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天変の魔女  作者: 貝殻アックス
第一章-転生社畜の異世界少女生活

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12話-実力

 目を覚ます。今日はリミエラさんに魔法を見せる予定。『水穿(すいせん)』は……元々リアンさんが使ってた技が基だし、ちょっとズル(短縮)もして身に付けたから、技術的に高度な技、というのはなんとなくわかってたけど、あそこまで驚かれることなんだ……という感想ではある。

 それはそれとして、試験以外で人と一緒に依頼に行くのは初めてなので楽しみ半分、緊張半分といった感じだ。


 ~~~~~~~~~~~~~


「来たわね!それじゃ、出発するわよ!」

「はい!」


 短く言葉を交わし、向かうのはフォリオ高原。昇格試験で向かった場所とはまた違う、今度はよりエランの街から離れた場所。草の中にまばらに花の咲いた、年中涼しい野原。竜車に揺られること実に6時間ほど、ようやく到着した。


「着いたわね!それじゃ、さっさと纏狼探して、アナタの魔法で葬ってみせて!」

「はい!……あ、それと、リミエラさんの魔法って見せていただいたりできないでしょうか…?」

「フフ……そう言うと思って、ちょっと強いモンスターの依頼も同時に受けてきたわ!」


 リミエラもリミエラで自分の魔法を披露したかったようで、その手には危険度5の依頼書が握られていた。角度の問題で、ニコの視点からはそれ以上は見えないが。


「マルヴ……どこだろう。」

「ここのやつは大体花の近くとかに居るわ。それを意識して探してみて。」

「…!はい!」


 リミエラの心強い助言を意識しつつ、辺りを探す。と――、


「――見つけた。」


 前回よりも遠く。約200M(マルヴ)先にくつろぐ纏狼を見つける。ニコは杖を構え、その纏狼に狙いをつけ――


「――『水穿』。」


 ――あの時と同じように、纏狼の急所を一瞬で貫き、絶命させた。


 ~~~~~


「すごいじゃんアンタ!何今の!?杖の先からビャって!すいせん?って言った?技名なの!?しかもあれだけの精度のものを長い詠唱無しで!?」


 纏狼の討伐証明になる牙を剥ぎ取り、戻って来たところでリミエラのテンションがおかしなことになる。超興奮している。


「アタシも負けてらんないねこれは……!次はアタシの依頼だ!」

「何を狩るんですか?」

「フフ……ここみたいな高原にしかいない珍しいモンスターが居てね……」


 そう言ってリミエラは持っていた依頼書を開き、ニコに見せる。


「派手な(つの)を持つ、高原の大鹿…とも呼ばれる、《彩鹿(さいか)》ラーディアの討伐依頼よ!」

「派手な角……」


 ~~~~~


 そうして彩鹿ラーディアの捜索が始まり、実に2時間ほどが経った。一向に見つからず、音を上げそうになった時だった。


「あ!!いた!!!!」


 と、大声を出したのはリミエラ。慌てて口を自らの両手で押さえるが、もう遅い。ラーディアはこちらに気付き、猛然と迫ってきた。


「ヤバいごめん!アタシのやつちょっと時間かかるの!なんとか時間稼げる!?」

「できないですよ時間稼ぎなんて!やったことないですし!」

「そうだよね~!仕方ないここは大技じゃなくて小技で……!『貫け!光槍(こうそう)!』」


 そう言うと、リミエラの構えた杖の先端に光が集まり、槍の形を成してラーディアのもとへ飛び出した。

 光の槍はラーディアの額をたやすく貫き、その生命活動を停止させた。


「……ふぅ、一件落着ね!……じゃなくて!アタシも大技でカッコいいとこ見せたかった~!悔し~!」

「……大技じゃなくても、結構かっこよかったですよ。それに大技は、明日いっぱい見るでしょうし大丈夫ですよ。」

「え~んニコちゃん優しい……明日はアナタだけは絶対死なせないように頑張るわね……」


 角の一部を剥ぎ取り、悔しがるリミエラを慰めつつ帰りの竜車に乗って帰路につく。竜車の中では、少女に慰められる20代女性の情けない姿があった。


 数時間、竜車に揺られ、エランの街に着いた時には、辺りはもうすっかり暗くなっていた。


「ごめんねニコちゃん……明日は一緒に頑張ろうね……アタシもいいとこ見せるから……」

「はい……また明日、ですね。リミエラさん。」


 軽く言葉を交わして別れ、明日に備えて早めに就寝することにした。



 そして、翌朝。ニコはいつもより早く目覚め、ギルドに向かった。

 ギルドに着き、中に入って装備よし!持ち物よし!としっかり確認したところで、背後から声がかかる。


「おはよ!ニコちゃん!今日はよろしくね!」

「おはようございます!リミエラさん!」


 軽く挨拶を交わし、支部長室へと向かう。出発前に軽く打ち合わせをするとのこと。

 階段を上り、扉を開く。中にはゲイン支部長、アレスさん、バマダさんが既に座っていた。


「おはよーございます!」

「おはようございます。」

「…来たか。」

「ああおはよう!これで全員だな!」

(われ)は既に準備万端……貴殿らも()く座れ……」


 二日前と同じ席に座り、そして、ギルドの立てた作戦の共有、及び話し合いが始まった。


