竜巻が出現しだした。魔力が上昇しているので、それに比例してスキルの効果も強まっていく。
これにより、【ウィングトルネード】と同じぐらいの大きさにまでなっていた。
「シュロロロロロォォォ」
甲高い雄たけびと共に、勢いよくシームルグは翼を羽ばたかせる。すると、完成した【ウィングトルネード】が地上にいる2人を飲み込もうと動き始めた。
「はあぁぁ、いけっ!」
その場でララクが腕を振り払うと、今度は彼の作り出した【スピントルネード】が動き始める。
そしてそれは、もう1つの竜巻へと近づいて行った。
「ゼマさん、こっちに来てください!」
「りょーかい」
自分ではこの戦いに割り込めないと感じ、ゼマは大人しく後退することにした。ララクの【スピントルネード】に巻き込まれないように、林の中に入り遠回りをしていく。
ゼマが俊敏な動きでララクの元へと戻ったとき、丁度2つの同系統スキルがぶつかり合った。
凄まじい風の轟音が、シームルグの耳にもララクたちの耳にも響いていく。
竜巻同士は決して交わることなく、お互いの形を保ったままぶつかり合っていた。




