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第4話 罪

前話に加筆修正を行いました。

ご確認よろしくお願いいたします。

「……………」


 土と血の匂いが鼻腔を侵す。

 救えなかった人々の絶叫が鼓膜を揺らす。

 周囲に広がる地獄の光景に、フレンは唇を噛んだ。


 ヴェンダーの魔術が炸裂する直前、フレンは炎魔術で足元を爆発させた。

 即席の塹壕に潜り、さらに全身を魔力で覆う。

 咄嗟の機転で最適解の防御を行った。

 その甲斐あって、幾らか裂傷を負ったものの、致命傷に至らずに済んだ。


「……ごめんなさい」


 しかし、それは周囲の住民を見殺しにする選択でもあった。 

 万全のフレンなら、魔術を発動する前にヴェンダーを仕留めることができた。

 魔力滞留を気にして魔力消費を抑える戦い方を選んだ結果、鎌鼬斬刃嵐(シックル・ビースト)の発動を許してしまった。

 もし、拳銃から逃れるために距離をとっていなければ。

 もし、最初の炎龍百齧破(ラドーナ・バーン)が発動していれば。

 もし、魔力滞留の症状がなければ。

 誰も死なずに済んだ、かもしれない。


「──解放・焔・神炎の加護」


 ピキリと、強い頭痛が走る。

 その痛みは罰のように感じた。


「我、フレン=ゲヘナ=バーネリアスが命ず・其の魔性は紅・我より生じ・我が身に宿れ」


 痛みを受け入れ詠唱を続ける。

 フレンの足元に赤い魔法陣が発生。

 紅の光が全身を包む。


炎神焔蔓祝(プロメ・ブレステス)



 刹那、フレンの影が消失。

 次の瞬間には、ヴェンダーの眼前に迫っていた。



「なにッ!?」


 ヴェンダーの反応すら追い付かない神速の踏み込み。

 両者の距離20mを一瞬で縮めた。

 繰り出されるフレンの鉄拳。

 ゴウッと空気を削る音。

 ヴェンダーは咄嗟に風魔術で応戦する。


「ぐぉおッ!?」


 しかし、押し負けたのはヴェンダーだった。

 風の防御を相殺したフレンの拳が、ヴェンダーの胸に炸裂した。

 骨の砕ける音と感触。

 自身を睨むヴェンダーの瞳から、フレンは目をそらさない。

 そのまま剛腕を振り抜く。

 屋根から吹き飛ばされたヴェンダーは、フレンの視界から消えた。

 遅れて衝撃音と土煙が立ち上った。


「くはぁ………ッ!」


 膝をつき、荒く息を整えるフレン。

 頭痛が脳を激しく揺らす。

 全身から汗が滝のように流れている。

 熱を帯びた筋肉が悲鳴を上げている。

 打ち抜かれた脇腹が酷く痛む。


 『炎神焔蔓祝(プロメ・ブレステス)』。

 自身の肉体の温度を高め、身体能力を跳ね上げる高位炎魔術だ。

 魔力滞留の症状を押して、短期で決着をつけるために発動した。

 強化された脚力で地面を蹴り、強化された腕力でヴェンダーを殴り抜く。

 虚を突かれたヴェンダーは、地に沈んだ。


「頼むから……死んでいてよ……」


 汗をぬぐい立ち上がる。

 ボロ切れ同然になったスーツを脱ぎ捨てる。

 屋根の縁から飛び降りて着地。

 ヴェンダーが吹き飛んだ方角へ向かう。

 部下の復讐に燃えていた男の遺体を探して。


「…………」


 復讐。部下の復讐。

 自分が殺した者たちの恨みが惨状を生んだ。

 背後からは住民たちの悲鳴がいまだに聞こえる。

 彼らが恨むべきは、本当は、自分ではないのだろうか。

 歩みがおぼつかない。

 頭痛と懊悩に視界が歪む。

 窓に映るフレンの顔はひどく疲弊していた。 

 ため息が夜の街に溶ける。


 脇腹に触れる。

 シャツに滲んだ血が地面に点々と零れていた。

 魔力による自動回復が追い付いていないらしい。

 出血は落ち着いたが止まっていない。

 頭痛も止まらない。魔力の消耗も気になる。

 フレンは満身創痍に近かった。


「……いた」


 視界の端に人影が映った。

 壁にグッタリもとたれて項垂れる影。

 間違いない。ヴェンダーだ。

 これ以上の戦闘継続は難しい。

 早く死亡確認をしたかった。

 痛む体に鞭打ってヴェンダーに接近する。



ドスッ



「………は?」


 鈍い音に目を見開く。

 ジワリと、嫌な温もりが背中に広がる。

 背後に気配が2つ。いつ接近されたのか。

 