 ~~~


「件の《嵐の魔女》と《草原の魔人》の戦いだが、今まで通りであれば昼頃には終わると推測される。よって君達には、そこから約4時間後の予測到達地点……戦いの地点からおよそ10KM(キラマルヴ)離れた場所で待機してもらう。勿論、ほぼ同じ道を約1000年の間周回し続けている《嵐の魔女》の移動経路上だ。《嵐の魔女》は常時、自身の周囲500M(マルヴ)……端から端までおよそ1KM(キラマルヴ)(わた)って大雨を降らせている。この雨に触れると、ある一定の魔力量に満たない者は雷に撃たれるが……君達4人にその心配は無用だ。全員がこの基準値を超えている。……君達には竜車で移動し待機してもらうことになるが……駆竜があの豪雨帯に入れる保証がない以上、中にそのまま入るわけにもいかない。よって君達には、《嵐の魔女》の豪雨帯に入り、片道500M(マルヴ)の道のりを駆け、討伐してきて欲しい。……以上がギルド側で立てた計画だ。ここまでの中で、実行者となる君達の目線から、意見はあるか?」


 用意していた紙に書かれた計画をゲインが読み上げ終える。最後の問いかけに、答える者はいない。


「……無いようだな。」

「ええ。流石はゲイン支部長殿。僕らの意見無しで決められる部分は最善の方法を採ってくださる。」

「各人が現場でどう動くか、どのような役割を担うかは4人で相談してくれ。」

「了解です。…さて皆、どうする?」


 アレスが場を仕切り、ゲインを除く3人に問いかける。最初に口を開いたのは、リミエラだった。


「魔女って確か魔力使い切るか跡形も残さず消滅させないと死なないんでしょ?ならアタシが全力の一撃で消し飛ばしてやるわ!それでどう?」

「リミエラ殿の実力は重々承知だが……可能なのか?」

「出来るわよ!前に出力調整失敗した時なんか森の一角が更地になったんだから!」

「噂としては聞いていたがまさか事実とはね……とはいえ、破壊力は申し分ないだろう。あとはリミエラ殿が魔法を発動させるまでの時間をどう稼ぐか、だが……これはまず、《嵐の魔女》の戦い方から割り出す。幸いにも過去の冒険者の交戦記録は残っている。ここから出来る範囲で対策し、時間を稼ぐ。いいね?」


 リミエラもバマダも頷く。ニコは二人に合わせるように、一拍遅れて頷いた。


「うん。じゃあまず――」


 ~~~~~~~~~~


「これで大丈夫そうかな?ニコ君も大丈夫かい?」

「あっはい大丈夫です。」


 ほとんどアレスさんとバマダさんがなんとかするってことになっているような気がする。わたしに振られたのは、3人から適宜《嵐の魔女》の注意を逸らすこと。わたしやリミエラさんが狙われた時はバマダさんが土魔法で守ってくれるらしい。


「……そろそろ出発の時間だ。4人共、準備は良いか?」


 ゲインさんが口を挟む。頃合いを見て言ってくれたようだ。


「僕は大丈夫です!」

「アタシも大丈夫。あ、魔力補給用の薬だけ買ってくるね。」

「吾は問題ない。すぐにでも発てる。」

「わたしも大丈夫です!」


「よし……では15分後に出発する。街の東側の門に集合だ。各自、しっかりと準備を整えて臨んでくれ。」


 ゲインさんがそう締め、一時解散の雰囲気になる。わたしもしっかり装備と持ち物確認して、足を引っ張らないように頑張らなきゃ!


