第12話 大物
「おいあいつ、あんなに釣りできたのかぁ?」
「知らニャかったのニャ」
「しかも高級な魚ばかりです」
浜辺のすぐ側にある林の陰に、3人の冒険者が隠れていた。彼らは、ララクにちょっかいを出した【ダブランファミリー】だ。
巨漢のダブラン、雷猫チャミング、嘘鼻トッドーリ。
彼らはここでずっと、ララクのことを観察していた。
「ねぇ親分、魚食べてきていい? リリースするなんて、もったいニャい」
ヨダレをたらしそうになるチャミング。彼女は猫の遺伝子も持っているため、魚には目がない。
「ダメだ。ここであいつを見張るんだよ。あいつの力には何か秘密がある」
林から抜け出そうとするチャミングをダブランは抑え込む。彼らは、ララクの変わりようを探るために、あとをついてきたのだ。
「しかし親分、そもそもぼくたちは隠れる必要があるんですか? 浜辺に行っても問題ないのでは?」
尾行してきたわけだが、トッドーリの言うようにこそこそする必要はとくにない。元メンバーで顔なじみなわけだし、堂々と話しかけてもララクなら対応するだろう。
「それはダメだ。クエストは原則、受注されたパーティーしか行っちゃあならねぇ。俺らがあそこにいって、もしシーサペントと戦うことになってみろ。ギルドから注意されるぜ」
見た目によらず、細かいことを覚えている男だ。
「親分、気にしすぎぃ」
「いやでも確かに、もしバレて今後クエストを受けられなくなったら大変です」
冒険者にとってギルドは働くために欠かせない場所だ。あそこがなければ、自分でクエストをとってくるしかないのだから。
ダブランファミリーは、小悪党のような雰囲気を醸し出しているが、ルールは厳守する。
「でもでも、ここに来てるのはいいの?」
「そりゃ、俺たちはここに観光しに来ただけよぉ」
「なるほど。さすがです、親分!」
悪い顔をするダブランだが、やっている内容はしょうもなかった。
彼らがララクを観察していると、その彼に動きがあった。
「っお、これはまた一段と」
さっきの魚を釣り上げた時よりも、さらに竿が折れ曲がっていく。歪に湾曲しだすが、これで壊れないのはスキル【耐久値強化】のおかげだろう。
「もしかして、これは……」
異様なほどずっしりとした重みを感じる。そして、全力で釣り竿を振り上げて、獲物を空へとあげていく。
「こ、これがシーサペント」
「ジュロロロロロロロ」
甲高い雄たけびをあげて現れたのは、沈船のシーサペントだった。その全長は5mほどで、尻尾から頭にかけて太く長い体が伸びている。
見た目は蛇だが、体は青白かった。
これが海を荒らす化け物の姿だ。
これに一番驚いていたのは、ララクではなくダブランたちだった。
『で、でけぇぇぇぇぇぇぇぇ』
3人同時に全く同じ反応をした。息ぴったりである。
かなりの大声をあげたわけだが、シーサペントの鳴き声にかき消されて、ララクの耳には届いていなかった。
「で、デカすぎんだろ!」
「あ、あれは美味しそうじゃニャい」
「あんなの倒せないよっ!」
ダブランファミリーが相手をしているのは、ゴブリンのようなモンスターやデスベアーのような中級モンスター。
それに比べて、ケルベアスやシーサペントは上級モンスターと呼ばれる危険生物だ。並の冒険者では倒すどころか、まともに戦う事すらできない。
けれど、ララクだけは戦う気満々だった。
「よし、戦闘開始……って、あれ」
すぐに釣り竿から剣へと武器を変更しようとしたのだが、宙を舞ったシーサペントはすぐに海中へと戻ってしまう。
その際に、釣り糸も切れてしまった。
「そっか、完全に吊り上げなきゃダメか。でも、もう一度かかってくれるとは限らないし……」
シーサペントような上級モンスターは、ある程度知能が発達している。シーサペントは頭が良いからこそ、待ち伏せを行っているのだ。
そんな相手が、2度も同じ手に引っ掛かってくれるとは限らない。
「あ、逃げられないようにすればいいのか。なら【挑発】」
ガッディアなど仲間を守るいわゆる『タンク』と呼ばれる役割の人間が所持している事の多いスキルだ。効果はシンプルで、対象の相手を怒らせて自分に注意が引くように仕向けるのだ。
【挑発】を使用すると、今度は海の中からシーサペントが自ら姿を現した。今度は、首と頭だけだ。
その顔は少し赤らんでおり、これは【挑発】の影響だ。つまり、今のシーサペントは怒り状態ということだ。
「よし、準備開始だ。【ウェポンクリエイト・ハード】、それに【空中浮遊】」
ゴールデンソードを作り出し、さらに地面から足を放す。ケルベアス戦でも使用していたスキルたちだった。使い勝手が良いようだ。
空を飛び海の上へと飛び立つララク。この様を見て、ダブランたちが驚かないはずがなかった。
「そ、空も飛べるようになっただとぉ!?」
「剣も金ぴかニャのだ!」
「スキルの数、おかしいよ!」
まるでララクの戦いを観戦しに来たお客のように、見事に驚いては声をあげる3人。彼らが知っている、弱くて役立たずはもういなかった。
「ふぅ、【ウィンドスラッシュ】」
遠くの相手を攻撃できるスキルを発動する。風の斬撃が、シーサペントに向かっていく。
しかし、それがシーサペントの体に当たることはなかった。
何故なら水中にもぐって避けてしまったからだ。シーサペントを逃した【ウィンドスラッシュ】は水面に当たって、波を起こすだけだった。
そして、すぐにシーサペントは再び顔を出す。
(これじゃダメだ。【挑発】は効いているけど、避けないわけじゃない。【ウィンドスラッシュ】じゃ、海に当たってシーサペントまで到達しない)
「【サーチング】」
まずは相手の戦力を知るために、スキルを把握することにしたようだ。
名前 不明
種族 シーサペント
レベル 58
アクションスキル 一覧
【ウォーターボール】【ウォーターカッター】【波起こし】【渦巻】【デッドバイト】【テイルウィップ】【ウォーターレーザー】
パッシブスキル 一覧
【遊泳力上昇】【水系統効果上昇】【俊敏性上昇】【攻撃力上昇】【水感知】
シーサペントのレベルは、ケルベアスよりも少しだけ低かった。それでも、ララクよりはレベルが圧倒的に高い。
それに加えて、ここはシーサペントの生息地である海だ。
ララクにも【遊泳力上昇】のスキルが備わっている。これは、釣り師アバンジャのパーティーメンバー、遊泳槍デューンなどのスキルだ。
だから、彼も海の中で泳いで戦うことは出来る。けれど、それだけではシーサペントの泳ぎに追いつけるとは思えなかった。
シーサペントは【遊泳力上昇】に【俊敏性上昇】まで持っている。そもそも人間とシーサペントでは、泳ぎの才能がまるで違う。




