第2話:パチ屋の店員なのに小動物のようにおどおどした女性をあらゆる手を駆使して彼女にした話
俺は気の小さい女の子が好きだ。
知らない男に話しかけようものなら、顔を真っ赤にして俯いてしまうような子だ。
「なにそのアニメ脳wそんなやついねーよw」
「現実を見ろw現実をw」
大学の同じパチンカスサークルの加藤先輩と山口には、常々バカにされていた。
たしかに、大学のキャンパスを見渡しても、気の強そうな女しか見当たらなかった。
「日本はいったいどうしてしまったんだろう。」
俺は、無駄に欧米化されていく日本の女性事情に嘆きと憤りを感じていた。
そして、大学生にもなって彼女どころか、好みの女の子も見つからないことに、絶望していた。
そんな悶々とした日々を送っていた大学3年の夏、突然、加藤先輩から一緒にパチスロを打ちに行こうという誘いの電話があった。
「申し訳ないけど、暑いからそんな気分じゃないっすよ。」
と俺がこぼすと、
「絶対に損はさせないから、さっさと来いよ。」
と強引に押し切られてしまった。
そんなに強いイベントでもあるのかなあ、と思いつつも、渋々と指定されたパチ屋で先輩と合流した。
しかし、その店は客もまばらであり、とてもじゃないけど設定を入れているようには見えなかった。
俺はキレ気味に、
「なんなんすか、こんな暑い日にこんな店に呼び出して!」
と加藤先輩に食ってかかった。
先輩はどこ吹く風で鼻歌を歌いながら、親指でホールの一角を指さした。
そこには、女性店員が台を拭いている姿があった。
歳は20代前半、かなりの小柄で、小動物を連想させるような女の子だった。
「たしかに可愛いと思いますけど、そのためにわざわざ呼んだんですか?」
俺がため息交じりにそういうと、先輩は俺の耳元で小声で、
「ちょっと偶然の振りして、通路を通りかかるときにあの子の尻を触ってみろよ。」
と、とんでもないことを言い始めた。
俺はかなりごねたが、加藤先輩は一見した際のやさしい雰囲気とは異なり、かなり凄みがある人物であったため、有無を言わさない雰囲気となっていた。
まあ、パチ屋の店員が偶然ケツを触られたくらいで騒いだり、警察を呼んだりすることもないだろう。
俺は覚悟を決めて、通り過ぎ際に彼女の尻を手の甲で擦るようにして触ってみた。
その瞬間、
「びくっ!!!」
と彼女の身体が硬直するのがわかった。
もはや、誰かに触られたことが気になったというレベルではなく、身体全体を震わせるように緊張していた。
その動作にびびりながらも、俺は何もなかったかのように通路を通り過ぎて、コーナー部分でさりげなく彼女を見た。
彼女は、俺の方を見るでもなく台のふき取りを続けていたが、顔は真っ赤になり、どことなく緊張したようで身体を強張らせていた。
その様子に、俺の股間は突然の膨張を始め、あまりの圧迫で前かがみになってしまった。
心臓がバクバクと鳴り響き、俺の顔も真っ赤になっていくのを感じた。
俺は、このような状況を彼女にバレないように、一列ずらした通路を通って、加藤先輩と合流した。
「な、損はさせないって言っただろ?」
先輩はニヤニヤと笑っていた。
俺は、今までの人生で、ここまで誰かに感謝したのは初めてだった・・・。
翌日、俺は土下座をする勢いで加藤先輩と山口に協力をお願いした。
「パチンコ店の女性スタッフをものにする。」
というのは、若輩の俺が考えても困難なものに感じられた。
店側で明確に「客との接触」を禁止されているためだ。
ひょっとしたら、風俗嬢と付き合うよりも難しいかもしれない。
そこで、百戦錬磨のヤリチンである加藤先輩と、パチ屋で隣に座った女を彼女にしたという山口に助けを求めたのだ。
「純真無垢な女の子から、パチ屋の女に趣向替えとは極端だなwww」
