十二番星 それぞれの思い⑥
「はい。命がけで儀式の手助けをしてくれた方に対して沈黙を貫くのは、あまりにも不義理であると、陛下は仰せでございました。ましてその方は、御自身の友人であるトウコ様の御息女ですからね。……ああ。それと、もう一つお伝えすることが。儀式に、アルズ=アルムの者が手を貸してはいけないのには、理由がありましてね。それは他星の住人である地球人とコミュニケーションを取り、力を貸していただくのも儀式の目的の一つだからです。他星の方と友になれぬようでは、王としての資質を疑われますからね。実は儀式の際、王子や王女が降り立つ場所はエウペ・ダゥ、いや白光装置に仕掛けを施しておりまして。王子王女と年齢の近い者がいる場所を選び、ワープさせているのです。その者には白光装置の放つ、認識阻害の術が効かぬよう、装置を調整して。現に陛下も殿下も白光装置の影響下にない人物、トウコ様とツキハ様に都合よくエンカウントして、力をお貸しいただいたのでしょう?」
「……え?」
わたしとイルの声が重なった。
イルも知らなかったらしく、レイトさんに詰め寄っている。
「それは……初耳であるぞ。レイト」
「予め申し上げては、試練になりませんしね。考えてもみて下さい。他星の方から力をお借りすることが禁止されているのなら、陛下は玉座に就くことなど出来なかったはずでしょう? トウコ様がいらっしゃらなければ、儀式は成功しなかったのですし。それは、殿下もですが」
確かに非常事態とはいえ、わたしは儀式に手を貸した。
そのことについて、女王様は咎めるどころか感謝していた。
イルを見る。するとイルは難しい顔で、何かを考えてるようだった。
そんなわたしたちをよそに、レイトさんは続ける。
「そして、こうも申されておりました。ツキハ様」
レイトさんはわたしに対し、両膝と両手をついて土下座した。
「危険な目に遭わせ申し訳ありません。そして改めて、息子を助けてくれてありがとう、と」
「あ、頭を上げて下さい、レイトさん! その、お母さんが自分の子どもに対してすることにしては、ずい分容赦ないっていうか……正直、ビックリはしましたけど。でもヴァリマのことについては、イルもカァも知っていたんですよね?」
それなら、わたしが怒ることじゃない気がする。
それに何となくだけど、イルのお母さんはイルを信じていたからこそ、あんなことが出来たんだと思う。
話したのはほんの少しだけど、今のレイトさんの言葉からしても、イルのお母さんはちゃんとイルのことを思ってるって……そう、感じたから。
「陛下の御考えを、従者の自分が推し測るのは度を越えたことかも知れません。ですが、自分としては」
レイトさんは頭を上げ、わたしをまっすぐ見る。
「御自分のお子であられる、イルヴァイタス王子殿下と初めてエンカウントしたのがあなたで良かったと……そうお思いになられてることは、確かだと思います。そして僭越ながら、自分からもお礼申し上げます。殿下を助けていただき……そしてエィラを渡すように言った自分を信じていただき、ありがとうございます。ツキハ様」
レイトさんは今度は土下座じゃなく、わたしに目線を合わせてから、深々と頭を下げた。
「……いえ。あの夜があったから、わたしはイルやカァと仲良くなれたのかも知れませんし。それにレイトさんのことを信じられたのは、イルがあなたのことを一番の味方で理解者だって言っていたからです。ね? イル」
そう言っていた本人に問いかけると、イルは顔を真っ赤にして、まくし立てた。
「べ、別にレイトだけが味方とは言っておらん! 第一だな、こやつは慇懃無礼というか、当に対してどうかと思うときがあると申したであろう!?」
「ふむ。そこまで御信頼いただくとは……臣下としてこれに勝る喜びはありませぬ。殿下」
「やかましいわ!」
レイトさんがからかうような口調で言うと、イルはぷいっと、そっぽを向いてしまった。
インギンブレイって言葉はわからないけど、確かにレイトさんはイルに対しては、丁寧なんだけど、気安い口調のような気がする。
まるで、兄弟みたい。
「それよりレイトよ!」
イルがケーキの乗ったお皿を、レイトさんの前に突きつけた。
