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第11話 悪夢

 ………………………………………………………………………………

 ………………………………………………………………………………

 ………………………………………………………………………………


「……」


 フレンの意識が、5年前、『E区事変』の夜から現代へ帰還する。

 シリウスが何かを呟いてからの記憶は無い。

 気づいた時にはバーネリアス邸の焼跡で朝日を迎えていた。


「なんで……」


 視界に炎の残影を感じる。

 呪いの言葉の残響を感じる。


『フレン、お前は罪そのものだ』


 それ以来会っていない『あの男』。

 忘れようと努めてきた『あの男』。

 それでも悪夢に現れる『あの男』。


 シリウス=バーネリアス。


 だが、なぜ今更?

 なぜ5年前ではなく?

 なぜ直接ではなく間接的に?

 なぜ?

 なぜ?

 なぜ?


 なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ?なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ?なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ?なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ?


「うぷッ!? 」


 込み上げてきたえずきを我慢できず、フレンはその場で嘔吐した。

 あれだけ美味しかったナポリタンは全て吐瀉物に変わってしまった。

 滲む視界に映る無残な汚物。

 周囲の狂騒も聞こえないまま、フレンは思考の海に沈む。


「───ン」


 シリウスが言う罪とは?

 バーネリアス家が何をした?

 十字に張り付けられた遺体には何か意味があったのか?

 『E区事変』は国家反逆罪を犯したバーネリアス家が中央政府に討伐された事件として報道された。

 だが、それは自分の記憶とあまりにかけ離れている。

 政府は何か隠しているのか?


「───レン」


 あの異形の化け物は?

 その姿は魔獣にも見えた。

 だが、魔導士になって5年経つが、あんな魔獣は見たこともない。

 なぜあの夜、あの屋敷にいた?


「───フレン」


 あの夜、なぜ自分は見逃された?

 明け方までに何があった?

 なぜ自分だけ生き残った?

 自分は生きていていいのか?

 罪人の自分が。

 自分だけ。

 自分だけ。

 なぜ?

 なぜ?

 なぜ?

 な───



「フレン」



「……ッ!!」



 淀んだ思考に落とされた落雷のような声。

 ハッとして顔を上げる。

 ライラが立っていた。

 いつも飄々としている相棒は、今まで見たことないほど悲壮な表情を浮かべていた。


「………帰る」


 震える身体を何とか動かし、立ち上がった。

 フラフラと出口のドアを開けて外に出る。

 ムッとした空気が心地悪い。

 水分を失って力の入らない身体を無理やり動かし、ライラを置いて宿舎へ向かう。


 誰の顔も見たくなかった。

 誰にも顔を見られたくなかった。


◇ ◆ ◇


お前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前は罪そのものだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだ






お前のせいで、みんな死んだ



お前は罪人だ





◇ ◆ ◇


「─── あ゛ぁぁぁああ゛ッ!」

 

 脳髄を揺らす言葉に、フレンは飛び起きた。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 もう何度見たかも覚えていない悪夢。

 フレンの精神の根本から蝕む呪詛。

 夢から醒めてもその言葉は消えない。

 自分は今も、悪夢の中にいる。


「………あの夜と同じ、か」


 立ち上がる気力もなく、再びベッドに背中を預けた。

 頭痛がする。

 魔力滞留ではない。

 昼間の嘔吐のせいで水分不足らしい。

 意図せずヴェンダーと戦闘した夜を思い出してしまった。


 天井の染みを数えながら意識を鎮める。

 幾分か動悸と震えが落ち着いた。

 慎重に記憶をたどり、ライラの話を整理する。


 昨日のヴェンダーたちとの戦闘。

 裏からその糸を引いていたのは、シリウス。

 目的は自分(フレン)の抹殺で間違いないだろう。

 それに失敗したため、今度は大量の依頼を出して自分を誘い出そうとしている。


「依頼…か…」


 最善手はそれを無視すること。

 そして即刻『マグナゲート』を去る事こと。

 シリウスは自分の所在を把握している。

 これ以上命を狙われる前に、周囲に被害が広がる前に、自分の居場所を去る。

 それが最善手だろう。


「……どこに?」


 己に問う。

 自分がギルドを去って、何ができる?