と散々からかわれたが、そんなものは全然気にならなかった。
もう、俺にはあの女しかいないのだ。
これを逃したら、いつ恋愛できるかわからない。
その真剣さが伝わったのか、2人はすぐに真面目に相談に乗ってくれるようになった。
「まあ、とりあえずは情報収集なんじゃねーの?」
これが協議の末の結論だった。
俺が関わってるとバレると後々面倒になるということで、加藤先輩と山口が率先的に動いてくれた。
俺たちが今のところ把握している情報は、彼女の制服についていたネームプレートの「辻本みのり」という名前と、日中シフトに入っていることが多いということだけだった。
名前が偽名である可能性もあったが、同じホールのめずらしそうな名前の店員を捕まえて、
「お前、変わった名前だけど、本名なの?www」
と冗談半分に聞いた結果、この店は基本的には本名を表示していることがわかった。
「まあ、犯罪者とかなら偽名を使ってるかもしれないけどねえ。」
その店員は不吉なことを言い出したが、それはあまり考えたくなかった。
加藤先輩はこまめにホールに顔を出して、男女問わずに店員の名前と見た目の年齢のリストを作っていた。
大学からさほど遠くないパチ屋であったため、大学生のバイトもいるんじゃないかと踏んでのことだった。
リストがある程度完成すると、先輩は持ち前の人脈(といってもヤリサー仲間)を駆使して、この店でバイトをしている学生を突き止めてくれた。
うちの大学の学生ではなかったが、わざわざ大学対抗の合コンまで設定して、色々と情報を入手してくれたのだ。
その結果、
「本名はネームプレートと同様の辻本みのり」
「本人が言うには年齢は20歳、入社2年目の社員とのこと。」
「とにかく気が弱く、特に男に話しかけられると固まってしまう。」
「グループ会社の社長の苗字が辻本であるため、縁故入社じゃないかという噂がある。」
というようなことがわかった。
また、あの性格と社長の親族という噂があることもあり、職場で彼女に手を出す男もおらず、おそらく彼氏もいないんじゃないかなあ、というようなことを言っていたそうだ。
とりあえず、彼女がフリーである可能性があることを知り、俺の心は踊った。
一方、山口の方からは思いもよらない情報が入ってきた。
山口は妙に勘の働く男で、彼女が日中のシフトについていることから、ある可能性に当たりをつけていたそうだ。
「昼間に働いているということは学生である可能性は低い。給料は高く、時間の自由が利き、なおかつ社会的にそんなに褒められたものではない職業に就く理由といえば・・・。」
と山口がもったいぶって説明しだした。
俺は若干イライラしたが、なによりも彼女についての情報が重要だった。
俺は真摯に山口を見つめた。
「つまり、彼女はシングルマザーだったよ。子供は今年で4歳だってさ。」
俺の態度に山口は申し訳なさを感じたのか、頭をポリポリと搔きながら、そう言った。
山口はホール周辺の保育園を片っ端から調べてくれたそうだ。
その日、俺たち3人は集まってきた情報を整理してみた。
予想は含まれるものの、導き出される結果は、
「彼女は16歳で出産して、逃げるようにしてこの街にやってきた。」
「本人が望まない出産であり、男性が苦手なことから、おそらくはレイプされたのではないか。」
「パチ屋で働きながら、4歳の子供を育てている。」
というものであった。
「なかなかヘビーだけど、どうするよ?」
加藤先輩はニヤニヤしながら俺を見た。
そんなものはもう、決まっているのだ。
それからの俺の動きは、自分で思い返しても、凄まじいものがあった。
まず俺は、彼女の子供が預けられている保育園で、バイトを始めた。
あまり知られていないが、保育士自体は資格が必要であるが、学生でもできる仕事は山のようにあるのだ。