「このケーキ。表面や中身は不格好なのに、断面はやたら鮮やかであるな? 切ったのは汝であろう? つまり、他にもケーキはあるのではないか?」
「さすがは殿下。確かにそのケーキはピースではなく、ホールでお預かりしました。ですが、皆様ご満腹とのことなので、殿下にだけお持ちしたのです」
それを聞いたわたしは手を挙げ、レイトさんに言う。
「あの……レイトさん。わたし、ケーキくらいなら食べられますよ。イルのお祝いに、わたしも参加したいし」
「……ツキハ」
「そうね。甘い物は別腹っていうし。ね? 明くん。父さんと母さんも食べられるでしょ?」
「まあ、ケーキの一切れくらいならな。母さんと明くんは?」
おじいちゃんの言葉におばあちゃんが頷き、パパもはい、と答えた。
「承知しました。では、しばしお待ちを」
台所に向かうレイトさんの背を、待て、とイルが呼び止める。
振り返ったレイトさんに対し、イルがちょっと赤い顔で呟くように言った。
「その……レイト。汝も相伴するのだぞ。何しろ汝は、当の一番の……従者なのだからな」
レイトさんはにっこり笑い、承知致しました、と言って台所に消えていった。
その後ろ姿を見送ると、パパがわたしのほうに向き直り、ちょっと怒った顔で言ってきた。
「ところで月花。イルくんの手助けをしたのはいいとして、危険な目って。一体、どんなことをしたんだい?」
「……あ。えーっと……」
そういえばパパに買って貰った傘を壊しちゃったことも、言ってなかった。
困っていると、レイトさんが片手にホールケーキ、もう片手には重ねたお皿にフォークと、カット用のナイフを乗せて戻って来た。
「アキラ様。それは、ケーキを御賞味いただきながらということで。殿下から全て、ご説明いただけることと思いますので」
「なっ……いや確かに、責任は当にあるが! しかしレイトよ。王子に丸投げとは、いい度胸であるな!?」
「お褒めに預かり、恐縮です。殿下」
レイトさんがケーキにナイフを入れながら、涼しい顔で言う。
「褒めとらんわ!」
「まあまあ、イル。パパも」
レイトさんが取り分けてくれたケーキを手に、二人をなだめる。
「わたしからも、ちゃんと説明するから。……謝らなきゃいけないこともあるし」
怪訝な顔をするパパに、ちょっと笑ってみせた。
レイトさんがケーキをお皿に移し、みんなに渡してくれる。
そしてレイトさんは次に、飲みものとグラスを持ってきてくれた。大人たちにはシャンパン、わたしとイルにはジュースを注いでくれる。
そういえば、レイトさんの正確な年は知らないけど、アルズ=アルムでは成人なんだろう。
だからシャンパン……お酒なのかと思っていると、レイトさんは職務中ですので、と言ってジュースを選んでいた。
とにかく、みんなに飲み物が行き渡ったか確認していると、ママがわたしを肘で突ついてきた。
パパも頷く。
……えっと、音頭? を取れってことだよね。多分。
わたしはグラスを顔の高さまで上げて、口を開いた。
「イル。今さらだけど、儀式の成功おめでとう! それと……」
お母さんとも仲直り出来て良かった、と言おうとしたけど……別に、仲違いしてたわけじゃなかったんだった。
ただちょっと、話し合う機会がなかっただけで。
それは、お姉さんであるカァにも対してもそうだけど……王政? がなくなったら、カァとももっと話が出来るようになるんだろうか。
……そうだったらいいな、と思う。
アルズ・アルムが民主制になることで、イルたちにどんな変化をもたらすかはわからない。
でもイルのお母さん、女王様は、王家の人間ということでイルやカァに不自由を感じさせたくなかったんだろう。
もちろん、それだけが民主制に梶を切った理由じゃないんだろうけど。
わたしはここで祈ることだけしか出来ないけど……みんなが笑って暮らせるアルズ=アルムになって欲しい。
そしていつか、地球とアルズ=アルムの人たちが友達になれる星にもなって欲しい。
女王様がそう、願ったように。
だから今は、大きな声で、一番の願いを声にする。
「──これからのアルズ=アルムが、もっと良い星になりますように! 乾杯!!」
「──乾杯!!」
ちぃん! と、みんながグラスをぶつけあう音が響き渡った。




