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燕雀いずくんぞ

【前書き】


燕雀(えんじゃく)(いずく)んぞ鴻鵠(こうこく)(こころざし)()らんや


『直訳』小さな鳥には大きな鳥の志は理解出来ない。


『意味』小人物には大人物の考えや志が分からない、という喩え。

田穂はとにかく感心しながら聞き入っている。二人とも話が熱中する余り、かなり田穂にとっては高尚過ぎる生き様や信念にまで話が及んでいる。


田穂は秦縁と付き合う中で、耳を澄ましてじっと聞き入る事を学んでいたので、ここでもそれを遵守して聞き手に回っていた。


しかしながら話が河川整備に及ぶまでの話は、彼にとっては難しくけして良く理解出来たとは言い難かった。


ただ一点…彼にも考えさせられる事があった。それは秦縁が問い掛けた点にある。


『(ღ`⌓´٥)果たしてあっしなら他国の民に手を差し伸べただろうか?』


自分と太子様では立場が違う。それは田穂にも判っている。将来国を背負って決断をしなければ為らない若君とその配下に過ぎない自分とでは立場には大きな隔たりがある。


但し、"人として"という(くく)りを設けた場合、話は違って来る。彼はそれでも若君の決断には舌を巻いていた。そして躊躇無くそれが出来る若君に気持ちを重ねていた。


『(ღ`ー´*)だからこそ皆が着いて行くのだ…』


彼は改めてそう感じていたのである。


『(ღ`ー´٥)あっしも自分なりにこれからの事をもっと真険に考えなければいけないな…せっかくのお手本となる人達がいるのだ。そして幸いにもその人達はあっしを大切に感じてくれている。あっしもそれに答えなきゃ成りませんな!』


田穂はそう感じていたのである。だからこそ、この二人の言葉の応酬を可能な限り聞き逃すまいと、引き続き耳を傾けていたのであった。


けれども、その話しが労働力の提供に対価を支払うという構想に及ぶにつけ、彼はぶったまげてしまった。元々この中華では権力者が事業を行う場合には民を徴発して労働させる事が普通に行われて来た。


食事こそ提供されるものの、それはけっして栄養価の高いものでも無く、睡眠は取らせて貰えるものの、それは雑魚寝するのが関の山くらいのもんである。待遇面ではけして良いものでは無く、粗末でさえあった。


下手をすれば疫病ですら蔓延しかねない程度の辛いものであったのだろう。それを賃金を出す。住まいを提供する。しっかりと根を張り、毎日の労働に意欲を見出だし将来の糧が出来るようにしてくれるというのだ。


田穂などは幸いな事に機会に恵まれ、この仁徳のある御方にお仕えする事が出来た訳だが、そうでなければ未だ山賊に毛の生えた程度の俗人に過ぎなかった訳で、この呼び掛けに応ずるひとりとなっていたかも知れないのである。


けして他人事ではなかったのだ。


『(ღ`ー´*)何という慈悲深い構想なのだろう…有り難い事だ。けど資金繰りは大丈夫なのかな?』


ふとそんな気持ちになった時である。いみじくも秦縁は同じ言葉を口にしたのであった。


「劉禅君!(ღ❛ ᗜ ❛´๑)貴方の構想そのものは先進的でとても洗練されたものと言えよう♪けれどその資金はどこから捻出されるおつもりかな?元手が無ければ、これ全て絵に描いた餅だと想うのだが?」


「えぇ…(๐•̆ ·̭ •̆๐)そうです。実のところそこが一番のネックと言えましょう。僕の今一番の弱点は構想を実現させる資金を独目に産めない事です。未熟である事は認識しています…」


「…構想だけでは世の中はけっして動きませんからね!でも諦めてはいませんし、着々と予定は進めております。策定計画も現在、実施のための現地検分にまで及んでいます…」


「…そして我が国の国庫を使い実施に入るための打ち合わせを近々この荊州にて諸葛丞相と行う予定なのです!」


「成る程…⁽⁽(ღ❛ ᗜ ❛´๑)それならば着手は可能でしょうな!まぁぶっちゃけ俺は部外者ですからな♪余計なお世話でしょうが、果たして御身の国の財政が持つかどうかは甚だ心配でしょうな?本来運河などというものは、天下統一を果たした王朝が着守すべき案件です…」


「…現状で言えば魏国ならば可能かも知れませんが、益州とこの荊州を合わせたとしても、州の予算くらいでは恐らく難しいのでは無いかな?まぁ他に何か手立てがあるなら別ですがね?如何かな…」


「えぇ…(๐•̆ ·̭ •̆๐٥)それも判っています。現状、魏に倣って屯田制策も進めておりますが、それも将来に対しての備えに過ぎません。但し天下の事業ほどの規模の事を為し遂げようという気も無いのです…」