しかも、幸運にも俺は大学で「児童福祉学科」を専攻しており、動機も十分であった。
空いている時間のすべてを保育園でのバイトに費やし、保育士、親、子供たちの信頼を勝ち取っていった。
そして、自然と彼女と話をする機会も増えていった。
やはり、男性が苦手と言うこともあり最初のうちはたどたどしかったが、子供が気に入っていることもあり、次第に普通に話をできるようになった。
年齢が近いこと、保育園という性的なものとは切り離された空間であったこと、なども有利に働いた。
なによりも、彼女は子供を溺愛しており、教育に熱心であり、自分に足りない男性的な意見を俺に求めることが多かった。
気が小さいながらも、大切な子供のために真剣になる姿に、俺は改めて惚れ直してしまった。
やはり彼女は、俺の理想の女性だったのだ。
保育園のバイトを始めて半年が経った頃に、俺は加藤先輩と山口を連れて、彼女の勤めるパチ屋に遊びにいった。
いつまでも、保育園のバイトと母親の関係では、拉致が空かないのだ。
俺たちは偶然を装って、働いている彼女と対面した。
「・・・五十嵐君も、パチンコなんてするんだね。」
彼女は顔を赤らめ、モジモジしていた。
俺がパチンコをすることを責めているわけではなく、自分がパチンコ屋という社会的に褒められたものではない職業であることを知られて、恥ずかしく感じていることは明白だった。
気まずい雰囲気が流れそうになったが、
「俺たちが無理やり連れてきちゃったんですよ。」
「悪友ですみませんね。」
と、加藤先輩と山口がフォローしてくれた。
俺たちは、日ごろの設定と期待値を重視したギラギラしたうち回しではなく、遊び慣れてない大学生のように、推定設定1の台を回しては、演出に一喜一憂して騒いでいた。
そうこうするうちに、社員である彼女が、
「すみません、他のお客様のご迷惑になるので、もう少しお静かに・・・。」
と消え入るような声で注意をしてきた。
そして、俺だけに聞こえるような声で、
「あと1時間でシフトが終わるので、駅前の喫茶店で待っててもらっていいかな。」
と告げてきた。
「みごとに餌に喰いついてくれたな。」
「お前の今までの努力は知ってるよ。幸運を祈る。」
加藤先輩と山口は帰っていった。
1時間後、彼女は指定の喫茶店に入ってきた。
なにか観念したような面持ちだった。
ウェイターが注文を取りに来て紅茶を注文したが、それっきり下を向いて黙っている。
そして、意を決したように、俺の方をちらりと見て、
「・・・軽蔑した?」
と聞いてきた。
最初、俺はなんのことだかわからなかったが、どうやら彼女にとっては、パチンコ屋勤務は恥ずかしいを通り越して、軽蔑される職業であるらしかった。
パチンカスの俺たちにとっては、色々と気を配ってくれたり、目の保養をしてくれたりと、ありがたい存在なんだけどなあ、と純粋に思った。
しかし、今日の俺は、そんなうわべだけの優しい言葉をかける気はまったくなかった。
今日の俺の目標は、
『パチ屋の店員なのに小動物のようにおどおどした女性を、あらゆる手を駆使して彼女にする』
ことである。
「こんな母親、しかもシングルマザーに育てられて、みさおちゃんも可哀そうだよね・・・。」
俺が返事をしないことを肯定だと受け取った彼女は、次々と独白を続けた。
高校生の頃に見知らぬ男にレイプされたこと。
厳格な教育者であった父親が怖くて言い出せないうちに、中絶ができない期間になってしまったこと。
近所で噂がたち、逃げるように故郷を去ったこと。
父親と仲の悪かった叔父が手を差し伸べてくれて、自分の経営するパチンコ屋で働かせてくれたこと。
そんな恩のある叔父の職業を軽蔑している自分が、なによりも許せないこと。