 ~~~~~


 ゲインを含む5人が東門に集合した。


「全員、揃ったな。…作戦の成功と、君達の無事を祈る。」

「ありがとうございます。ゲイン支部長殿。さあ!竜車に乗って行くぞ!皆!」


 アレスの言葉で4人が竜車に乗り込み、少ししたところで、竜車が走り出す。門を抜け、グラシス大草原を目指して。


 道中、まだほとんど駆け出しのわたしを気遣ってか、リミエラさんが声を掛けてきた。


「大丈夫?緊張してる?アタシがついてるからね!ニコちゃんは安心して戦って!」


 リミエラさんは、自分が後ろから魔法を撃つ役割なのはわかった上で優しさで言ってくれている。それがわかる。言葉だけの励ましでも、頼もしく思える。


「……リミエラ殿、貴殿の役割は……」

「ちゃんとわかってるわよ!わかって言ってんの!」

「む……すまない…吾の思慮が至らなかったか……」

「はは、まあそう気にすることでもないと思うぞ!本当にわかってなかった場合だってあるからな!リミエラ殿がそうである可能性は限りなく低いが、バマダ殿は確かリミエラ殿とは今回の作戦が初対面だったか?であればそう思ってしまうのも仕方なしか。」


 賑やかな車内に、思わずこの後に大きな戦いがあるであろうことを忘れそうになる。いけない。気を引き締めないと。


「……確かに緊張感は大事だが、常に気を張り続けていては疲れてしまう。適度に気を抜いた方が良いぞ。」

「…はい。ありがとうございます。アレスさん。」


 3人中2人からこう言われてしまっては抗うことはできない。到着までは大人しくまったりさせてもらおう。


 ~~~~~~~~~~~


 グラシス大草原に到着。あとは嵐が近づいてくるまで待機。


「ニコくん、見えるかい?あれが《嵐の魔女》の嵐だ。」


 言われて、指された方を見れば、大きな黒雲が見える。


「《嵐の魔女》はあの嵐を操っている。……魔女自身の水も雷も多量に含んでいるから操れない道理は無いが……それにしたってあの規模は異常だ。日常の中の大雨と同じと思わない方がいい。」


 リアンさんも言ってたなぁ。『私の『大豪雨』は《嵐の魔女》がやっていた技を基に自己流に調整した技』って。…………あれ?もしかしてこれ……


「ああ、君の得意属性が水ということで一応言っておくけど、あの嵐の制御を奪おうとはしないほうがいい。恐らくだが、奪いきる前に君の魔力が先に尽きる。それに動けない者が2人も居ては、恐らく僕とバマダ殿でも守り切れない。」

「そう、ですよね……」


 何か思いついたのが顔に出てたのか、一瞬で止められた。流石に、やめておこう。


「……少しずつ移動してるわね。この距離でこの速度なら……およそ1時間後、ってとこかしら。」

「吾は心身を研ぎ澄ませる……貴殿らも備えておくべきだ。」

「そうだね。《嵐の魔女》の平時の移動速度はほぼ一定と聞いている。時間まではゆっくりさせてもらおう。」


 そう言って、アレスは剣の手入れを始め、バマダは座り込んで目を閉じる。リミエラは嵐を見つめて何かを考えているような顔をしており、ニコは改めて《嵐の魔女》についての本を読むことにした。


 ⁅《嵐の魔女》

 ――はじめに、この本は《嵐の魔女》について、現時点で判明している情報をまとめた本であり、情報の編纂書以外の何物でもない。


 《嵐の魔女》は栄歴(えいれき)590年に発生した、発見当時の記録上、最初の魔女だ。

 しかし栄歴750年頃発見された、後の《湖の魔女》――かつての《水流》のリアン・アッシュの証言により、《嵐の魔女》は2番目の魔女であること。魔女は元々人間であることが発覚。そして《嵐の魔女》もまた、元人間、冒険者であったことが確定した。