「…御存知かどうかは判りませんが、僕はその道のエキスパートにこの地を徹底的に調べさせています。すると想いの他、河川が入り組んでいる事も判りました…」


「…では何ゆえ氾濫に繋がるのかというと、どうもそれぞれの河筋が勝手気儘に引かれており、全体としての連動性が無い事が判って来ました。そして長江や漢江の氾濫を抑える機能も果たしているとは言えません…」


「…ですから、河川整備としては、全体のバランスを考慮し、氾濫を抑えるために必要な水路を各河川に満遍(まんべん)なく流す手立てを取る事がひとつ…」


「…そして南海に到るまでの航路も、現状の河川を繋ぎ合わせる事で達成出来れば、全く無い所にいちから河を掘るよりも手間も懸かりませんし、経費も抑えられると言うものでしょう…」


「…確かに遠い将来の事を(かんが)みれば、立派なものを造るに(やぶさ)かでは無いのでしょうが、僕らは今、生きている人々に対して寄与する事を第一と考えています…」


「…遠き将来の事はもっと器の大きい(しか)るべき人材に任せれば良ろしい。僕は自分が大きく手を広げた時に、自分の身に余る事までは、とても出来ません…」


「…身の丈に合った小予算による工事計画を推進するつもりです。それでも、まだまだ資金繰りは苦しいのですがね!こればかりは走りながら考える事に成るでしょうね…」


北斗ちゃんの説明は多岐に渡った。秦縁も想わず溜め息を漏らす。田穂はそんな二人を固唾(かたず)を飲んで見守っていた。


「(๐•̆ ·̭ •̆๐)どう想われます?」


北斗ちゃんは不意にそう尋ねた。第三者としての彼の意見が聞きたかったのかも知れない


「そうですな…(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈ考え方としては決して悪く無いでしょうな!ですが、全ての点について言える事は、この荊州が御身の領内だけでは無いという事。そして南海に出るためには、交州という障害が御座る…」


「…そしてその交州では既に海洋交易が行われている。なかなかのハードルを越えて行かねばなりませんな!外交交渉に長けた者が必要不可欠となりましょう♪その準備はしておられるのかな?」


秦縁のこの言葉に対してはどうやら準備があるらしく、すぐに北斗ちゃんは反応を示した。


「えぇ…(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾それは劉巴にやらせるつもりでおります!ほら、貴方も会っているでしょう?」


「ああ!⁽⁽(ღ❛ ᗜ ❛´๑)」


秦縁はその言葉で始めて事の次第が掴めた気がしていた。


『成る程…(´°ᗜ°)✧あいつか?そう言われてみれば、どこぞで会った気がしていたが、かなり控え目にしていたから失念していたな!あいつには交州太守・士燮(ししょう)のところで会って居たのだな。そうか…』


『…あいつが今やこの若君の胸中に居るとはな!とんだ切り札を手に入れたものだ。となると、もしかすると、やり遂げるかも知れんな!これは他人事とは言え、甚だ面白くなって来たかも知れない…』


『…でもまだ、ちょっとばかり弱い気がするな?そうだ!ここはひとつこいつに貸しを作っておくと依り面白くなるかも!』


秦縁もこうなって来ると、大商人としての血が騒ぐ。ひとつ提案してみるのも、将来の利鞘に繋がるのではないかと想い至ったのである。


彼は然り気無く口をついた。


「(ღ❛ ᗜ ❛´๑)あんたの計画は実に面白いな…俺は感銘を受けたよ!そこでこれは提案だが、この俺もその計画に一口乗せては貰えまいか?俺は商人だから、賃金が出るなら労働力を提供したいという人達をどんどん送り込んでやる事も出来るし、食事や物品などの流通も請け負う事が可能だ…」


「…そして何よりあんたが気に入った。あんたの将来性に対しての貸し付けをしてやっても良い。どうせやるのだ。我らが破綻しない程度の端金(はしたがね)なら、すぐにでも準備してやろう。受けるも受けないもあんたの度量次第だ…」


「…悪いが、俺がここまで譲歩する事は滅多に無い事だ。否、皆無と言っても良いくらいだね!俺は割としまり屋なんでね♪後はあんたの裁下に委ねよう。どうする?」


秦縁は悪戯っ子の様な笑みを浮かべながら、劉禅君を見つめた。一方の北斗ちゃんは、突然の申し出に面喰らっていた。


昨日までは会った事すら無いこの自分を信用して、巨額の投資をしてくれるばかりか、その手伝いまでしようというのである。すぐに反応出来なくても当然であった。


でもそれと同時に、この機会を逃せば、こんな凄い提案は二度と受けられない事も判っていた。それでも彼はこの言葉にすぐに返事する事は出来なかった。


この秦縁という人物を信頼する事と、援助を受ける事とはまた別の問題であると認識していたからだった。何しろ、国の命運を賭けての大事業となるのである。


たったひとつ、ほんの些細な(ほころ)びも、やがては全体の失陥に繋がる事もあるのだから、ここは慎重を期す必要があったのである。


「(*•̀ᴗ•́*)…僕、個人としてはとても有り難い話しだと想っています。けれども、これは我が国を挙げての大事業です。発起人はいわずと知れたこの僕ですが、今や国策のひとつである以上、国の重責を担う者達の意向を尊守せねばなりません!僕の一存では残念ながら決める事は出来ないのです♪」