それでも、自分の子供にはまっとうな職業についてもらいたいと思っていること。
といったことを、堰を切ったかのようにしゃべり始めた。
彼女はレイプされてからの4年間、本音でしゃべることなどできなかったのだ。
しかし、俺はサイコパスなのか、彼女の苦しみの数々を聞いても「ああ、ほんとうに可愛いなあ」としか思わなかった。
レイプされなければこの街にこなかっただろうし、パチ屋に勤めなければ出会うこともなかったのだ。
そうこうするうちに、彼女は言いたいことを言いきったようで、二人のあいだに沈黙が流れた。
彼女は、汚れてしまった自分を肯定してもらいたかったのかもしれない。
今まで目を背けていたが、もうそろそろ立ち位置をしっかり確認し、前に進みたかったんじゃないだろうか。
そのための生活的な基盤は整ってきたし、目の前には人畜無害でやさしそうな男が、自分の独白のサンドバックになってくれるのだ。
しかし、俺はそれを許さなかった。
「好きです。」
俺は、彼女の目をまっすぐ見据えて、告白した。
彼女はポカーンとした表情をしたが、しばらくたっても、意味が分からないといった表情は変わらなかった。
「俺も来年で卒業です。みのりさんとみさおちゃんは俺が責任をもって養います。」
俺は一気に話を飛躍させた。
彼女は相変わらず呆けたままだ。
「パチ屋を辞めたいなら辞めてもいいです。でも、就職間もない俺一人の稼ぎだけじゃ3人の生活を維持するのは難しいので、パートかバイトはしてください。」
一気に畳みかける俺。
彼女の中にだんだんとこみ上げるものがあったのか、俺を涙目で睨みつけて、
「・・・馬鹿にしてるんですか。からかわないでください。」
震えた声を発した。
俺は、その涙目を貫くように真剣に見つめた。
「あなたのすべてを受け入れると言っているんです。もう一度言います。好きです。」
なにやら、色々な感情が溢れてきたようで、彼女は泣き出してしまった。
さすがに喫茶店では周りの目が気まずくなってきたため、俺たちは店を出て歩き始めた。
どさくさに紛れて、右手で彼女の肩を抱き寄せる。
彼女はしきりに「私は汚れているの」、「軽蔑される女なの」と呟いていた。
ふいに俺の頭の中に、北斗の拳の名言が横切った。
「誰を愛そうがどんなに汚れようがかまわぬ。最後にこの俺の横におればよい!!」
かなりあやふやな記憶ではあったが、まさに言いえて妙すぎて、思わず失笑してしまいたくなってしまった。
しかし、彼女は俺の失笑に気づくことも、肩を抱いていることを気にすることもなかった。
自分の殻に引きこもろうとしていた。
俺は、今日のために積み重ねた努力を、今日の勝負にオールインすると決めていた。
回避されたらあとは死ぬのみ、という捨て身の一撃を放つのだ。
「あなたは汚れていないし、汚れていても俺には関係ない。それを証明することができます。」
俺は彼女の両肩を掴み、俺の目を見させた。
「俺は今日、あなたを抱きます。あなたがレイプされたとか、男が苦手とか関係ありません。もしも、俺の誠意に応えてくれるなら、俺を受け入れてください。」
彼女は肯定するでもなく、否定するでもなく、目を背けた。
つまり、あなたの自由にすればいい、ということだ。
我ながらズルいとは思った。
彼女が断れば、おそらく彼女が心を許していて、なおかつ、彼女に好意を寄せている唯一の男が、自分の前から去ってしまうのだ。
今の精神が衰弱した彼女に断れるはずがなかった。
さすがに、保育園のバイトと母親が、堂々とラブホテルに入るわけにはいかなかった。
しかし、この状況を予見していたのか(それともどこかで盗み見していたのか)、加藤先輩からメールが届いた。
『駅前に住んでる知り合いのアパートを空けてもらった。綺麗に使えよ。』
なんだ?あの人はエスパーなのか?