 《嵐の魔女》の攻撃は基本、大規模な落雷、豪雨によるこちらの体温低下に伴う動きの鈍化、溜まった水への雷撃による爆破、雷を直接放つ雷魔法の標準攻撃のみとされている。これはこれまでに挑んだ冒険者達の証言をもとに判明した、確かな情報である。⁆


 ここに書いてある攻撃は、全て話し合って対策を出している。落雷と標準攻撃はバマダさんが土魔法で防ぐ。体温低下と水溜まりはアレスさんが火で対処。わたしとリミエラさんは基本的に攻撃に専念する。そういう作戦だ。


「戦いの直前にも勉強か。勤勉だな!」

「いえ……迷惑をかけるわけにもいかないので、出来るだけちゃんと頭に入れておこうと……」

「真面目だな。……敵の研究も大事だが、自分の魔法と向き合ってみてはどうかな?その方が、いつ、どこで、どの技を使うかをより的確に判断できる。僕はそう思っているよ。」

「自分の魔法と、向き合う……」


 言われたことを頭の中で反芻する。魔法と、向き合う。


「……ありがとうございます。時間まで、やってみます。」

「うん!時が来たら声を掛ける。存分に向き合うといい!」


 アレスさんはそれだけ言うと再び剣の手入れに戻った。

 言われたように、魔法と向き合ってみる。自分が今まともに使えるのは水魔法だけ。技らしい技は、リアンさんから学んだ幾つかのものだけ。

『水穿』、『水眼鏡』、『写し水』、『裂水』、『爆水』、『大豪雨』。このうち『水眼鏡』と『大豪雨』は対《嵐の魔女》ではほぼ使えないと思われる。『写し水』は相手の動きを鏡像のように模してくれるが、代わりにその前にある程度相手を観察しないといけない。自分のであれば観察はいらないから、序盤は自分の虚像を作って囮に、時間が経ったらアレスさんや《嵐の魔女》を写して一緒に攻撃させるのもいいかな。『裂水』『爆水』は……この『写し水』の虚像を利用することも出来そうかも。『水穿』は今のところ直線でしか撃てない。でもこれを曲げられるようになれば、死角からの攻撃に活かせそう。

 あとはもっと……教わった技以外にも出来ることがないか、考えたい。水、水、水…………


「――随分悩んでいるなニコくん。だがそろそろ時間だ。」

「……ああ。雨音が近い。戦いの時だ。」


 もう少し考えたかったけど、仕方ない。大丈夫。きっとなんとかなる。


「――ねえ、ちょっと思いついたんだけど、試していいかしら?」

「うん?どうしたんだい?リミエラ殿。」

()()、アタシの魔法で吹き飛ばせないかしら?」


 そう言ってリミエラが指差した先には、《嵐の魔女》が展開している黒雲があった。


「……どちらにせよやることは変わらないし、吹き飛ばせたなら僕らの負担も減る。やってみる価値はあるかもね。」

「そうよね。やるわ。『其は全てを弾く烈光。全てを消し飛ばす滅光!飛んで爆ぜて吹き飛ばせ――!炸裂破光(さくれつはこう)』!!」


 詠唱の終わりと共に打ち出された小さな光弾。それは黒雲の中心に向かって飛んでいき――凄まじい光と共に弾け、黒雲を吹き飛ばした。


「上手くいったわね!ねえねえニコちゃん!ちゃんと見てた?アタシの実力!」

「――は、い。凄い、ですね。リミエラさん……」


「――流石、と言ったところか。……光魔法の『弾く』性質上、光弾が輝いているうちはあの黒雲は集まれない!行くぞ!」


 豪雨が晴れた草原には、小柄な少女の影が見えた。あれが、《嵐の魔女》。今回の作戦の、目標。

 絶対に、成功させよう。



 こうして、派手な宣戦布告と共に、戦いの火蓋は切って落とされた。

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