「無様だなぁ……ッ! えぇ!? 一級魔導士様よォッ!」


 耳元の怒声にハッとする。

 強引に地面蹴って距離を置いた瞬間、灼熱が背中に走った。


「がぁぁ……ッ!?」


 背中に手をやる。

 ベットリと血に濡れていた。

 尋常ではない出血量だった。

 脇腹の銃創など比ではない。


「よくも俺たちを馬鹿にしてくれたなぁッ! 死ねよクソ女ぁッ!」


 振り返ると、2人組の男がナイフを握って自分を睨んでいた。 

 ナイフは血に染まっている。フレンを刺したものだろう。

 どうやら二か所も刺されたらしい。


「アンタらは……」


 夜戦用のマントに身を包む男達。

 2人の顔に見覚えがあった。

 今朝ギルドの食堂に居合わせた、2人組の魔導士だ。


「復讐……ってわけか……」


 実のところ、フレンはその可能性を予想していた。

 魔力滞留は魔導士にとって絶大な弱点であり、その発症時期が外部に漏れることはない。

 しかしヴェンダーは、今夜フレンが魔力滞留を発症していることを知っていた。

 つまり、フレンの身近に内通者がいる。

 恐らく彼女に恨みを抱えている者。

 そこまで考えて思い当たったのは、その2人だった。


「ヴェンダーさんが声かけてくれてよぉ、お前を殺すために協力しないかってなぁッ!」


「恨みを買いすぎたのさ! 殺してやるぜ!」


 2人の魔導士は、仲間たちを八つ目の陸生巨獣(タンク)に殺された。

 その陸生巨獣(タンク)を討伐したフレンの何気ない一言を、どうやら彼らは死んだ仲間への侮辱と捉えたらしい。

 今朝はライラの機転で諍いが回避された。

 だからこそ、このタイミングを狙っていたのだろう。

 疲弊したフレンの意識から2人が消えるタイミングを。


「……そうだ。貴様は恨みを買いすぎた」

 

 聞き覚えのある声。

 ヴェンダーの声だ。


「貴様が重ねた罪が、貴様自身を殺すのだぁッ!」


 ヴェンダーの起き上がる動作はぎこちない。

 与えたダメージは確実に効いている。

 だが、2本の足で立っているヴェンダーと、立つことすらままならないフレン。

 勝敗は目に見えている。


炎衝(カノ)──ッ!?」


 遂に、フレンは膝から崩れ落ちた。足元の血溜まりに沈む。


「ぁ゛ぁぁぁあ……ッ!?」


 頭部に走った激痛に呻く。

 低位魔術すら使用できない。

 ヴェンダーの輪郭がぼやける。

 魔力滞留のせいだけではない。血を流しすぎたらしい。

 魔力による自動回復も追い付かない重症。

 頭痛と裂傷、全身の痛みで体の自由が利かない。


 詰みだ。


「死して贖えッ!鎌鼬斬刃嵐(シックル・ビースト)ォォオッ!! 」


「死ねぇぇぇぇえええッ! 風乱嵐(ヴァン)ッ!!」


貫風弾(バレッド)ォォオッ!」


 風の刃。風の奔流。風の弾丸。

 三者の殺意を帯びた風魔術の挟撃。

 フレンに抵抗する術はない。

 数秒後、その身は肉片と化すだろう。


「クソッ……」


 唯一動く思考が空回る。

 いったい、どこで選択を間違えた?

 無数の「もし」を並べても、答えは出ない。

 

 魔導士の世界は暴力と理論が全て。

 感情が介入しないからこそ、その生き方を選んだ、はずだった。

 そんな自分が『悪意』という人の感情に殺されるのは、なんという皮肉だろう。

 いつかそんな日が来る、そう分かっていたはずなのに。

 フレンの口元が意図せず吊り上がる。



 勢いはそのまま迫りくる殺意の風撃。

 フレンを飲み込み、その身を引き裂く。



武御雷剣舞(タケミカヅチ・エンブ)


 その未来は訪れなかった。

 突如飛来した無数の雷がフレンを囲むように降り注ぐ。

 風魔術の挟撃は雷に相殺され。消滅した。


「………ッ!?」


 雷が止んだ。

 煙を上げる足元の石畳。そこに佇む影が一つ。

 金髪をなびかせた、長身痩躯の美女。


「助けてあげようか? フレン」


「…………ライラ」

フレン=ゲヘナ=バーネリアス

・魔術適正:炎

・魔導等級:一級魔導士

・魔導器官:???

・魔力滞留:頭痛→???

・所属組織:ギルド『マグナゲート』

・異名:???

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