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技術敵特異点  作者: F!rsted
1章 〜始発点〜
2/6

始まり

淡い太陽の光で千秋は目を覚ました。今日は少し寒い冬の日だった。

千秋には家がなく、人気の少ない山奥にある小屋で過ごすほかなかった。

誰が作ったのかも、誰が住んでいたのかも知らない。

だが、小汚いベッドがあるだけで、千秋にとっては家だった。

白息吹を吐きながら、千秋は木製のドアを開く。

澄んだひんやりとした空気が体を吹き抜け、小屋の中へと吹き込んだ。

木々はまだ目覚めていないように、暗い緑の葉っぱを揺らしている。

早朝の雰囲気だった。

千秋は近くの小川まで行き、体を洗った。

風呂もなければ洗濯機もない。だからといって異臭には耐えられなかった。

千秋は、衣服ごと川へ飛び込んだ。

大きい水飛沫が出たと思うと、すぐに千秋の体は泡に包まれた。

誰もいないので、水の中で散々暴れ回ってから、陸まであがり小屋へ走って帰った。

小屋は早朝の寒い風を遮ってくれる。風邪をひくのだけは避けたかった。

そして、日が昇るのを待ちながら、千秋はまた眠りについた。



淡い空ははっきりとした暖色に変わり、気温も少し暖かくなった。

千秋は青黒く光った剣を鞘に収め、麓へと降りていった。

1000年も昔は、都会?と言われていたこの場所も、今では案の定、人の気配は無い。

錆び付いたビル街は、千秋を見下ろすかのように(そび)え立っている。

未だに古血の匂いが染み付いたこの場所は、立っているだけでも目眩がする程だった。

後ろから声が聞こえたのは、街に着いてから10分ほどたった時だった。


「おい、そこの黒髪。お前人間か?」


千秋は素早く振り返る。そこには、ガスマスクをつけたパサついた髪の男がいた。


「そうだ」


できるだけ短い言葉で返す。

この世界ではいつ死ぬか分からない。個人情報を伝える時も油断はできないのだ。


「生き残りがいることは非常に素晴らしい。どうか俺に着いてきて欲しい」


男からの言葉に、千秋は疑いの目を向ける。

男は焦って言葉を繕う。


「俺の言葉が信用出来ないのも無理はねぇ。でもお前みたいな若い衆が1人で歩いてたらほっとけなくてよ。どうせ身よりもないなら着いてきてくれねぇか」


「...」


千秋は口ごもる。確かに千秋には身よりはない。でも、この世界の人間はすぐに信用してはならない。でも、千秋自身も人恋しいかった。ずっとひとりで生きるくらいなら、この男に騙された気分でついて行くのも悪くないかもしれない、と千秋は感じた。


「わかった。ついて行こう」


「そうか。決してハグれないようにな。長旅では無いが色々とめんどくさくなる」


男は背を向けて歩き出した。

千秋は、少し距離をとって男の背中を追った。

男は軽口をたたいていたが、千秋はだんまりとしていた。

10分ほど歩みを進めると、廃病院のような場所が見えた。

いかにも、昔の人達なら好みそうな場所だった。


「俺らの拠点はここだ。そこそこ人はいるぞ」


男は呟きながら入口をくぐる。

そして、一室の扉を開けた。


「へへへへへ!私の勝ちー!」


「はぁ!?イカサマだろ!」


「そう声を張るな。隊長が帰ってきているのに気づかないのか」


知的な人間の声に、2人の人間は、はっとし、すぐに隊長の方へ向き直った。


「隊長!すみません。ババ抜きが楽しすぎたもんで」


猫のような耳が生えた少女が言い訳をする。

隊長は苦笑いしながら返した。


「ああそうか。でも周りにはもっと気を配ろうな」


少女は「ひゃい!」と舌足らずな返事をした。

少女以外の3人は、隊長よりも、後ろの千秋に興味を抱いていた。


「後ろの少年は?」


メガネをかけた男が隊長に尋ねた。


「近くの都会にいた人間だ。名前は...?」


「千秋です」


「へぇー千秋くんかぁ。よろしく」


橙色で染められた髪をした男はゆるく答える。


「千秋くんも知らないこと多いだろうから自己紹介からしよう」


「ありがとうございます。あと千秋でいいですよ」


隊長は短く返事を返すと、自己紹介を始めた。


「俺はフレン。この集まりの隊長をはっている。よろしく頼む」


フレンは、胸を張って言う。


「私はエフィリス。猫耳が生えてるのは生まれつき!よろしくね!」


エフィリスは桃色の耳をぴくぴくさせる。


「あー次は俺ね。俺はマイリス。ゆるくやってまーす」


マイリスは橙色の髪をいじりながら、どうでもよさそうに言う。


「俺はダクター。以上だ」


ダクターは冷酷な雰囲気を醸し出した。


「ところでところで、君の自己紹介は!?」


エフィリスは迫り寄って質問する。


「あ...ああ、俺の名前は千秋。AIを殺すために生きてます」


「いいねー君みたいな人好きだよ俺」


マイリスはにやにやと笑いながら言った。

明るい空気で包まれた空間は、フレンの真剣な声色によって切り裂れた。


「この集まりについて説明しよう。俺らは寄せ集め、で集まったメンバーだ。AIを殺す活動と、人間を保護する活動をしている」


「そうなのか。最終目標とかはあるのか?」


「ああ。渋谷のAI占領を解くのが1番だな。だが、そんなに簡単じゃない。だから、ここで実力をつけているんだ」


フレンの言葉に千秋は頷く。


「そういえば俺だけ源氏名だよな。皆はどうして横文字の名前なんだ」


「あだ名みたいなもんだよ。俺だって本名はフレンじゃないさ」


「私もエフィリスってみんなに決めてもらったんだー!」


「俺は自分で決めたなー」


「同じくだ。人から付けられた名前なんてごめんだ」


フレンは少し時間を置いて、千秋に話しかけた。


「千秋にもあだ名を与えよう。何がいい?」


一番最初に声を上げたのはエフィリスだった。


「秋...だから『フォール』とかどう?」


マイリスはいじるように意見を出す。


「いやいや千のほうでしょ。『サウザンド』だって」


「ならまとめて『フォード』でいいじゃないか」


ダクターの言葉を千秋は渋々承諾した。


「じゃあ改めて『フォード』!よろしく!」


エフィリスは、満面の笑みでそう言った。

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