 バーネリアス家では魔術のことしか学んでこなかった。

 それ以外の知識など皆無。

 よりによってこの不景気なご時世だ。

 魔術しかできない自分に、働き口などないだろう。


「それも…分かってるのかな…」


 血の繋がる者だからこそ、傍で見てきたからこそ、実兄(シリウス)には分かるのだろう。

 フレン=ゲヘナ=バーネリアスは、魔導士にしかなれない。

 それを知って今回のような行動に出たのだろう。


「……」


 再び天井を見つめる。

 いつもより低い天井。

 圧迫感と閉塞感に胸を潰されそうな錯覚を覚える。

 八方塞がり。

 どう動いても事態は好転しないだろう。

 シリウスの掌の上で転がされている。

 逃げても逃げても逃れられない。


『魔導士は無力ね』


 あの夜のライラの言葉を思い出す。

 魔導士は、自分は無力だ。

 自分の罪を否定するために、罰をねじ伏せるために戦ってきた。 

 だが、無尽の悪意を前に、今の自分の魔術はあまりに無力だ。

 それはどこまでも自分を追ってくる。

 己の罪を罰するために、地の果てまで追ってくる。

 因果に縛られ、魔術の代償に体を蝕まれ。

 傷つき、苦しみ。涙を、血を流し、死ぬ。

 自分1人では何もできない。

 自分1人では───



「やっ」



「ひゃぁあっ!?」


 にゅっと、窓から首が伸びている。

 狐のような笑みを浮かべる金髪の女。


「……ライラ、人の家は窓から入れとでも教わったの?」


「フレンの家は窓から入っていい法律でしょ?」


 驚きから動悸の治まらないフレン。

 それを無視するように、ライラは窓から部屋に入ってくる。

 どうせ止めても入ってくるのだろう。


「……土足厳禁」


「えー? せっかくお見舞いに来たのに」


「…頼んでないし」


「はいはい」


 丁寧に靴を脱ぎ、宿舎の外の壁に貼り付けている。

 静電気で固定しているのだ。

 2階にあるフレンの部屋に入ったのも同じ要領だろう。


 無遠慮に部屋に上がり、我がもの顔で椅子に腰かけるライラ。

 座る様はどこか

 羨ましいな。そんなことを思う。

 ライラの図太い神経が羨ましい。

 ライラの楽観的な性格が羨ましい。

 ライラの強さが、羨ましい。


「…ライラ。アンタはなんのために戦ってるの?」


 なぜそんなことを聞いたのか、フレンにも分からない。

 だが、聞かずにはいられなかった。


「どうしたの? 急に」


 狐につままれたような表情のライラ。

 フレンは続ける。


「4年以上バディを組んでるけど、未だにアンタのことが分からない。アンタが戦う理由も、私とバディを組んでだ理由も、組み続けてる理由も」


 『アンタ強いんだよね? 私と組んでよ』

 始まりは唐突な一言から始まった。

 一級魔導士に昇格してすぐ、ライラは自分の依頼にフレンを誘った。

 その後はほとんど成り行き。いつの間にかバディになっていた、というのが正しいところだろう。


「戦う理由かー。昔はあった気がするけど、今は正直生きてくだけで精一杯だし、考える暇もないなー」


 紫の瞳が天井に向く。

 その目にはどんな景色が写っていいるのだろうか。


「アンタとバディを組んでる理由なんて、戦う時に背中任せられる以外ないでしょ? 私が範囲攻撃、アンタが局所攻撃。それが性に合ってて楽だから、くらいよ」


「…それはいつも聞いてる」


 ただ、その点はフレンも同意見だった。

 フレンとライラを繋いでいるのは友情や親愛ではない。

 互いの戦力を補える力量と、その関係の楽さだった。

 一匹狼のフレンは群れることを好まない。

 気分屋のライラは友情ごっこを好まない。

 ライラはフレンが死んでも泣かない。その逆も然り。

 煩わしい感情に振り回されない共闘関係が築けたから組んでいる。ただそれだけ。


「……まぁ、〈禍風(まがつかぜ)〉から生き残ったし、もう1つの理由も言っていいかな」


 フレンすら忘れていた約束だった。

 思わずライラの話に傾聴する


「もう一つは、アンタが面白いから」


「…………バカにしてる?」


 フレンは訝しげにライラを見つめる。

 違う違うと手を振り、ライラは返した。


「今まで色んな魔導師を見てきたけどさ、どいつもこいつも、つまんない奴ばっかだったのよね。引きこもりの〈叢林〉、戦闘中毒の〈武神〉、会話できない〈夜叉〉…全員ロクでもないじゃない?」


 『マグナゲート』の一級魔導士3人を引き合いに出し、「つまんない」と断じるライラ。

 一級魔導士は我の強い者が多く、尊敬と同時に疎まれる存在でもある。


「救えない命、自分の無力さ。そういうのを考えることを放棄した連中ばっかり。強さに溺れて危機感がないから成長もない。どこまでも愚かで面白みがないわよね。私も含めて」