北斗ちゃんは素直にそう言葉にするよりほか方法が無かったのである。これには秦縁も理解を示した。


「⁽⁽(ღ❛ ᗜ ❛´๑)そうでしょうな!こちらも取引するなら貴方個人よりも、国と取引した方が安全でしょうからね!こんな言い方をして申し訳ないとは想うがな♪」


秦縁は落ち着いた物腰でそう答えた。そして続けてこう提案したのである。


「(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈ判った♪この話しは一旦そちらにお預け致そう。こちらとしてはあくまでも善意の申し出と申し上げておく。その上でどう判断されるかはそちら次第で結構!これで如何ですかな?…」


「…このくらいのスタンスの方が貴方も気が楽でしょう。我々はこの件の是非に拘わらず、今後共、良いお付き合いが出来ればと想っています。何しろ、俺はあんたが気に入ったのでね♪」


秦縁の緑陽石(サファイア)色の瞳はその瞬間、輝きを増した。少なくともそこに同席した北斗ちゃんも田穂にもそう感じられたのである。


⁽⁽(°ᗜ°٥)北斗ちゃんはコクリと頷く。


「これで話しは決まったな!(ღ❛ ᗜ ❛´๑)後は貴方次第という訳だ。今日はお陰様でとても有意義なひと時となった。今日はこんなところだろうな♪ではまた後日!⁽⁽ღ(・ᗜ・*)じゃあな♪」


秦縁はそう言うとあっさりと身を引いた。


彼らは門まで見送りに出た。


「(ღ❛ ᗜ ❛´๑)俺はしばらくはあそこに居る。そのうち気が向いたら益州に足を伸ばしたいと想っているところだ。それは田穂、お前にも伝えてある通りだ!いつでも暇な時に立ち寄ってくれて良い♪まぁ今後共、宜しく頼む!」


秦縁を乗せた汗血馬は勢いよく走り去って行く。二人は彼が視界から消えゆくまで手を振り見送っていた。


「田穂♪(๐•̆ ·̭ •̆๐)お前は彼をどう見る?」


呟く様にそう口をついた北斗ちゃんは、横目で田穂を眺めている。


「若君♪(ღ`⌓´٥)あっしには難しい事は判りません。じっと真険に耳を傾けていましたが、あっしにはその半分も理解出来たかどうかすら自信が無いのです!でも彼は江東にいる時にこんな事を言っていた事があります…」


「…相手にはあくまでも真摯に向き合う。そこにあるのは善意の心だ。けれども、そうひたむきに応えた結果として、後から利鞘が発生する分には、相手にも感謝され、こちらも相応の利となる…」


「…商売人の秘訣とは、相手を儲けさせてやり、自分もより大きい儲けを得る事にある。つまり常にウィンウィンの関係性を保つ事こそが肝要なのだと…この意味がお判りですか?」


「あぁ…(。˃ ᵕ ˂。)成る程!それなら判るよ♪なぜならね!それは僕の叔父である糜芳がいつも言っていた口癖だからね♪やはり商売人だね!相通ずるものがあるようだな♪有り難う、お陰様で彼の事も少し判った気がするよ!」


「否…(ღ٥`ᗜ´)੭ ੈあっしは特に何も!あっしは若君の懐刀ですからな♪お役に立つのは当然の事。お気に為さいますな…」


田穂はそう言うと笑みを湛えた。


「(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈ田穂、お前も長らくのんびりして居まい。今日は御苦労だった。ゆっくりと身体を休めるが良いぞ!お前には落ち着くまでしばらく僕の護衛を頼みたい。呼ぶまでは自由にしてて良いから、宜しく頼むよ!」


「えぇ…(*`ᗜ´)੭ ੈそういう事なら喜んで!傳士仁殿のように行くかは判りませんが、誠一杯、相務めさせていただきます♪」


「うん♪( ๑•▽•)۶”頼むね!」


「はい!(ღ٥`ᗜ´)੭ ੈでは…」


こうして田穂も引き上げて行く。北斗ちゃんは待たせてあった潘濬や劉巴と合流すべく屋敷内に踵を返した。


また新たな問題が持ち上がった事は確かであるが、運河構築に向けて、この計画により現実性が帯びた事も確かだった。


『(٥´❛ ᗜ ❛)੭⁾⁾ 今後も臨機応変にあらゆる可能性を模索せねば成るまい!』


彼はそう想い、改めて固く心に誓ったのである。

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