と勘繰ったが、ありがたい話には違いなかった。
彼女には延長保育の連絡をしてもらった。
たかだか2時間の猶予ではあるが、俺たちの未来を決める2時間だった。
シャワーを浴びている間に気が確かになったのか、彼女は急激に気恥ずかしさを感じているようだった。
顔も体も真っ赤である。
その様子に興奮した俺は、彼女の身体をむさぼり始めた。
しかし、何か違和感を感じた。
『怯えている?いや、違う。混乱してるんだ』
俺の直感がそのように告げていた。
よくよく考えてみれば、彼女はレイプ野郎に犯されたことしかなく、まともな男性経験などないのだ。
俺は、数々の重い事実に囚われるあまり、その点を見落としていた。
そう、彼女は4歳の子供はいるが、ほぼほぼ処女なのである。
俺は自分が楽しむことは後回しにして、とにかく彼女を快感へ導いてあげることを重視することにした。
彼女のその変化に気づいたらしく、
「五十嵐くんの好きにしていいよ。」
と言ってくれた。
その度に俺は、彼女が申し訳なく感じない程度に自分の気持ちよさを満たし、彼女が気が済んだタイミングで彼女の気持ち良さを引き出すことに専念した。
それについても彼女は気づいていたのだろう。
時間の経過とともに、彼女の心と体がどんどん開いていくのが明確に感じられた。
俺はものすごく心が満たされていった。
短い時間ではあったが、俺は何回も彼女を絶頂に導いた。
その度に、彼女は恥ずかしそうな表情をしていた。
「私はもういいから、五十嵐くんが気持ちよくなって。」
彼女は心底、俺が気持ちよくなることを望んでいたようだ。
俺だって、まだまだ彼女に気持ちよくなってもらいたいのだ。
「いっしょにイこう。」
「うん、いっしょに。」
慣れない彼女が本能的に腰を動かし、俺を刺激する。
そして、それは自分自身を刺激していることでもある。
そして、俺たちは同時に絶頂を迎えた。
彼女の4年間の呪いが解けたのが、俺たち2人にはわかった。
行為が終わった後、俺は何気なく頭によぎったことを彼女に聞いてみた。
「君のおじさんって今じゃ父親代わりなんでしょ。挨拶しなきゃいけないと思うんだけど、怖い人?」
何気なく聞いたことだったが、彼女は神妙な面持ちで俺を見つめてきた。
そして、
「パチンコ店の社長がどんな人か知らないの?反社会的勢力な人だよ。」
と言った。
さすがの俺もビビってしまった。
「うまくやっていけるかなあ・・・。」
と俺が言うと、
「冗談だよ。ただのちっちゃな会社の社長って感じだよ。」
といってクスクスと笑い始めた。
その笑顔を見て、彼女は完全に俺に落ち、俺も完全に彼女に落ちてしまったことを改めて痛感した。
それからしばらくして、俺は偶然、大学のキャンパスで加藤先輩と山口に遭遇した。
もちろん、あの日のことについては、言い表し切れないほどの謝意を伝えたし、呆れるほど高額な飯を奢らされることとなった。
友人への感謝は将来には持ち越さず、その日に清算するのが俺たちの流儀なのだ。
「で、最近サークルに顔出さなくなったけど、どうしてるの?」
山口が心配してるわけでもなく、なんとなくといった感じで聞いてきた。
「ああ、悪いな。彼女と子供との同棲を始めたんだ。親からの仕送りと彼女の稼ぎで生計を立てている『ヒモ』ってやつだ。」
あの後も、俺はみのりと子供のみさおに誠意を尽くし続けた。
まず、彼女の叔父に挨拶と婚約の報告をした。
彼女の言うとおり、叔父さんは零細企業の社長といった感じで、人のよさがにじみ出ている方だった。
しかし、帰り際にそっと、
「パチスロを嗜んでもらうのはうちとしてもありがたいけど、スロプロみたいな行為は慎んでね。真面目に稼ぐのが一番だよ。」
と釘を刺されてしまった。
どうやら、うちの大学のパチンカスサークルは、この付近のパチ屋の経営者に警戒されているようだった。
しかし、パチ屋の社長が言うことかねえ、と呆れてしまったのも事実だ。
どちらかというと、うちの両親に説明する方が骨が折れた。
なにせ、親元離れて大学に行かせていた息子が、就職よりも先に婚約の報告に来たのだ。
しかも、パチ屋勤務の彼女に4歳の子供である。
保育園のバイトをしている時に出会って恋に落ちた的な説明をしたが、とにかく彼女と子供を紹介しろと聞かなかった。
さすが俺の親だけあって、そこら辺は敏感だった。
しかし、実際に彼女と逢った途端、手のひらを返したように「息子をよろしくします。」などと言い出したのだ。
俺の趣向のドストライクであることを確信したとともに、両親の趣向のドストライクでもあったのだろう。
さすが、俺の親である。
「まあ、うまくやってて安心したよ。なにかあったら相談してくれ。」
そういって、加藤先輩と山口は去っていった。
俺一人の力では、パチ屋の女性店員と付き合うなんてことは絶対にできなかったと思う。
ヤリチンの加藤先輩と、パチ屋で隣に座った女性を彼女にした山口には、心から感謝をしている。