第23話 強敵
光速で放たれるそれは、見てからでは対応できない。だが、前もって所持スキルを確認しておいたおかげで、ララクは既にそれに備えていた。
「【シールドクリエイト・ハード】!」
手を前方にかざすと、鉄の塊が出現してそれが瞬時に形を変えていく。敵の光線を防ぐために彼が作り出したのは、自分の体の倍はある大盾だった。ガッディアが持っている物よりも一回り大きい。
この盾には、鉄だけではなく銀や金、様々な鉱石が含まれている。どんな攻撃にも対応できるように、様々な系統のスキルに強く作られている。
光系統にも強いはずだが、みるみる分厚い盾が解けていく。この光はただの光ではない。月明かりの魔力は、そう簡単には防げない。
「これでもダメかっ」
破られることを悟ったララクは、盾が壊れる前に横へと前転する。そして、盾を壊してもなお勢いの止まらない【レーザームーン】は、ララクの真横を通りすぎていく。
(魔天狼。予想以上だ。けど、皆の力を組み合わせれば、まだやれることはあるはずだ)
自分が受け継いだスキルを頭の中で確認する。紋章でスキル画面を読み込んでいる暇はなかった。
レベルはケルベアスとさほど変わらない。しかし、あの時はララクの圧勝だったが、今回はどちらかと言えば押されている。
久々の苦戦に頭を回すが、それは魔天狼も同じだった。
月の力を使用したスキルを、ララクは結果的に避け切った。圧倒的捕食者として、生きてきたであろう彼にとって、こんな存在は始めてだった。今までここに調査をしにきた冒険者たちも、軽くひねりつぶしてきたはずだ。
お互いが相手の実力を認め、警戒態勢に入っている。
そして、先に動き出したのは魔天狼だった。
【空中浮遊】でいまだ宙に浮いたまま、さらに強力なスキルを発動する。
「ワォォォォォォン」
首を高らかにあげながら、魔天狼は狼特有の雄たけびをあげる。これ自体はスキルではない。おそらく、スキルを発動するための掛け声やきっかけのようなものだ。
「……まさか」
ララクは直感的にとてつもない力を感じ取った。
その力には、誰であっても抗うことはできない。
ララクだけではなく、島全体が押さえつけられるような不自然な動きを見せる。風に揺られるように左右ではなく、下に向かって草木が揺れていた。
周辺に身を潜めているモンスターたちも、見えない力に押さえつけられて身動きが取れていない。この中ではジャンピングラビットも跳ぶことは出来ない。
「っく。じゅ、重力か」
ララクは耐えきれずに膝をつく。姿形のない大いなる力には、さすがのララクも抵抗するのは困難だ。
ララクの言った通り、これは【ヘビーダウン】という、重力を操り敵を地面にひれ伏せさせるという恐ろしいスキルだった。
「グルォォォォオ」
さらに追い打ちをかけるために、再度【レーザームーン】の発射準備にかかる。膝をついた相手に、容赦なく超火力のスキルを叩き込む。魔天狼は、出会ったことのない強者に対して出し惜しみせずに戦っていた。
「【ウェイトダウン】+【空中浮遊】」
体重を軽くし、さらに空中へと上昇する力を持ったスキルを発動する。これによりなんとか立ち上がることが出来る。しかし、先ほどと違い自由に動き回るのは容易ではなかった。
つまり、先ほどの防御方法で【レーザームーン】には対処できないということだ。
その間に準備が完了したようだ。
先ほどよりも溜めの時間が長かったので、出力はあがっているはずだ。
「グラァァァァァ」
魔天狼の口から、高圧縮された月明かりの光線が発射される。
防御力がパッシブスキルで上昇しているララクでも、これを喰らえばただではすまない。
「……だったら、【グランダイブ】!」
地上にはどこにも逃げる場所がない。そう考えたララクは、地中へと姿を隠すことにした。【グランダイブ】は一瞬にして土の中に空間を作り、そこに隠れることが出来る。これは、岩石野郎・ディバソンなどのスキルだ。
【レーザームーン】があと少しでヒットする瞬間に、ララクの体が地中に吸い込まれていった。
(ふぅ。危なかった。けど、ここからどうするか。地上に出るのは得策じゃない。でも、ここからじゃ攻撃を仕掛けるのは厳しい)
土の中に避難したララクは、1人で作戦会議を始める。魔天狼が発動した【ヘビーダウン】は地中までは効果が薄かった。その代わり、地面が地震のように激しく振動しているのは感じ取れた。
そしてしばらくして、その揺れは収まる。地上にいる魔天狼が、ララクが消えたことを確認したからだ。
だが、また顔を出せば同じ展開になる。二度同じ手は喰らわないとよく言うが、絶対的な力にはそうも言えないものだ。