 その無神経さこそが強さとフレンは思っていた。

 だが、ライラをそれを否定する。


「初めて見たのよ。アンタみたいに、罪と罰から逃げなかった一級魔導士。それで苦しい思いをしても、アンタは逃げない。罪と罰に強さで向き合うことをやめない。だから、フレンに興味が湧いたの。強くなってくアンタの、進む先を見てみたいって」


 その神経質さこそが強さだとライラは言う。

 罪と罰に向き合う姿勢がフレンの強さを生むと。


 知らなかった。

 ライラがそこまで自分を見ていると。

 他人に無関心な隣人と思っていたが、存外そうでもないらしい。

 あらしいライラの一面を見て、フレンは、


「…………きしょ」


「はぁ!?」


 思わず罵倒の言葉が漏れた。


「そんなにジロジロ私の事見てたの? それで、そんなことまで考えてたの? ……きしょ」


 引き気味の表情で鳥肌を抑えるフレン。

 

「ひっどいなー。折角答えてあげたのに」


 ふくれっ面でそっぽを向くライラ。

 その仕草にイラッとしつつ、しかし、フレンは彼女の言葉がスっと胸に入ったのを感じた。


「……で、アンタはどうするの?」


 その言葉が問う選択。

 フレンは、過去の因果(シリウス)とどう向き合うのか。


「…………分からない」


 それが、正直な意見だった。


「何をしても読まれてそうで…何をしても裏目に出そうで…正直怖い」


 フレンの気弱な発言を、ライラは静かに聞き入れる。


「だけど…逃げたくない」


 俯いていたフレンの瞳に光が宿る。


「『あの男』に会わないと。私の罪、バーネリアス家の罪、『あの男』の罪。全部知りたい」


「きっと辛いわよ」


 それは、苦しみの道かもしれない。

 

「それでも、『あの男』の言葉を聞かないと、私は先に進めない。私が罪人なのかも、何の罪なのかも、まだ聞けてないんだ」


 5年間、フレンは得体の知れない罪を着せられている。

 その罪状を知らなければ、清算の余地すらない。


「私のために、私は、『あの男』から逃げたくない。私の実力じゃ、届かないかもしれない…。1人じゃ何もできないかもしれない…。それでも」


 フレンの赤い瞳が、ライラを捉える。


「アンタとなら、何とかなるかも知れない」


 強気に笑い返すフレン。

 そこに哀れな少女の面影はない。

 戦場で魔術と魂を磨いた一級魔導士の姿。


「……で、私がそれを断ったらどうするの?」


 意地悪な笑みを浮かべるライラ。

 フレンの因果はあくまで」フレンの問題。

 それにライラが協力する理由はない。


「ライラ。『あの男』は1人だと思う?」


 しかし、そんなことは百も承知。


「ヴェンダーの日記が本当なら、『あの男』は何かの組織に属してる。恐らくは外法魔導士集団。それも『カラミティ・ゲイル』以上の規模の」


 ライラのがめつさはよく知っている。

 だからこそ、交渉材料は一つ。


「ライラ、『あの男』を倒して貰える報奨金、欲しくないの?」


「……へぇ?」


 ライラの紫の瞳に光が宿る。


「アンタが協力するなら報奨金は全部あげる。魔獣石(コア)の借金もあの日の保釈金も、全部返してもお釣りが返ってくる額かもね」


 取引の極意はライラから学んだ。

 交渉材料と自分の利用価値を示し、相手の利益と合致させる。


「珍しいわね。そんな取引を持ち掛けるなんて」


「アンタの言う『社会性』、私も学んでみようと思っただけ」


 不敵に笑い、向かい合う2人。

 バディで取引するというは何ともおかしな話だ。

 だが、2人を繋いでいるのは友情や親愛ではない。

 利害の一致。その一点のみ。

 そんな関係が、2人にとって心地よいのだから。


「いいわ。その取引、受けてあげる」


 協力を欲するフレン。

 興味と財布を満たしたいライラ。

 2人の利害は一致した。


「ま、これから大変になるから、利息は待ってあげる。その代わり、報奨金は耳そろえて頂くわ♡」


 魔獣石(コア)の利息の件を忘れないライラ。 

 そんな底なしのがめつさに苦笑する。


「がっかりさせないで頂戴、フレン。因果と向き合ったアンタがどうなるか、私は見てるわよ」


 取り出した煙草の先でフレンを指す。

 『あの男』と向き合った先、自分がどうなるか分からない。

 それでも、別の生き方を見つける『いつか』に向かうために、戦わなければならない。

 覚悟を胸に、フレンはベッドから降りた。


「……ライラ、禁煙」


 相棒の煙草を取り上げるために。


「えー? 協力してあげるのに?」


「それはそれ、これはこれ」


 協力者だろうと弱腰になる気はない。

 不服そうなライラに笑う。

 煙草は窓から捨てた。

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